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船讐  -空飛ぶ船から始まった物語-  作者: 梅犬丸
第一部 船編・獣国編
49/63

夜道と後悔


ギルドを後にしたセナは、キティンに先に帰らせて夜の街を当てもなく歩いていた。


ひんやりとした風が頬を撫でる。昼間の喧騒が嘘のように静かで、遠くで犬が吠える声が響いていた。


[…やっぱり気になる]


片耳のないパルシャンウルフ。

なぜあいつは、俺たちを襲わずに見逃した?


そして、なぜあんな目で俺を見た?


「……考えても仕方ねぇか」


ため息をつきながら、ふと顔を上げると、ちょうど広場に差し掛かっていた。

そこには、昼間は露店が並ぶ場所だが、今はほとんどの店が閉じられている。


——ただ、一軒を除いて。


ぽつんと明かりが灯った屋台があった。

胡散臭いほど古びた木の屋台。その奥には、白髪交じりの老人がゆったりと座っている。


「……なんだ?」


セナが足を止めると、老人がにやりと笑った。


「おやおや、夜更けに珍しいお客さんだ」


枯れた声が静寂の中に響く。


「……店、やってんのか?」


「ああ、夜しかやらんがね。さあ、一杯どうだ?」


そう言って、老人は湯気の立つ茶を差し出す。


セナは一瞬迷ったが、妙に落ち着いた雰囲気に惹かれ、屋台の前に腰を下ろした。


「で、お前さん……何か考え事か?」


「……そんな顔してるか?」


「ふむ。まぁ、わしの勘ってやつさ」


老人は静かに茶をすすりながら、目を細める。


「なあ、じいさん。パルシャンウルフの“森主”って知ってるか?」


「……ほう」


老人の手が止まる。


「お前さん、あの狼を見たのか?」


「ああ……片耳のないヤツだった」


その言葉を聞いた瞬間、老人の表情がわずかに険しくなる。


「なるほど……それは、妙な話だ」


「妙?」


「いやなに、ちょっとな……」


老人はしばし沈黙し、ゆっくりと口を開いた。


「パルシャンウルフの群れは、基本的に統率が取れている。だが、“森主”はその法則から外れた異端の存在だ」


「……つまり?」


「群れを追われた者は普通、長くは生きられん。群れの支えなしに生き延びるのは難しいからな」


「それでも、あいつは生きてる」


「それどころか、強くなりすぎた。まるで何かに導かれるように」


「……何か?」


「詳しいことはわからん。ただ、お前さんが生きているのは幸運だったかもしれんぞ」


老人は茶をすすり、静かに笑う。


「気をつけるんだな。あの狼が“お前”をどう見ているのか……それが分かった時には、もう遅いかもしれん」


セナは、湯気の立つ茶を見つめながら小さく息を吐いた。


この違和感——やはり無視できない。


「……じいさん、ありがとな」


茶を飲み干し、立ち上がる。


「ほう? 何か決心でもしたか?」


「さあな。ただ、気になったことを放っとくのは性に合わねぇ」


「ふむ……そうかい」


老人は何か言いたげだったが、ただ静かに笑った。


セナは夜の街へと歩き出す。


月が、静かに空を照らしていた。


夜の街を歩きながら、セナは自分の考えを整理していた。


[……結局、あの狼は何を考えてたんだ?]


ただの魔獣なら、俺たちを獲物として襲っていたはずだ。

でも、あいつは——まるで俺たちを試すように、弄ぶように振る舞っていた。


「……確かめるしかねぇか」


セナは足を止め、夜空を見上げた。


[もう一度、森へ行く]


