街への向かい道
「あの……あの……生きてますか? ……もしかして本当に死んじゃったんじゃ……す、すみません!」
耳に届いた慌ただしい声と同時に、頬に熱が走った。
――パァンッ!
「いってぇぇッ!? な、なんだよいきなり叩くことないだろ!」
セナは反射的に跳ね起き、叩かれた頬を押さえながら女性を睨みつける。
目の前にいたのは赤髪の少女。片目を覆う前髪の下で、ピクリと動く猫耳が揺れていた。
少女は胸に手を当てて、ほっと息をついた。
「よ、よかったぁ……ほんとに死んじゃったのかと思いましたよ。いきなり気を失って倒れ込んだんですから。ああ、もう心臓に悪い……」
「……心配なら叩くんじゃなくて揺すればいいだろ……」
セナが呆れた声を返すと、猫耳がぴくりと後ろに寝て、少女はむぅっと唇を尖らせた。
「じゃあ、なんで道の真ん中で突っ立ってたんですか? 馬車が来てるのに、全然どかないんですもん」
「俺も知らねぇよ……ここがどこかすらわからないんだ」
その答えに、少女は少し表情を和らげ、言葉を選ぶように告げた。
「ここは【獣人の国・西の港・ハーフェンオスト】へ向かう一本道ですよ。知らなかったんですか?」
セナはぱっと顔を上げ、目を輝かせる。
「そ、そうなのか! じゃあここは……陸? ってやつか? それとも国っていうのか?」
「……? ええと……ここはビスト大陸のセクメ州にある風鈴町のはずですけど」
困惑しながら答える少女に、セナは「あぁ」と小さくうなずき、頭を掻いた。
少女は話を切り替えるように問いかける。
「あなたも街に向かってるんですか?」
「おう、とりあえず行ってみたい! 街に行くのは初めてだしな!」
セナの素直な声に、少女はぱっと笑みを浮かべる。
「なら、私と一緒ですね。よかったら馬車に乗っていきませんか? 私みたいなか弱い女の子は、盗賊や魔物に襲われたらひとたまりもありませんから。男手があると心強いんです」
(……人を平気で轢いたやつが、よく言うよ)
セナは心の中で毒づきつつも、人のいる場所に行ける機会を逃すわけにはいかなかった。
「まぁ……うん。乗せてもらうよ」
少女は満足そうに頷き、少し誇らしげに胸を張った。
「ところで自己紹介がまだでしたね。私の名前は【ニーブリッシ・キティン】です」
「俺はグビエット・セナだ。よろしくな」
「セナさん、ですね。……ところで、出生はどちらなんですか?」
セナは言葉に詰まり、しばらく考え込んだあと、ぽつりと答える。
「出生……船、かな。雲の上の船……」
「雲の上の……船?」
キティンは一瞬ぽかんとしたが、すぐに目を細めて考え込む。
「船って水に浮かぶものでしょう? でも、雲に浮かぶ船……。聞いたことはありますね……まさか……」
その時、馬車の後ろから突然大きな音が響いた。
――ガタッ! ガタガタッ!
木の車輪がきしむ音ではない。明らかに外から何かがぶつかった音だ。
「何の音っ!?」
キティンが振り返り、鋭く声を張り上げた。馬車の後方、揺れる布の隙間から、暗い影がのぞいていた――。




