また来たのかい?
「また君、こっちに来たのかい?」
キファがセナを見下ろし、にこやかに声をかけた。
セナはすぐに腹部を押さえる。そこには短剣で刺されたはずの傷跡があり、血がわずかに滲んでいた。だが、不思議なことに痛みはない。
「な、なんだよこれ……俺、刺されたはず……」
混乱するセナに、キファは片手をひらひらさせながら軽い口調で答えた。
「あー、ごめんごめん、言い忘れてた。ここは君の意識の世界。現実の怪我はここには反映されないんだ。だから安心して。ここでは死ぬこともないよ。」
「……意識の、世界……?」
セナの目が鋭くなり、声が震える。
「そんなことより! 俺、まだゴブリンと戦ってたはずだ! キティンが危ねぇんだ、早く戻さないと!」
慌てるセナに、キファは呆れたように肩をすくめる。
「君、自分で気づいてないの? さっき、意識を失う直前にすごい魔法を放ったんだよ。あれで全部片付いた。女の子も無事だよ。」
「……魔法? 俺が? そんなはず……俺は魔法なんて……」
セナの困惑をよそに、キファは楽しそうに机の上のお茶を差し出した。
「まぁまぁ。信じられないだろうけど、事実は事実。ほら、せっかくだし一服していきなよ。僕は君と話すのが好きなんだ。」
セナは苛立ちを抑えきれず、強い口調で返す。
「悪いな。俺はくつろぐ気分じゃない。……すぐ戻らせてもらう。」
「戻るって……また“ほわほわほわ”するつもり?」
「……そうだ。」
セナは目を閉じ、心の中で“戻る”強い願いを描く。
視界がにじみ、意識が遠のき始めた。
「あ、ちょっと待って! 肝心なことをまだ――」
キファの声が遠くに響く。だが、もうセナの意識は闇に飲み込まれていた。
「……はぁ、また言いそびれちゃったなぁ。最後の“いい魔法”のこと、ちゃんと教えてあげたかったのに。」
独りごちるキファの声だけが、静かな意識世界に残された。




