44 俺が家に帰ると、何かいつもと雰囲気が違うんだが
アストランの森に魔物が出始めているかもしれないということが分かってから2か月程たったある日。
俺は7歳を迎えていた。
リノアから前にリノアの6歳の誕生日にアルマジラットの魔核をあげたお返しにと花の冠を貰った。
なんかちょっとくすぐったいものを感じると同時に、この世界ではあまり馴染みのなかった誕生日プレゼントの習慣を教える形になってしまったことに少し複雑な思いを持つ。
(あっ、これ、今度のリノアの誕生日にも何かあげないとダメなヤツだ)
前世の兄貴の教訓が頭を過った。
男同士だとこういうのって、あげたりあげなかったりがかなり適当なところがあるけど、女の子の場合、結構こういう所覚えているから、お前も気を付けろよと言われたことがある。
なんでも、彼女の誕生日プレゼントに去年と同じ系統のプレゼントをしたとか、忘れてたわけじゃなかったんだけど何かの記念日を簡単に済ませたとかで、かなり機嫌を損ねてしまい、機嫌を直してもらうのに、えらい大変だったとかいう、そんな話だったと思う。
……単に、前世の兄貴の彼女の性格だと思うんだけど……リノアは大丈夫だよな、まだ、6歳だし……そういう話でもないだろうし……。
◇
俺は森の浅い部分、いつもの野草取りの休憩中、いつもの考え事をする岩の上に腰を下ろしてぼんやりと、ここ最近のことを含めて振り返っていた。
日常に戻り、言いようのない漠然とした不安がある程度解消されたためか、気分は随分と楽になった気がする。
無駄に抱え込もうとしていたのかもしれない。
ヒューク司祭が町の教会に報告して、発見された地下神殿の調査と周囲の魔物の調査を依頼してくれたみたいで、一先ず、俺の心配していた魔物が入り込み始めているという現状が分かった以上、自分一人でどうにかできるだなんて思ってもいないし、後は大人に任せるしかないだろう。
多分、今まではあの地下神殿があったおかげで森に魔物が寄り付かなかったのではないかと推測できる。
けれど、去年起きた地震によって地下神殿の何らかの力が弱まったのかも知れない。
一先ずは子供達だけで森の中ほどに入る事は禁止されることになった。
日々の生活がある為、浅い部分での採取だけ認められている。
んだけど……。
どういうことなんだろうか?
そんなもやもやを抱え2か月くらい経っていた。
あれから、やっぱり魔物に遭遇したという話は全く聞いていない。
それでも原因が分かった事で取り敢えず気持ちが落ち着いた、つもりだ。
……やっぱり、思考がループしている時点で、少し、釈然としない思いが心に残っていないわけではないけど。
「休憩、終わり!」
俺は気分を変えるため、軽く両頬を叩き勢い良く立ち上がる。
それから、野草取りの続きを再開した。
日頃の野草の採取のついでに薪になりそうな木も集めて、空間収納に入れておく。
後で家に帰ってから、こっそり分からない程度に足していくようにしている。
少しは親の手伝いになっていると良いけど。
◇
「よっと」
俺は太い木の枝から枝へと飛び移る。
身体能力がかなり上がってきている。
同年代の子供からするとかなり飛び抜けているみたいだし、大人と比べてもそれなりの感じがしている。
というより前世の日本で生きていた時よりもかなり高いと思う。
前世も小さいころからスポーツクラブや近くのアスレチック公園なんかで結構いろいろ無茶なことをやったりしていたから、運動神経はそれなりにいいと思っていたんだけど、流石に木から木へとこれだけ自在に飛び移ったり、アニメで見たような三角跳びで木を登っていったりができるとは自分でも驚いた。
何となくできそうだなあと思ってやってみたら、何回か失敗した後、コツを掴むと意外とあっさりできるようになったし。
これも薄紫髪ツインテール天使のパスティエルの言っていたステータスを上げておいてくれたおかげなのだろう。
一応普段は目立たない様にはしているので、周りの子供達に合わせる様にはしているけど、周りに他の人の目がない時には訓練がてらこの通りだ。
森も外れに近くなり、そろそろ村の人にも出会いそうなので、俺は地面に飛び降りる。
土を踏み締め、地面を蹴って、森を抜けて村の麦畑へと走りだす。
この時期の麦畑は大分刈り取られ、少し寂しい感じがしてしまう。
前世だと麦は初夏あたりが収穫時期だという話を聞いたような気がするけど、この世界の麦は秋の半ばから晩秋に掛けてあたりが収穫時期になる。
日本だと麦畑より田園風景の方が馴染みがあるから、俺はどちらかと言えばこっちの収穫時期の方がイメージとして違和感がない。
もしかしたら、他の品種があって前世と同じサイクルのものもあるのかもしれないけれど。
「ただいま!」
家に着き、扉を開けると、そこにはうちの家族だけじゃなく、ヒューク司祭、リノアのお父さんのバセルさんとお母さんのスビリナさん、そしてリノアが集まっていた。
「お帰り、フォルトちゃん!」
「「お帰り、フォルト」」
「戻ってきたか、フォルト」
「待っていましたよフォルト君」
「えっ、? 俺を? ……何か俺、やっちゃったかな?」
リノアや兄さんたちの声とは違い、ヒューク司祭のいつもと違う真剣な声や、他の大人たちのただならぬ雰囲気に、俺は少し気圧されて何かやらかしてしまったかと身構えてしまう。
その俺の雰囲気を察したのか、ヒューク司祭が少し雰囲気を緩める。
「ああ、違いますよ。……実はラドンツの町の教会からフォルト君とリノアさんに話が聞きたいというお手紙が来ましてね」




