46 俺が町に向かって、旅をすることになったんだが
あの後話し合いの結果、ヒューク司祭と共にオズベルト父さんが俺とリノアと一緒にラドンツの町に保護者代表として付いてきてくれることになった。
まさか、二家族全員で行くわけにもいかないし、かといってヒューク司祭だけに任せる訳にもいかないということで、一線から退いてはいるとはいえ、Bランク冒険者のオズベルト父さんが一番適任ということで付き添ってくれることで落ち着いた。
俺とリノアが行くことは基本的に決定だし。
決まった後、リノアの両親、お父さんのバセルさんとお母さんのスビリナさんがオズベルト父さんにくれぐれも娘をよろしくと頭を下げていた。
知り合いと一緒とはいえ、6歳の小さな女の子を一人で旅させるのだから、両親も心配でしょうがないだろう。
本来は教会の要請に強制力はないらしい。
村の人は必ずしも信徒ではないからだし、信徒でも日ごろから教会に直接かかわっていなければそこまで厳格なものでもないようだ。
だから断ることもできる訳だが、そこは世の中の事情というやつだろう。
自分が前世、学生として学んできた歴史と同じで、この世界でも宗教は国の中でそれなりに大きな影響力を持っている。
ただ、このドーザリブ王国は国教として一つの宗教を定めるのではなく、複数の神を認めている。
前世では珍しいようにも思えるが、実際に神の力が身近に感じられ、ごく当たり前に魔法が存在する世界では一柱だけを信仰することも大事だが、他の神々も疎かにすることはできないという考え方もまた存在していて、こういった国教を定めていない国や、定めていても他の神々も認めている国は結構多いそうだ。
たまたまパスレク村には月の双子女神エボーナ神とボニーナ神を祀る教会しかなかったから今更気にもしていなかっただけで、前世、比較的何でもアリな宗教観の日本人だった俺からすると、そっちの方がしっくりくる。
きっと、町に行けば他の神々を祀った神殿だの教会だのがあるのだろう。
そういえば、俺をこの世界に転生させてくれた薄紫髪ツインテール少女天使のパスティエルは元気だろうか? それとカニも……。
天界の天使に元気も何もないか。
確かうろ覚えだけど、この世界への異世界転生をすることになった時に説明を受けた部屋が、古代神殿風のセットみたいなのがある部屋だったよな。
俺たちが見つけた地下神殿も、前の世界の天界の通路に似ていたし、この世界の神殿なんかも、前の世界の神殿に似ているんだろうか?
その後、ヒューク司祭とオズベルト父さん、それに俺とリノアが村長のエドワードさんの家に行って、教会への報告にラドンツの町まで俺たちが行かなくてはならなくなったことを話した。
まあ、とはいっても俺とリノアは付いていっただけだけど。
予想通り、エドワード村長もパスレク村としてあまり事を大きくしたくはないということで、説明に行けばそれで済むのであればと了承してくれた。
後は国と教会の間で話がなされるのだろうけど、結構大きな話になってんだなあとぼんやり思う。
まあ前世で言えば、地下神殿の発見は世界遺産とか歴史遺産とか言われるものなわけで、当たり前と言えば当たり前なんだろうけど、なんかファンタジーRPGっぽいという感覚の抜けない俺からすると、この世界の遺跡って普通にあちこちにありそうな感じだと思ってしまった。
ゲームはそんなにしていたわけじゃないけど、どうやら周りの友達に毒されていたようだ。
それから、行くのであれば早い方がいいだろうということで、旅の準備が急いで行なわれている。
ナーザ母さんもてきぱきと俺の旅支度を整えてくれた。
流石は現役から退いているとはいえBランク冒険者の両親。
◇
冬に差し掛かろうとしている良く晴れたある日。
出発前、アグレインとデミスには、俺がラドンツの町に行くことについて文句を言われた。
まあ、決まってから皆に知らせて以降、ここ数日、顔を合わせるたびに言われてたんだけどな。
「フォルトだけズリいよ!」
「そうだよな」
俺は荷馬車の前で何度目かもわからない二人の文句を聞いている。
「いや、リノアも一緒だし」
それだとリノアもズリいことになるのだが、そのことはいいのか?
「気を付けてね。あっ、帰ってきたら町の話いっぱい聞かせてね」
「元気でね」
「心配しなくてもフォルトちゃんもいっしょだからだいじょうぶだよ」
リノアは仲の良いシスカとククルにしばしの別れの挨拶をしていた。
大袈裟に聞こえるかもしれないけれども、この世界の旅はかなり大変のようだ。
ちょっとした大きな町に村から行くのにも往復で数週間から1ヶ月くらいは見ないといけない。
少し離れた所を見れば、ミリアーナさんがヒューク司祭に何やら話している光景が映った。
大きい袋やら木箱やら何やらいくつか荷物を渡しているようだけど。
オズベルト父さんは慣れた様子で荷馬車を引く馬の状態を確認していた。
俺はその様子を見ようとオズベルト父さんの傍に行く。
オズベルト父さんはゆっくりと優しく馬の身体を撫でている。
気のせいかもしれないけれど、馬もなんだか気持ちよさそうに目を細めている気がするように見えた。
「そろそろ、出発するか」
近付いた俺に気が付いて、オズベルト父さんが振り返り、声をかけてきた。
「うん」
ヒューク司祭とリノアも挨拶を済ませたのか、集まってくる。
俺はリノアに手を貸してやり、リノアを荷台に引き上げた。
「「行ってきまーす!」」
俺とリノアは皆に向かって大きく手を振る。
見送りに来てくれた人たちも手を振り返してくれた。
それと同時に荷馬車がゆっくりと動き出す。
ヒューク司祭とオズベルト父さん、それにリノアと俺はラドンツの町に向けて馬車を走らせ始めた。




