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45 俺が家で、事情を聞いているんだが

 俺が家に帰り、家のとびらを開けると、そこには家族だけではなく、ヒューク司祭とリノアの両親、バセルさんとスビリナさん、そしてもちろんリノアが集まっていた。

 ヒューク司祭の話によると、ラドンツの町の教会から使者が来て、ヒューク司祭と俺、リノアから話を聞きたいということで、ラドンツの町の教会まで来るようにとの内容の手紙が届いたのだそうだ。

 どうやらうちに来て俺を待っていたらしく、ヒューク司祭が改めて申し訳なさそうにオズベルト父さんとナーザ母さんに話をしてから手紙を差し出して、俺にも手紙のことを話してくれた。

 一応もう読めるんだけどね。

 今は部屋の中に人数が多いため、大人たちはテーブルをかこんで椅子いすに座り、子どもたちははじっこで思い思いに床に座って話を聞いている。

 少し長い話の間、アムルト兄さんは兎も角、ハワルト兄さんも大人しく聞いていた。

「はい。 どうせ手紙を出す人を出すのなら、調査する責任者みたいな人に来てもらって実際に見てもらえば早いのに何で?」

 俺は話を聞いた後で、手を上げて素朴そぼくな疑問を口にしてみた。

「教会はいろいろな国にありますが、聖王国以外ではその国に教会や神殿を置くことを認めてもらっているに過ぎない立場なのですよ」

 うん、まあそうだろうね。

「アストランの森は国が直接管理している場所ですから、教会もそう大規模に手を出すことはできません。なので、まずは状況を把握はあくする……理解するところから始めているのでしょう」

 さすがに宗教だからと言って好き勝手できるわけではないということなんだろうな。

 一応は国に対してある程度の配慮をするために、いろいろ手順をまなければならないということか。

 神殿が見つかったからと言って、その地をすぐに教会が接収せっしゅうできるわけでもない。

 あたりまえと言えば当たり前なんだろうけど。

 前世、高校生までしか生きていない俺にはピンときにくいし、複雑で難しい話をしているようだけど、大人たちの話を聞いていて、自分なりに分かったことが少しはあった。

 アストランの森やその周囲の村を含めた土地一帯はドーザリブ王国の直轄地ちょっかつち、つまりは国が直接治めている土地になっているそうだ。

 これが、一貴族の所領地であれば、爵位によってはあるいは教会が譲り受けるという形で手に入れることも可能かもしれないが、流石さすがに一国が相手となるとそうもいかない。

 ということで、まずは証拠とか根拠を集めて、森に大勢の教会関係者が入る許可や調査するための許可を国に得ようとしているわけか。

「あれっ? でもヒューク司祭はいいの?」

「そこで生活している村人と同じで、地元に密着していれば多少目をつむってもらえるのですよ」

 なるほど、ヒューク司祭がこのパスレク村に赴任ふにんを希望してきたのはそういう意味もあるのか。

 ただ単純にアストランの森に近いからというわけだけでもなかったんだね。

 結構、計画的なんだな。

「ねえ、でもやっぱり、地下神殿の発見がそんなに凄い事だったんならさあ、呼び出して話を聞くだけより、実際に一人くらい見に来た方が早いんじゃないかな?」

 俺の言葉に、周りにいた大人達は苦笑をする。

「こういうのは形式が大事でしてね。それに、わたしの説は異端でしたからね。わたしの手紙による報告だけではまだ半信半疑なのでしょう。直接会って話を聞いて、ようやく調査するための人手を割いてもらえると言った具合でしょうか」 

「でもさあ、そんなところに俺とリノアみたいな子供が行っても、信じてもらえないんじゃないかな? もし信じてもらえなければ、行く意味もないわけだし」

「それについてはもう一つ訳がありまして。各国にはそれぞれ、月の双子女神エボーナ神とボニーナ神に仕える聖女が二人いるのですが」

「確か、ドーザリブ王国の聖女は長くその席が不在でしたか?」

 オズベルト父さんが、あごに手を当てて思い出すように話す。

「ええ、月の女神に使える双子(ルナツインズ)と呼ばれる聖女様方ですが、このドーザリブの地には久しく表れていません。本来はその国ごとに一組の聖女様方が誕生し、その中から総本山である聖王国に一組が最も双子女神に近い存在として入ることになるのですが」

「でも、聖女様ってことは、女の人だよね。俺は男だよ」

「そうなんですけど、この国の教会の上層部はわらにもすがる気持ちなのでしょう。昔から、月の双子女神の加護持ちやそれらしい話を聞きつけると、手あたり次第調べていましたから」

「それで見つけたのが二人の子どもということだからですか?」

 ナーザ母さんが少し呆れたような表情を浮かべてヒューク司祭に問う。

「ええ、何となく予想は付いていたので、手紙にも、一人は男の子であることは書いておいたのですけど、返事には「念のため」と」

「はあ」

「神殿を発見したのが、二人の子どもということに教会の上層部が興味を引かれたようでして。一先ひとまずはラドンツの支部で見極めたいということなのでしょう。……二人には迷惑をかけますが、一緒にラドンツの町まで行ってはもらえないでしょうか? 二人のご両親にもお願いいたします」

 ヒューク司祭が深々と頭を下げた。

「……子どもたちをラドンツにですか。うむ、聖女候補ではないにしろ、断りたいところではありますが、神殿の事がありますし」

 オズベルト父さんの言葉に、他の親たちも考え込む。

「わたし、行っても良いよ」

「リノア!」

「リノア」

 リノアの両親のバセルさんとスビリナさんが驚いて声を上げる。

「フォルトちゃんと町に行けるんでしょ」

「こらリノア、遊びに行くわけじゃないいんだぞ」

「うん、わかってるよ」

 バセルさんのたしなめる言葉にも気にした様子はないようにリノアは笑顔で言い放つ。

 本当に分かっているんだろうか?

 それにしても、神徒がわらにもすがるって、そこは神に縋ろうよ。

 あっ、その縋るための聖女様たちが不在だから、一筋の光に救いを求めるのか。

 俺は一瞬、脳裏に神殿を見つけた時に見た、洞窟の天井の穴から差し込んできた光の筋の光景を思い浮かべていた。

 あれっ?

 何か、忘れているような?

 ……。

 まあ、いいか。

 どうせ、思い出せないのなら大した事ではないだろうし。

「俺も行くのはいいですよ。断ると大変なんでしょ?」

「それはまあ」

「……そうだな。フォルトのいうことは正しいだろう。ここで断っても神殿や森に出始めた魔物のこともある。事が事だけに、国や教会との間に変なわだかまりを作るのはこの先、パスレク村としても得策ではないだろうな」

 言いよどむヒューク司祭の言葉にオズベルト父さんが助け舟を出す。

「この後、村長にも話を通しに行こうと思っていますが、恐らくは同じような意見でしょう」

 大人たちが皆頷うなづく。

 これからパスレク村はいろいろ変わっていくことになるという。

 考え方によっては今後魔物が出没するかもしれない森に接することになるにもかかわらず、今まで魔物に関わることなく日々を過ごして来てほとんど魔物に慣れていないパスレク村の人たちにとって、対処が遅れれば甚大じんだいな被害を生みかねない。

 ただ、前世でよくは理解していなくても、歴史の授業で宗教やら政治やらが絡むとややこしくなるかもしれないという認識は持っているがゆえに、この先の穏やかな生活を祈らずにはいられない。

 矛盾むじゅんしているかもしれないけど。

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