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船讐  -空飛ぶ船から始まった物語-  作者: 梅犬丸
第一部 船編・獣国編
9/63

また来たのかい?

「また君、こっちに来たのかい?」


キファがセナを見下ろし、にこやかに声をかけた。

セナはすぐに腹部を押さえる。そこには短剣で刺されたはずの傷跡があり、血がわずかに滲んでいた。だが、不思議なことに痛みはない。


「な、なんだよこれ……俺、刺されたはず……」


混乱するセナに、キファは片手をひらひらさせながら軽い口調で答えた。


「あー、ごめんごめん、言い忘れてた。ここは君の意識の世界。現実の怪我はここには反映されないんだ。だから安心して。ここでは死ぬこともないよ。」


「……意識の、世界……?」


セナの目が鋭くなり、声が震える。


「そんなことより! 俺、まだゴブリンと戦ってたはずだ! キティンが危ねぇんだ、早く戻さないと!」


慌てるセナに、キファは呆れたように肩をすくめる。


「君、自分で気づいてないの? さっき、意識を失う直前にすごい魔法を放ったんだよ。あれで全部片付いた。女の子も無事だよ。」


「……魔法? 俺が? そんなはず……俺は魔法なんて……」


セナの困惑をよそに、キファは楽しそうに机の上のお茶を差し出した。


「まぁまぁ。信じられないだろうけど、事実は事実。ほら、せっかくだし一服していきなよ。僕は君と話すのが好きなんだ。」


セナは苛立ちを抑えきれず、強い口調で返す。


「悪いな。俺はくつろぐ気分じゃない。……すぐ戻らせてもらう。」


「戻るって……また“ほわほわほわ”するつもり?」


「……そうだ。」


セナは目を閉じ、心の中で“戻る”強い願いを描く。

視界がにじみ、意識が遠のき始めた。


「あ、ちょっと待って! 肝心なことをまだ――」


キファの声が遠くに響く。だが、もうセナの意識は闇に飲み込まれていた。


「……はぁ、また言いそびれちゃったなぁ。最後の“いい魔法”のこと、ちゃんと教えてあげたかったのに。」


独りごちるキファの声だけが、静かな意識世界に残された。


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