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船讐  -空飛ぶ船から始まった物語-  作者: 梅犬丸
第一部 船編・獣国編
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依頼完了

ギルドに戻った三人


ギルドの扉をくぐると、中は相変わらず活気に満ちていた。

酒場で飲み交わす冒険者たち、報酬を受け取る者、依頼を吟味する者——。


セナたちはその喧騒を抜け、まっすぐ受付へと向かった。


「依頼完了っと」


セナがグランドボアの耳を取り出し、カウンターに置くと、受付のレツェプツィオーン・ミアが手際よく確認しながら言った。


「お疲れさまでした。……これは二匹分ですね。グランドボアは本来三匹で行動する魔物なのですが、もう一匹は?」


「ああ、三匹目は別のヤツにやられた」


カナトが少し悔しそうな表情を浮かべる。


ミアが小首を傾げると、キティンが静かに呟いた。


「パルシャンウルフよ……片耳のない」


その瞬間、周囲の空気が変わった。

酒場で騒いでいた冒険者の何人かが、驚いた顔でこちらを振り向く。


「おい、今なんて言った?」


「片耳のないパルシャンウルフ……って、まさか……!」


「お前ら、遭遇したのか!?」


瞬く間に人が集まり、ざわめきが広がる。


「お、おい……なにこれ、なんかすごいことになってない?」


カナトが戸惑いながら周囲を見渡す。


「当然よ……それだけ、あの狼はヤバいってこと」


キティンは険しい顔をしていた。


セナが真剣な表情で尋ねる。


「……やっぱり、あのパルシャンウルフは特別なのか?」


その問いに、一人の冒険者が重々しく頷いた。


「ああ。あいつはな……“森主”って呼ばれてる」


「森主?」


セナが興味深そうに聞き返すと、冒険者は続けた。


「もともとあの森は、でかい蛇が主を張ってたんだがな……。一年前、パルシャンウルフの群れで何かが起きた。群れの長が変わった時、本来は起こらないはずの内部争いが起きてな……。結局、一番強いパルシャンウルフだけが生き残り、群れを離れて独りになった。それがあのウルフだ」


「……なるほどね」


セナは腕を組んだ。


「それだけの猛者なら、たしかに危険そうだな」


カナトが息を吐く。


「危険どころじゃねえよ」


別の冒険者が苦笑しながら肩をすくめる。


「沢山の目撃情報があるが、いまだに討伐されたことがない。並の冒険者じゃ手も足も出ないって話だ、だが最近あのウルフの耳だけでも吹き飛ばしたやつがいるらしい」


少しセナの周りに風が舞った気がした


「へえ……」


セナは興味深そうに呟く。


「おいおい、興味持つなよ。無事に逃げられただけでも奇跡みてぇなもんだぞ」


「……確かに、次に会ったときは、無事で済む保証はないわね」


キティンが静かに言う。


しかし、セナは少し考え込んでいた。


「だが、あいつもただの魔獣じゃない……何か目的があるように思えた」


「……どういうこと?」


カナトとキティンが同時に顔を上げる。


「狩りをしてたわけじゃない。ただ獲物を求めてたようには見えなかった」


「じゃあ、何をしてたっていうの?」


キティンの問いに、セナは少し間を置いてから言った。


「俺を笑うような目をしてた」


「笑う?」


「……ああ、まるで俺たちで遊んでるみたいに」


その言葉に、場の空気が張り詰める。


「……気味が悪いな」


カナトが小さく息を吐いた。


「普通の魔獣なら、獲物を見つけたらすぐ仕留め下がる。でもあいつは、ただ俺を見てた。挑発するみたいに……」


「……それが事実なら、余計に厄介ね」


キティンが眉をひそめる。


「ともかく、無事に帰ってこられただけでも十分ですよ」


ミアが微笑み、報酬を用意する。


「お疲れさまでした。報酬はこちらです」


ミアから袋を受け取り、三人はギルドを後にした。

袋の中には金貨が十枚ほど入っている。


「……思ったよりも多いな」


カナトが袋を揺らしながら言う。


「グランドボアはそこそこ強い魔物だしね。それに、二匹分だし」


キティンが淡々と答える。


「まあ、悪くねぇな」


セナは報酬を確認すると、そのまま袋を腰袋に押し込んだ。


ギルドの外に出ると、ひんやりとした夜風が吹いていた。


「さて、どうする? もう解散するか?」


カナトがあくびをしながら聞く。


「……いや、俺は少し歩いてくる」


セナが答えると、キティンが怪訝そうな顔をした。


「まだ考え事?」


「……まぁな」


セナは曖昧に笑うと、セナとキティンは家に帰り、カナトは自分の宿へ道を歩き始めた。


頭の中には、パルシャンウルフのことがこびりついて離れなかった。


なぜ、あの狼は俺たちを見逃したのか?


そして——


なぜ、俺を見て笑ったのか?


次に遭遇した時、それがただの偶然ではないとしたら……。


セナの背筋に寒気がした

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