依頼完了
ギルドに戻った三人
ギルドの扉をくぐると、中は相変わらず活気に満ちていた。
酒場で飲み交わす冒険者たち、報酬を受け取る者、依頼を吟味する者——。
セナたちはその喧騒を抜け、まっすぐ受付へと向かった。
「依頼完了っと」
セナがグランドボアの耳を取り出し、カウンターに置くと、受付のレツェプツィオーン・ミアが手際よく確認しながら言った。
「お疲れさまでした。……これは二匹分ですね。グランドボアは本来三匹で行動する魔物なのですが、もう一匹は?」
「ああ、三匹目は別のヤツにやられた」
カナトが少し悔しそうな表情を浮かべる。
ミアが小首を傾げると、キティンが静かに呟いた。
「パルシャンウルフよ……片耳のない」
その瞬間、周囲の空気が変わった。
酒場で騒いでいた冒険者の何人かが、驚いた顔でこちらを振り向く。
「おい、今なんて言った?」
「片耳のないパルシャンウルフ……って、まさか……!」
「お前ら、遭遇したのか!?」
瞬く間に人が集まり、ざわめきが広がる。
「お、おい……なにこれ、なんかすごいことになってない?」
カナトが戸惑いながら周囲を見渡す。
「当然よ……それだけ、あの狼はヤバいってこと」
キティンは険しい顔をしていた。
セナが真剣な表情で尋ねる。
「……やっぱり、あのパルシャンウルフは特別なのか?」
その問いに、一人の冒険者が重々しく頷いた。
「ああ。あいつはな……“森主”って呼ばれてる」
「森主?」
セナが興味深そうに聞き返すと、冒険者は続けた。
「もともとあの森は、でかい蛇が主を張ってたんだがな……。一年前、パルシャンウルフの群れで何かが起きた。群れの長が変わった時、本来は起こらないはずの内部争いが起きてな……。結局、一番強いパルシャンウルフだけが生き残り、群れを離れて独りになった。それがあのウルフだ」
「……なるほどね」
セナは腕を組んだ。
「それだけの猛者なら、たしかに危険そうだな」
カナトが息を吐く。
「危険どころじゃねえよ」
別の冒険者が苦笑しながら肩をすくめる。
「沢山の目撃情報があるが、いまだに討伐されたことがない。並の冒険者じゃ手も足も出ないって話だ、だが最近あのウルフの耳だけでも吹き飛ばしたやつがいるらしい」
少しセナの周りに風が舞った気がした
「へえ……」
セナは興味深そうに呟く。
「おいおい、興味持つなよ。無事に逃げられただけでも奇跡みてぇなもんだぞ」
「……確かに、次に会ったときは、無事で済む保証はないわね」
キティンが静かに言う。
しかし、セナは少し考え込んでいた。
「だが、あいつもただの魔獣じゃない……何か目的があるように思えた」
「……どういうこと?」
カナトとキティンが同時に顔を上げる。
「狩りをしてたわけじゃない。ただ獲物を求めてたようには見えなかった」
「じゃあ、何をしてたっていうの?」
キティンの問いに、セナは少し間を置いてから言った。
「俺を笑うような目をしてた」
「笑う?」
「……ああ、まるで俺たちで遊んでるみたいに」
その言葉に、場の空気が張り詰める。
「……気味が悪いな」
カナトが小さく息を吐いた。
「普通の魔獣なら、獲物を見つけたらすぐ仕留め下がる。でもあいつは、ただ俺を見てた。挑発するみたいに……」
「……それが事実なら、余計に厄介ね」
キティンが眉をひそめる。
「ともかく、無事に帰ってこられただけでも十分ですよ」
ミアが微笑み、報酬を用意する。
「お疲れさまでした。報酬はこちらです」
ミアから袋を受け取り、三人はギルドを後にした。
袋の中には金貨が十枚ほど入っている。
「……思ったよりも多いな」
カナトが袋を揺らしながら言う。
「グランドボアはそこそこ強い魔物だしね。それに、二匹分だし」
キティンが淡々と答える。
「まあ、悪くねぇな」
セナは報酬を確認すると、そのまま袋を腰袋に押し込んだ。
ギルドの外に出ると、ひんやりとした夜風が吹いていた。
「さて、どうする? もう解散するか?」
カナトがあくびをしながら聞く。
「……いや、俺は少し歩いてくる」
セナが答えると、キティンが怪訝そうな顔をした。
「まだ考え事?」
「……まぁな」
セナは曖昧に笑うと、セナとキティンは家に帰り、カナトは自分の宿へ道を歩き始めた。
頭の中には、パルシャンウルフのことがこびりついて離れなかった。
なぜ、あの狼は俺たちを見逃したのか?
そして——
なぜ、俺を見て笑ったのか?
次に遭遇した時、それがただの偶然ではないとしたら……。
セナの背筋に寒気がした




