友達視点⑨
翌日、ジルがカレンの行方を訪ねにやって来た。事情を知っている、私専属の侍女リタがジルを追い返した。
あれ以降、ジルは私にカレンの行方を訪ねに来なかった。
リタに何をしたか聞いても、「侍女として当然のことをしたまでです」としか答えなかった。
クォーツ家の使用人といいアンバー家の使用人といい、とても頼もしい性格をしていることに、少し笑ってしまった。
マリンとカレンの生死が分からないまま、季節は流れた。
花嫁修業の合間の休憩時間、裁縫をしていると前触れもなく、ジェイド王子がやって来た。
リタの制止する声を振り切り、私の前に来たジェイド王子は、膝をつき頭を床につけた。
「マリンの汚名を晴らす手助けをして欲しい」
ジェイド王子の申し出に私の中で、何かが切れた。
裁縫箱を王子に投げつけた。
「今さら、何を言っているのよ!?」
泣きながら、王子に手当たり次第投げた。
マリンが好きだと言ったコサージュを
カレンと一緒に作ったぬいぐるみを
マリンとカレンとおそろいで買った、ランプを
王子はそれらを避けようとしなかった。
「アンバー嬢。そなたの怒りは最もだ。私はマリンを傷つけた。だからこそ、私の手でマリンの汚名を晴らしたいんだ」
暴れ疲れきっている私に、まっすぐ翡翠色の目で私を見詰め、ジェイド王子はいった。
『ジェイド王子のまっすぐな目が好きなの』
幼い頃、マリンがはにかみながら言った言葉を思い出した。
この目をした王子なら全て任せられる。
そう思わせるような目をしていた。
私は、ジェイド王子に今まで集めた証拠を全て渡した。
その日の夜、父にこれ以上国家転覆及び王子の暗殺計画に関わることを禁じられた。
3ヶ月後、貴族会議によりバレンシア国務大臣の罪が裁かれた。
会議後、ジェイド王子たちは各々仕事をこなしながら、マリンとカレンを探していると聞いた。
しかし、その甲斐なくマリンとカレンの死亡の報せが届いた。
没落したストレンジャー男爵家の代わりに、クォーツ公爵が二人の葬儀を執り行った。
死体の無い葬儀。大勢の貴族が涙を流した。
マリンとカレンの喪があけた頃、私に新しい王妃になって欲しいと打診された。
マリンと一緒に王妃教育を受けていた私なら任せられると、国の上層で意見が一致したらしい。
『ジェイド王子を支えて欲しい』
マリンとの約束を守るべく、私は王妃になることを承諾した。
しかし、ジェイド王子はマリンとカレンの死を未だに乗り越えることはできてなかった。
マリンの従兄弟であるマーレによって無理やり生かされている状態だった。
マーレの制止を振り切り、中に入った部屋は死の臭いで溢れていた。
光を失った翡翠色の目を見て、激怒した。
「貴方はいつまでこんな生活をしているのですかっ」
ベッドに横になっている王子に、馬乗りになり怒鳴り付けた。
「いつまでこんな生活をするのか聞いているのです!!」
答えないでいる王子にイラつき、胸ぐらを掴み無理やりベッドから引きずり出した。
死にたいという王子の頬を力の限り殴った。
「貴方はどこまでバカなのですか?」
マリンの汚名を晴らしたいと言ってきた王子はどこに行った。
なぜ、今までも、今も、そしてこれからも、自分で考えもせず流れに身を任せようとするのか、分からない。
「マリンは……マリンは貴方が立派な国王になることを夢見ていました!
貴方が本気でカレンを愛しているなら自ら身を引くことさえ考えていました!貴方と婚約を解消した後は、一貴族として貴方を支える覚悟さえしていました」
マリンの気持ちを、未だに理解しない王子が
「立派は国王になる前に死ぬことを、誰が赦しても、例えマリンが、カレンが赦しても私は許しません。」
赦せなかった。
だけど同時に
「もし、挫けそうなら私がマリンの代わりに支えます。
話を聞いて欲しいのな、私がカレンの代わりに話を聞きます。
だから、どうか生きてください」
マリンの思いに答えて、生きて欲しいと思った。
王子は、私の言葉に驚いたように顔を上げた。
私がジェイド王子の婚約者になって、初めて王子は私の目を見た。
二年後、ジェイド王子はインディゴ国王から王位を譲り受け、新しい国王の即位した。
私は王妃として、ジェイド国王と手を取り合いながら、公務に勤しんだ。
ジェイドとの間に子供を作らなかった私は、けして良い王妃では無かっただろう。
しかし、私とジェイドの間には愛情を越えた友情が育まれた。
「お母様」
サロンで刺繍に勤しんでいると、燃えるように赤い髪をした少女が入ってきた。
「どうしたの?ガーネット?」
子供がいない私がとジェイドは、ジェイドの遠縁……バレンシア元国務大臣の妹の子供の娘を養子に迎えた。
バレンシア元国務大臣は極刑になり、息子は爵位を自分の従兄弟に譲り渡し、国外へ渡った。
兄の爵位放棄を最後までごねていたリリスは、陸の孤島と言われている修道院へ送られることになったと聞いている。
「お母様宛に、お手紙来てるの!」
ガーネットが差し出した手紙を受け取り、中を確認すると、思わず笑みがこぼれた。
「どうしたの?お母様?」
「なんでもないわよ、ガーネット」
私の顔を不思議そうに見上げてくるガーネットの頭を、私はなでた。
だって嬉しくもなるわ。
手紙の主は…………




