第17話「戦乱の気配と揺れる想い」
王都ルーンハイトの朝は、いつもと変わらず静かだった。
だが、陽翔はどこか重い空気を感じていた。
カウンター越しにエレインが外を眺めている。
「……最近、王都の門の警備が厳しくなってるな」
彼女がぽつりと呟いた。
「戦争の影響?」
陽翔が問いかけると、エレインはわずかに眉をひそめた。
「北の前線で、また戦闘があったらしい。王都は今のところ影響はないのだけど……戦闘の頻度が高まってるのは確かだ」
茜も手を止め、不安げな表情を浮かべた。
「王都が戦場になったりしませんよね……?」
「それはないと思う」
エレインはそう言いながらも、どこか不安げだった。
「でも、この店はどうなるんだ?」
「どうなるって?」
「戦がもっと激しくなれば、商人たちの流れも変わる。もしかしたら、ここにいられなくなることだって……」
エレインの言葉に、陽翔はしばらく黙った。
そして、ふっと微笑んだ。
「ここは俺の店だよ。どんなことがあっても、簡単に手放したりしない」
「……そんな簡単に言うな」
エレインはため息をつき、カップを手に取った。
「でも……それなら、私もここにいていいんだよな?」
陽翔は驚いたように彼女を見た。
「もちろん。エレインがいるのが当たり前になってるし」
「……そっか」
エレインは微かに笑った。
***
昼過ぎ。
店の前を騎士団が慌ただしく駆け抜けていくのが見えた。
「……何かあったのか?」
エレインが店の外に出る。
「わからない……でも、何か騒がしくなってるな」
陽翔も店の入り口に出た瞬間、遠くで悲鳴が上がった。
「逃げろ! 盗賊が暴れてるぞ!」
城門の方角から、武装した男たちが押し寄せてくるのが見えた。
「まずい……!」
エレインが陽翔の腕を掴む。
「陽翔、店の中に戻れ!」
「待って、でも外に逃げ遅れてる人が──」
「ダメだ!」
だが、陽翔が一歩踏み出した瞬間、暴漢の一人がナイフを振り上げ、彼に向かって突進してきた。
「陽翔!!」
***
陽翔の目の前で、銀色の刃が閃いた。
だが、その刃が彼に届くことはなかった。
「ぐあっ!」
突如、暴漢が吹き飛ばされ、石畳に転がる。
「……エレイン?」
エレインはナイフを持ったままの腕を掴み、暴漢を地面に押さえつけていた。
「何をしてる! こんな時に、お前が出て行くな!」
「でも……」
「戦えるのは私だ。お前が巻き込まれてどうする!」
エレインは陽翔を睨みつけた。
その隙に、騎士団が駆けつけ、暴漢たちは制圧されていった。
***
騒ぎが収まり、陽翔とエレインは店の中に戻った。
エレインは、静かにカウンターに座ると、深いため息をついた。
「……お前、本当に馬鹿か?」
「……ごめん」
陽翔は苦笑しながらカップを差し出した。
「コーヒー、飲む?」
エレインはそれを受け取り、小さく笑った。
「……お前は、本当に変なやつだな」
彼女は一口飲み、目を閉じる。
「陽翔、お前は戦えない。でも、お前が守ろうとしてるものは、私が守るよ」
陽翔はその言葉に、少し驚いた。
「……ありがとう」
「感謝するなら、二度と無茶はするな」
エレインはカップを置き、陽翔をじっと見つめる。
「私がここにいるのは、お前がいるからだ」
陽翔の胸が、少しだけ熱くなった。
「俺も、エレインにここにいてほしい」
エレインは、驚いたように少し目を見開いた。
「……バカ」
そう言いながらも、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべた。