パルシャンウルフの“森主”——片耳のない狼に再戦をするために。


そう決めると、妙に気持ちが落ち着いた。


その時——


「どこ行くの?」


背後から静かな声がした。


セナが振り向くと、そこにはキティンが立っていた。

腕を組み、じっとこちらを見つめている。


「……ついてきたのか?」


「たまたま見かけただけよ。でも、様子がおかしかったから」


「別におかしくはねぇよ。ただ——」


「また森に行くつもりなんでしょ」


キティンはじっとセナの目を覗き込むように言った。


「……なんで分かる?」


「分かるわよ。セナはそういう性格だから」


その言葉に、セナは少しだけ目をそらす。


「……悪いが、これは俺一人で行く」


「バカ言わないで。危険だって分かってるでしょ」


「だからこそ、誰も巻き込みたくねぇんだよ」


「そんなの関係ないわよ」


キティンは苛立ったように言う。


「……セナ、私たちは仲間でしょ? なのに、一人で抱え込むの?」


「……」


「絶対、私も行くから」


セナは短く息を吐く。


「……お前がそう言うなら、止めても無駄か」


「当然よ」


キティンが微かに笑う。


「それに、一人より二人の方が安全でしょ?」


「まぁな……」


セナは苦笑しながら、もう一度夜空を見上げた。


夜明け前、セナとキティンは再び森へと足を踏み入れた。


「……前より静かね」


キティンが周囲を警戒しながら呟く。


「いや、気配はある。どこかで……こっちを見てる」


セナは背中に冷たい汗を感じながら、ゆっくりと剣の柄に手を添えた。


——その瞬間、闇の中から疾風のごとき影が飛び出した。


「来るぞッ!!」


片耳のないパルシャンウルフが、咆哮と共に襲いかかる。


セナはすぐに剣を抜いて構えたが——速い。


前回よりも明らかに、奴の動きは洗練されていた。


「くっ……!」


セナが剣を振るうが、狼はまるで嘲笑うかのように身を翻し、かわす。


[ダメだ……まともに当てられねぇ!]


一瞬の隙を突かれ、セナは背後に回り込まれる。


牙が閃き、避けきれないと思ったその時——


ドンッ!!


風斬り音と共に、風の刃が炸裂した。


「また挑んでるのか懲りないやつだな」


「っ……!? フューズ!!」


風の刃が狼の体を弾き飛ばす。

だが——


「……まだ来る!?」


狼は怯むどころか、さらに鋭い殺気を纏い、再び飛びかかってきた。


「セナ、避け……ッ!!」


キティンが咄嗟に飛び出し、セナを庇うように剣を構えた


しかし——


ガッキッ!!



狼の爪がキティン剣を折りそのままの勢いで腹部を裂いた。


「キティン!!」


彼女の体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


セナの心臓が凍りつく。


「……キティン?」


返事がない。


「おい、嘘だろ……」


彼女は微かに動いていたが、目を開くことはできなかった。


セナの体が、熱くなる、周囲の風向きが変わった


「お前……」


怒りで、視界が赤く染まる、セナの身体の周りに魔力が集まり始める


「お前……!!」


何かが弾けたセナは無意識で火球を作り出した


手にした火球が、今までとは比べものにならないほど膨れ上がる、周囲の温度がみるみる上がっていく


「フザけんなあああああああああ!!!!」


咆哮と共に、セナの火球が炸裂した。


ドオオオオオン!!!!


