グランドボア
ギルドの扉を押し開けると、すでに多くの冒険者たちがクエストボードの前に集まっていた。
セナ、キティン、カナトの三人は人混みをすり抜け、掲示板へと向かう。
「さて、どんな依頼があるかな……」
セナが並ぶ紙を眺める。
【魔物討伐】【荷物の護衛】【素材の採取】といった定番のクエストがずらりと並んでいた。
「うーん、やっぱり討伐がいいんじゃない?」
キティンが即決するように言う。
「護衛とかも面白そうだけどな」
カナトは護衛クエストの紙を指でなぞりながら言うが——。
「今回は戦いの感覚を磨くためにも、魔物の討伐にしよう」
セナが決めると、キティンが満足げに頷いた。
「なら、これがいいわ報酬も悪くないし。D級クエスト森林地帯に出る3匹のグランドボアの討伐」
紙を持って受付へ向かうと、ミアがしっかりした様子で迎えた。
「この依頼ですね?……ただ、最近グランドボアの目撃例が増えていて、初心者には少し厳しい相手かもしれません、グランドボアの耳を盛ってきていただけばその数に応じて報酬を出したます」
彼女の声には、少し心配の色が混じっていた。
「まあ、なんとかなるだろ」
セナが軽く笑うと、キティンは少し緊張した表情を浮かべた。
そこへ、豪快な笑い声とともにクロウフェルがやってくる。
「お前たち、またクエストか? いいじゃねえか! ま、気を抜くなよ」
その一言に、カナトは少し気を引き締め、キティンも背筋を伸ばした。
「心得てるよ」
セナがクエストの紙を握る
森の奥へと進むにつれ、空気が変わった。鳥の鳴き声が消え、周囲の木々がざわめくように揺れる。
「……いるな。」
カナトが低く呟いた、その瞬間——。
ゴゴゴ……ッ!
地面が震え、茂みが大きく揺れた。
次の瞬間、飛び出してきたのは——巨大な猪。
「グランドボア……やっぱりいたわね。」
キティンがごくりと唾を飲む。
だが、問題はそれだけじゃなかった。
茂みの奥、木々の間からさらに二匹のグランドボアが姿を現した。
「三匹か……ちょっと面倒だな。」
セナが剣を抜き、じりじりと距離を詰める。
そのとき——
ズドンッ!
轟音とともに、一匹のグランドボアが突進を仕掛けてきた。
「来るぞ!」
セナが横へ跳びのく。カナトが即座に正面へ踏み込み、剣を振るうが
ガキンッ!
「硬ぇ……!」
分厚い皮膚が刃を弾いた。
「なら、こっちはどう?」
キティンが素早く手を振るい
ボッ!
詠唱なしの火球が飛ぶ。
グランドボアの肩口に直撃し、毛皮が焦げた。
「よし、動きが鈍った!」
「今だ!」
セナが駆け込み、剣を振り下ろす。
ザシュッ!
喉元に深い切り込みが入り、グランドボアが苦しげにのけぞった。
「俺も行くぜ!」
カナトが勢いよく剣を振るい、止めを刺す。
一匹目、撃破。
「あと二匹!」
キティンが魔法で牽制しながら、二人が連携して攻め込む。
暴れるグランドボアをかわし、カナトが横から一閃。
セナが一瞬の隙を突いて、剣を深々と突き立てた。
二匹目も——崩れ落ちる。
「ふぅ……終わったか?」
セナが息を整え、2匹の耳を切り取った
「……あれ? 3匹いたはずじゃ?」
倒れたグランドボアの数を数えカナトが呟いた。
森の奥——血の匂いが漂う方向で、グシャッという嫌な音が響く。
そこにあったのは、無惨に縦に切り裂かれたグランドボアの死骸。
「……誰が?」
セナたちが息をのむ中
木々の間から、ヌッと現れたのは——
片耳のないパルシャンウルフ。
「……パルシャンウルフ……!」
キティンが青ざめた声を漏らす。
狼の口元には、まだ血が滴っていた。
「こいつ、グランドボアを……?」
カナトが驚愕する。
しかし、パルシャンウルフはただ獲物を狩っただけじゃなかった。
黄金の瞳がじっとセナたちを捉えている。
「……やばい、狙われてる!」
次の瞬間、音もなく跳んだ。
「逃げるぞ!」
セナが叫ぶ。
3人は一斉に駆け出した。
森の中を駆け抜ける。だが——
シュバッ!
パルシャンウルフの影が、木々の間を縫うように迫ってくる。
「速すぎる……!」
キティンが息を切らしながら叫ぶ。
振り返る余裕もない。
狼の気配が背後に迫る。
「こっちに誘導する!」
セナが機転を利かせ、狭い木々の間を駆け抜ける。
巨体を持つパルシャンウルフは、ここでは少し動きにくいはず
しかし。
一瞬、木々が途切れた場所で——
パルシャンウルフが横へ回り込んだ。
「……っ!」
牙が目の前に迫る——その瞬間。
「風障壁!」
バシュンッ!
突如、風の壁が展開され、狼の動きが一瞬止まる。
「おいおい、危ない状況かと思ったら、またこいつかよ」
フューズが現れ、風がセナの身体をすり抜けるように流れた。
「今だ!」
セナとカナトとキティンが同時に駆け出す。
ギリギリのところで、森の出口へと飛び込んだ。
ドサッ
3人は地面に転がり、荒い息をつく。
「……助かった?」
カナトが息を整えながら言う。
セナは後ろを振り返る。
パルシャンウルフの姿はない。
どうやら深追いはしてこなかったようだ。
「……危なかったわね。」
キティンが胸を押さえる。
「まったくだな……くそ、いつかあいつを……」
セナはギュッと拳を握った。
だが今は、生き延びたことを喜ぶべきだろう。
「帰るか。」
「そうね……今日はもうクタクタよ。」
こうして、彼らはギルドへと戻るのだった




