一息!
セナは重い瞼を開け、ぼんやりとした視界の中で呟いた。
「……いってて……。俺、生きてるよな?死んでないよな?」
その声にすぐ反応したのは、傍らで付き添っていたキティンだった。
彼女は猫耳をピクリと揺らし、安堵の息を吐く。
「……本当に良かった。一時はもう助からないと思ったんですよ。」
セナはまだ混乱した様子で腹部に手を当て、包帯をそっと解いた。
——シュルッ。
「な……塞がってる……?どうしてだ……まさか、君が……?」
驚愕の眼差しを向けるセナに、キティンはどこか得意げに胸を張った。
「はい。私、姉みたいに高度な治癒はできませんけど、初歩の回復魔法くらいなら使えるんです。応急処置だけはしておきました。でも、失った血までは戻せませんから……しばらく安静にしてくださいね。それと、包帯はちゃんと巻き直してください。」
セナは深く頷き、柔らかな声で答える。
「……本当にありがとう。命まで救ってもらったんだ、感謝してもしきれないよ。」
「わ、私は君じゃないので!」
キティンは慌てて視線を逸らし、耳をピンと立てる。
「キティンって呼んでください!私も……セナって呼ぶので。」
照れくさそうなその様子に、セナは不思議と心が温かくなる。
「……分かった。じゃあキティンって呼ばせてもらうよ。」
一息ついたところで、キティンがふと思い出したように問いかけた。
「そういえば、セナが倒れる直前に……すごい風が吹き荒れたんですけど。あれ、最初から使えば良かったんじゃないですか?」
セナの胸にざわめきが走る。
——やっぱり、見られてたか。
「……あれは俺自身も分からないんだ。気を失いかけてたせいか、どうやって出したのか覚えてない。」
「えっ……そうなんですか?」
キティンは目を丸くしたが、すぐに真剣な眼差しに変わる。
「なら……魔法を学んでみませんか?ちょうどここに、四大属性の“火”の初級魔法が載っている本があります。それなら習得できるはずです!」
セナは戸惑いながらも本を見つめた。
「いいのか?……でも俺、魔法の知識なんてゼロだし、それに今は金もない。代金を払えって言われても……」
「もー、失礼ですね!」
キティンは頬をふくらませて、すぐに笑顔を見せた。
「そんな詐欺みたいなことしませんよ。セナが強くなれば、私も安心できますし。お互いに得がある“ウィンウィン”です!」
そう言って彼女は分厚い本を差し出す。
セナはその重みを受け止め、心からの感謝を込めて答えた。
「……ありがとう、キティン。本当に助かるよ。」
ふと気になって、セナは問いかける。
「ところで……街までは、あとどのくらいかかるんだ?」
「んー……だいたい一日くらいですね。」
「……結構かかるんだな。」
「まぁ、“何もなければ”の話ですけどね〜。」
キティンは小悪魔的に笑い、猫耳をピクピク揺らした。
セナはその言葉に胸の奥が少しざわつくのを感じた。
——本当に、この旅は一筋縄ではいかない。
彼は本を開きながら、これから待ち受ける出来事に備えるのだった。




