第18話「エレインと陽翔、二人の休日」
久しぶりの休息
王都の空はどこまでも青く、穏やかな風が通りを吹き抜けていた。
戦争の影が忍び寄る中でも、今日だけはそんな気配を感じさせない穏やかな日だった。
午後になっても客足は伸びなかった。
また、茜は今日、休みを取って異世界でできた友達と外出している
「……今日は、このあとの時間は休みにしないか?」
エレインがぼそりと呟いたのは、午後のランチタイムの後だった。
「え?」
陽翔は手を止めて、彼女を見る。
「いや、何となく……少し、のんびりしたくなっただけだ」
エレインは、目を逸らしながら小さく言った。
「戦の話を聞いて、ちょっと疲れたのかもな」
「そうか……じゃあ、今日は先に閉めようか」
陽翔は看板を裏返し、「本日休業」の札を掛けた。
「じゃあ、どうする? どこか行くか?」
「ん……別にどこか行かなくてもいい。ただ、少しゆっくりしたいだけだ」
エレインはカウンターに座り、ふっと息をついた。
「じゃあ、コーヒー淹れるよ。エレインの好きなやつ」
陽翔が豆を挽き始めると、エレインは静かに彼の手元を眺めていた。
***
店内には、二人だけの静かな時間が流れていた。
陽翔は丁寧にお湯を注ぎ、香り高いコーヒーを淹れる。
エレインはカップを手に取り、ゆっくりと一口飲んだ。
「……おいしい」
「そりゃよかった」
「お前、本当に変なやつだな」
「どういう意味?」
「……おまえは私がだらけてるのを許してくれるじゃないか」
エレインは少し頬杖をつきながら、陽翔を見上げた。
「……私は、魔法戦士としてずっと戦ってきた。でも、こうしてると、本当に普通の時間を過ごしてる気がする」
陽翔は彼女の言葉を聞きながら、小さく微笑んだ。
「それなら、ずっとこうしていればいい」
エレインは驚いたように目を丸くした。
「……お前、簡単にそういうこと言うよな」
「だって、本気で思ってるから」
「……バカ」
エレインはカップを置き、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
***
物理的な距離
「なあ、やっぱり、少し外に出よう」
エレインが扉を開け、外へと歩き出す。
陽翔もそれに続いた。
王都の通りは、いつもより静かだった。
市場の活気は少し落ち着き、穏やかな時間が流れている。
エレインはふと足を止め、陽翔の方を振り返った。
「なあ、ちょっとこっち来い」
「ん?」
エレインは陽翔の腕を軽く掴み、人通りの少ない小道へと引っ張っていき、ベンチに座った。
「なんだよ、こんなところで」
陽翔も隣に座る。
「……お前、ちょっと黙ってろ」
エレインは言うなり、ふっと陽翔の肩に寄りかかった。
「……エレイン?」
「ちょっとだけ、こうさせろ」
彼女の声は、いつもより少しだけ静かだった。
陽翔は戸惑いながらも、彼女の背中にそっと手を添えた。
「大丈夫?」
「……わからない。でも、たぶん、少しだけ疲れたんだ」
陽翔は彼女の髪に目を落とし、ゆっくりと息をついた。
「じゃあ、好きなだけ休んでいいよ」
「……お前、本当におかしなやつだな」
エレインは微かに笑いながら、陽翔の胸元に顔を埋めた。
***
二人の関係の変化
しばらくの間、二人は何も言わずにいた。
通りの喧騒が遠くに聞こえ、時間がゆっくりと流れていく。
やがて、エレインがそっと顔を上げた。
「……陽翔」
「ん?」
「……私はお前と一緒になりたい」
陽翔は、優しく微笑んだ。
「…ああ、いいよ。僕でよければ」
エレインは目を閉じ、小さく頷いた。




