衣替え
セナがふと顔を上げて言った。
「……あれ? 俺の服って昨日取りに来いって、モーディさん言ってなかった?」
その言葉に、キティンの顔が一瞬で青ざめる。
「ほんとじゃない……! 彼女、そういうところ厳しいのに……!」
焦ったキティンはすぐに支度を始め、セナも慌てていつもの服に着替えた。そして、キティンがセナの腕を引っ張ると、二人は急いで街へと駆け出した。
10分後。
セナとキティンは、店の前で息を切らせながら立ち尽くしていた。
「つかれたぁ……」
二人同時にぼやくが、のんびりしている時間はない。キティンは気を取り直し、モーディの服屋のドアをノックした。
トントン。
静寂の中、扉がゆっくりと開く。しかし、店内の空気は異様だった。
セナは思わず足を止め、キティンに囁く。
「なあ……本当に入って大丈夫か?」
キティンはセナの背中に隠れるようにしながら、不安げに答えた。
「大丈夫じゃないかもしれない……でも、入らないと……」
意を決して中へ足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは。
机の上に足を乗せ、ハサミで椅子を叩くモーディ。
怒りを孕んだ表情とは裏腹に、彼女の声は妙に優しかった。
「あらあら……お二人さん、昨日来なかった上に、すごく仲が良さそうですねぇ……デートでもしてたんですかねぇ?」
嫌な予感がしたセナは、そっと一歩後ろへ下がろうとした。
だが、次の瞬間。
「一言ぐらいいいなさいよぉぉお! 言うことがあんでしょうがぁ!!」
轟く怒声に、キティンは「ひゃんっ!」と変な声を上げ、セナに飛びついた。
モーディはそんな二人をじとりと見つめながら、ふぅ、とため息をつく。
「まあいいわ。なぜ遅れたのか、その理由だけでも言いなさい。」
促され、キティンは少し顔を赤くしながら、恥ずかしそうに答えた。
「……セナと……寝てた?」
店内が静まり返る。
モーディは一瞬、目を丸くし、次の瞬間には、セナですら気づかない速度でキティンの背後へと回り込んでいた。
「へぇ……そう……」
バッ!
結ばれていたキティンの後ろ髪をつかみ、そのままズルズルと奥の部屋へと引きずっていく。
「え、ちょ、ちょっと待ってモーディさん!?」
「や、やだ! 助けてセナぁ!」
セナの耳に響く、モーディの怒声と、助けを求めるキティンの叫び。
だが、セナはというと。
[そういえば、昨日確かに一緒に寝たな……]
呆然と立ち尽くし、思考が止まっていた。
1時間後。
モーディが少し疲れた顔をしながら奥から出てきた。
続いて、ふらふらになったキティンが現れると、まっすぐセナに抱きつく。
モーディはそれを見て、呆れたように言った。
「……まあいいわ。これ、セナ君の新しい服ね。軽さ重視だけど、硬さもかなりあると思うわよ。」
セナが受け取ると、モーディは手をひらひらさせながら、つけ加えた。
「とりあえず、まぁ……仲良くしなさいよ。」
そして、二人を店の外へと追い出したのだった。