爆炎が森を照らし、セナの身長の何十倍もの炎柱の周りを衝撃波が吹き荒れる。


パルシャンウルフが初めて、目に見えて怯んだ。


「くそが……!」


セナは意識の遠のくキティンを抱きかかえ、その隙に森の奥へと走った。


——あの狼も、すぐには追ってこられないはず。


全力で駆け抜け、ギルドのある街へと戻る。



セナは、キティンを抱えたままギルドの前に飛び込んだ。


「誰か! キティンを……!」


その声に、ギルドの者たちが駆け寄る。


「傷が深い、すぐ治療を!」


「おいおい、一体何が……」


そして——


「……お前、また無茶したな」


低い声が響いた。


振り返ると、リオンハルトがいた。


「お前、何考えてる? いや……何も考えてないのか?」


リオンハルトが冷えた声で言う。


「……すみません、でも——」


「すまない、で済む話じゃねぇんだよ!!!」


その怒声に、ギルドの空気が凍る。


「キティンが傷ついた。お前が無茶をしたせいでな」


「それは……」


「お前、今回の件がどれだけ危なかったか……本当に分かってるのか?」


リオンハルト・クロウフェルの低く響く声が、ギルド内に緊張を走らせる。


セナは拳を握りしめたまま、何も言えなかった。


「お前、みた感じそこの嬢ちゃんがやられなかったら、次はどうなってた?」


「……」


「お前がやられてたんだよ。わかってんのか?」


「……わかってる。でも、あいつを放っておくわけには——」


「言い訳すんな、クソガキ」


ドンッ!!


リオンハルトがテーブルを拳で叩き、ギルド全体が静まり返る。


「いいか、坊主てめぇはまだガキだ。弱ぇんだよ」


「……っ!」


「自分の実力もわかってねぇくせに、命張って何がしたかった?」


「……」


「勝ちたかった? 仲間を守りたかった? 立派だなぁ、おい。けど結果はどうだ?」


リオンハルトが、ズカズカと歩み寄り、セナの襟をガシッと掴む。


「お前は傷だらけ、そこの嬢ちゃんぶっ倒れた。俺たちに迷惑かけて、お前は一体何を得た?」


セナは歯を食いしばる。


「……あの狼を倒すには、今のままじゃダメだって……思い知らされた」


「その通りだ。だが、それに気づくのが遅ぇんだよ、正直今のあいつは俺でも勝てない」


リオンハルトは深く息を吐き、掴んでいた手を離した。


「……いいか、坊主、力ってのはよ、ただ振り回せばいいもんじゃねぇ」


彼はセナの胸を拳で軽く叩く。


「制御できねぇ力なんざ、ただの爆弾だ。自分を吹っ飛ばすだけのな、すまねぇ坊主少し言いすぎた」


「……制御……」


セナは、自分が放った火球の光景を思い出した。


あの時——キティンが倒れた時——確かに、自分は何も考えられなくなっていた。


ただ、無我夢中で火球を撃った。


結果として、それは普段の自分じゃ到底出せない威力になっていた。


[……俺の魔法、あれは……]


—偶然だったのか? それとも、何か理由があるのか?


「……セナ、今日はもう休め。キティンのことは私たちが見ておく」


騒ぎを聞きつけ起きてきたカナト、優しいながらも厳しい声で言う。


セナはゆっくりとうなずき、ギルドを後にした。


しっかりと治療されて意識を取り戻したキティンを抱えてキティンの家に向かった


道中キティンはセナに話しかけた


「ごめんね、セナ私が沢山迷惑かけて、何の役にも立たなかった」


それを聞いたセナがすぐさま返した


「謝るのは俺だ、俺の勝手であれに挑み、キティンに怪我をさせてしまった」


キティンはそれを聞いて少し笑いながら言った


「でも私が意識を失う前にセナが怒ってあのウルフに一撃入れたところはかっこよかったよ」


そういうとキティンはセナの背中で寝た


家に戻った、家の中は静まり返っていた

セナはキティンをベッドに乗せ布団をかけた

セナは毛皮に倒れ込む


疲労と痛みが全身を襲い、すぐにでも眠りたかったが——


[…俺は、どうすればいい?]


頭の中がぐるぐると渦巻く。


あの狼は、強かった。


フューズの風でも倒しきれず、むしろそれを受け止めた上でさらに襲いかかってきた。


それに、あの笑うような目——まるで、戦いを楽しんでいるような。


[俺は……あいつに勝てるのか?]


無意識に握りしめた拳が震える。


[勝つには、もっと強くならないと……]


「……でも、どうやって?」


ふと、胸元に手を当てる。


キファが言っていた言葉を思い出す。


『怒りの力…』


[ ……もし、俺に怒りの力が本当にあるのなら…]



セナはゆっくりと目を閉じた。


次に戦う時、絶対に……勝つ


その時あの感じがまた来る

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