第14話「ドワーフの鍛冶職人とスマトラマンデリン」
カン、カン、カン──。
城下町の一角、鍛冶場から力強い槌音が響いていた。
真っ赤に燃える炉の前で、分厚い腕を振るう一人のドワーフがいた。
「おい! 火力を上げろ! こいつは最高級の剣に仕上げるんだ!」
ドワーフの鍛冶職人、グルン・スチールアーム。
強靭な腕と、腰まで届くもじゃもじゃの灰色の髭が特徴の職人だった。
「まったく……この街はいい酒場はあるが、気合を入れる飲み物がない。
これじゃあ、長時間の鍛冶仕事に耐えられん……」
グルンはひと息つくと、親方仲間の言葉を思い出した。
──「お前、あの異国の飲み物を出す店に行ったことあるか? なんでも、鉄の味がするような強烈な飲み物があるとか」
「鉄の味だと……?」
それが本当なら、試す価値はある。
グルンは分厚い手で拳を握ると、鍛冶場を後にした。
***
「おい! この店が例の飲み物を出す店か?」
ガラガラッ──。
勢いよく開かれた扉に、陽翔と茜が驚いた顔をした。
「い、いらっしゃいませ!」
カウンターにいたエレインが、思わず眉をひそめる。
「……また荒っぽい客が来たな」
「すまん、鍛冶師ってのは、こういう話し方が普通なんだ」
グルンはドカッと椅子に腰を下ろし、腕を組んだ。
「俺はグルン・スチールアーム。鍛冶師だ。
仕事の合間に気合の入る飲み物を探しているんだが、何かあるか?」
陽翔は一瞬考え、頷いた。
「それなら……スマトラ産マンデリンはいかがでしょう?」
***
「スマトラ……マンデリン?」
グルンが眉を上げる。
「これは、スマトラ島という場所で作られる、非常に重厚な味わいのコーヒーです」
陽翔は棚から豆の袋を取り出し、グルンの前に置いた。
「この豆は独特のアーシー…つまり大地のような香りと、スパイシーな風味が特徴です。
深煎りにすることで、より力強いコクが生まれます」
「ふむ……見せてみろ」
グルンはゴツゴツした手で豆をつまみ、目を細めた。
「……黒曜石のような豆だな」
「確かに、見た目は鉄のようですね」
エレインが興味深そうに豆を覗き込む。
「鍛冶場の熱さにも負けないような力強い味わいなので、鍛冶師にはぴったりかと」
「よし、それを飲ませてみろ」
***
陽翔は慎重に豆を挽き、ゆっくりと湯を注ぐ。
スマトラマンデリン独特のスモーキーで力強い香りが広がった。
「これは……他のコーヒーとは違うな」
グルンが鼻をひくひくさせる。
カップが差し出されると、グルンは大きな手で持ち上げ、一口飲んだ。
──濃厚でスパイシーな風味が広がる。
口の中に広がる大地のような力強さと、どっしりとしたコク。
「……ほう、これは……」
グルンは一瞬驚いたような顔をした後、豪快に笑った。
「はっはっは! これはまさしく鍛えた鋼の味だ!」
「鋼……?」
陽翔が不思議そうに聞くと、グルンは笑いながら頷いた。
「そうさ! 鍛冶師にとって、鉄を叩き、火にくぐらせ、鍛え上げるのは生きがいだ。
このコーヒーも、そんな職人魂にぴったりだ!」
エレインもカップを手に取り、一口飲む。
「……たしかに、どっしりしてるな。でも、苦いだけじゃなくて、深みがある」
「だろ? これは、単なる苦さじゃない」
グルンは満足げに頷き、陽翔の肩を叩いた。
「気に入った! これから鍛冶場でも飲ませてもらうぞ!」
「ありがとうございます」
グルンは陽翔の手をガシッと握ると、銀貨を置いた。
「よし、また来るぞ!」
***
グルンが店を去った後。
エレインはカップを片手に、カウンターにもたれかかった。
「……陽翔、お前ってすごいよな」
「え?」
「毎回、いろんな客が来て、ちゃんとその人に合ったコーヒーを出してる」
エレインはカップをくるくる回しながら、小さく笑った。エレインはほぼ毎日、店に来ている。いまでは食器の配置も覚えている。
「……お前のコーヒーが飲めるなら、私もここにいる理由になるかもな」
「……そう思ってもらえるなら嬉しいよ」
陽翔が優しく微笑むと、エレインは一瞬驚いたような表情を見せ、そっぽを向いた。
「……なんでもない」
***
茜が片付けながらクスクス笑った。
「エレインさん、素直じゃないですね」
「うるさい」
陽翔はそんな二人を見ながら、また新しい豆を準備する。
──今日も、KICHIJOJI COFFEE には様々な人が訪れる。
そして、それぞれにとって特別な一杯がある。




