第21話「騎士団の訪問とコーヒーの戦場利用」
騎士団の訪問
王都ルーンハイトの空は、どこか重苦しい雰囲気をまとっていた。
戦場の報告が届くたびに、町の人々の表情も硬くなり始めている。
そんな中、KICHIJOJI COFFEEの扉が勢いよく開いた。
「店主! また来たぞ!」
店内に響くのは、騎士団長ヴァルター・レオンハルトの声。
その背後には、二人の若い騎士が控えていた。
「いらっしゃい、騎士団長」
陽翔はカウンターの奥から顔を上げる。
エレインも、いつものようにカウンター席でコーヒーを飲みながら騎士たちを見やる。
「今日は、どんなご用ですか?」
ヴァルターは椅子にどかりと腰を下ろし、テーブルを軽く叩いた。
「お前のコーヒー、戦場で飲めるようにできないか?」
「戦場で……?」
陽翔は驚いたように眉を上げた。
「長期遠征では、まともな飲み物にありつけん。お前のコーヒーは覚醒作用があるし、兵士の士気を上げるにはもってこいだ。だが、戦場ではいちいち火を焚いて豆を挽く暇がない。何とかならんか?」
陽翔は腕を組んで考え込んだ。
「……つまり、お湯さえあれば簡単に作れるものが必要、ってことですね」
「そういうことだ」
ヴァルターは腕を組み、鋭い目で陽翔を見据えた。
「これがうまくいけば、軍全体で導入することも考えられる。……店主、お前の力を貸してくれ」
***
「なるほどな……」
陽翔は棚からいくつかの器具を取り出しながら、思考を巡らせた。
戦場で手軽に飲めるコーヒー……つまり、長期保存が可能で、すぐに溶けるものが理想的だ。
「この方法なら、いけるかも」
彼は奥の部屋から、小さなガラス瓶を取り出した。
「これは?」
ヴァルターが怪訝そうに眉をひそめる。
「コーヒーエッセンスです。濃縮した液体状のコーヒーで、お湯で薄めるだけで飲めます」
陽翔は試しにエッセンスをカップに注ぎ、湯を加えた。
瞬く間にコーヒーが広がり、豊かな香りが店内に漂う。
「ほう……これはいいな」
ヴァルターは興味深げにカップを持ち上げ、一口飲んだ。
「味も悪くない……が、戦場ではガラス瓶は割れやすいな」
「それなら、もう一つ試してみますか」
陽翔は次に、細かい粉末状のものを小さな袋から取り出した。
「これはインスタントコーヒー。お湯を注ぐだけで、すぐにコーヒーが完成します」
実演してみせると、ヴァルターは驚いた表情を浮かべた。
「粉を溶かすだけで……まるで魔法だな」
「これは軽いし、持ち運びもしやすい。戦場での使用には向いているかもしれませんね」
ヴァルターはしばらく考え込んだ。
「……いいな。これは本格的に検討する価値がある」
***
「おい、陽翔」
エレインがカウンターから口を挟んだ。
「それってつまり、お前のコーヒーが軍で使われるってことか?」
「……そういうことになるかもしれないな」
陽翔が静かに答えると、エレインは複雑そうな表情を浮かべた。
「……ちょっと皮肉だな」
「どういう意味?」
「お前のコーヒーは、私たちみたいな冒険者や商人、貴族が飲んで、ゆっくりするためのものだった。
でも、それが戦場で使われるってことは……つまり、戦争を支えるものになるってことだ」
彼女の言葉に、陽翔は一瞬言葉を失った。
「たしかに、コーヒーはリラックスのためのものだと思ってたけど……」
「でも、これはこれで必要なものなんじゃないか?」
ヴァルターが腕を組みながら言う。
「戦場にいる兵士は、毎日極限状態にいる。少しでも気を引き締められるものがあれば、それだけ生き残る可能性が上がるんだ」
エレインはしばらく黙っていたが、やがて小さく息をついた。
「……まあ、どう使うかはお前ら次第だな」
ヴァルターはニヤリと笑い、陽翔を見た。
「店主、今回の試作品、少し分けてもらえるか?」
「もちろん。でも、まだ改良の余地はあると思うので、使用感を教えてください」
「よし、約束しよう」
ヴァルターはインスタントコーヒーの袋を手に取り、腰のポーチにしまった。
「さて、そろそろ行くか。店主、助かった」
そう言いながら、ヴァルターたちは店を後にした。
***
戦争の気配
騎士団が去った後、店内には静けさが戻った。
エレインは残ったコーヒーを眺めながら、小さく呟いた。
「……これから、何か変わっていくかもしれないな」
「そうかもしれない」
陽翔も、コーヒーの湯気を見つめながら答えた。
戦場でコーヒーが使われる未来。
それは、陽翔が想像していたものとは少し違うものかもしれない。
だが、この世界で生きる以上、避けられない流れもある。
陽翔はそっとカップを持ち上げ、一口コーヒーを飲んだ。




