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37 俺が思い付きでしたことが、どうやら裏目に出ていたようなんんだが

 俺は女神さまたちの石像が倒れている大広間へと一人で走って戻ってきていた。

 さっきと同じで清浄な空気というべきか、厳粛げんしゅくとした雰囲気がただよっている。

 俺が思いついた事。

 それは倒れている女神様たちの石像を、空間収納を使って元の位置に戻せるんじゃないかという事だ。

 早速、俺は女神様の石像の一体に近づいて手をかざしてみた。

 それから空間収納に入れるイメージを浮かべる。

 ……。

 あれっ?

 入らない。

 もう一度。

 ……。

 反応しないや。

 大きすぎて無理なんだろうか?

 う~ん、やっぱダメかな?

 俺は腕を組んで考える。

 容量が足らない?

 そうだ。空間収納の中に入っているものを一旦全部出してから、もう一度試してみよう。

「女神様たちすみません。容量が足らないみたいなんで床汚しちゃうかもしれないけど、中身を一旦床に出させてもらいますね」

 俺はそう言うと空間収納に入れてあった石や木や土、他の草とは分けておいた薬草や食べられる野草、キノコなんかを部屋の隅にできるだけ床を汚さないように次々と積み上げた。

 意外と入っていたな。

 手あたり次第収納していたから仕方がないか。

 でも、川で汲んでいた水はどうしようか?

 火事の一見以来、川の水はそれなりに容量を入れておくようにしているし。

 さすがに量が多すぎていったんめて置けるような場所はなさそうだ。

 ここで出すと水びだしだし……よし、台座を掃除するのに使おう。どうせ水浸しになるならその方がマシだろうから。

 女神像は空間収納にいれれば綺麗になるしな。

「女神さま達、台座掃除しようと思うんだけど、ちょっと水浸しになっちゃうけど許してな」

 俺は一言女神さまたちの石像に断りを入れてから台座の上に上ると、右手をかざし空間収納の『水』の階層から水を放出するイメージを頭に浮かべる。

 まあ、火事の時と同じで噴射とか、離れた所に出現とかはできないので、かざした右手の手前から少し勢いが付いて出るだけなんだけど。


 バシャーーーッ!


 あっ、加減を間違えた。

 台座の床がビシャビシャだ。

 火事の時と違い、量は加減しながら出さなければいけなかったんだけれど。

 ……液体のせいか、感覚と実際の容量が合っていなかったみたいで思っていたより入っていた様で。

「ご、ごめんなさい」

 思わず動揺して石像に向かって謝ってしまった

 とっ、とりあえず、一先ず女神さま達に謝ってから、一体ずつ空間収納に入れては元の台座の位置に戻していく。

 流石に2体いっぺんに空間収納に収納するのは今の段階では無理だったけど、一体ずつなら入れることができた。

 普通だったら動かすだけでも何十人何百人とかかるはずだけど、空間収納に入りさえすれば、重い物でも動かして置き直すのも簡単に行うことが出来るということが実感できた。

 これは後々応用ができそうだ。

「これで元通りっと。後は入れてた物を元に戻してっ」

 直した2体の女神像をあおぎ見る。

 さすがに迫力があるな。

 んっ? あれは?

 2体の女神像がふさぐように横たわっていたので隠れて気が付かなかったけど、台座と台座の間に小さな祭壇のような場所があった。

「なんだろう?」

 なんかおそなえ物をするところみたいだな。

 おそなえ物かあ。

 そういえば、前世、小さい頃に田舎の婆ちゃんのところに行った時、よく一緒に散歩していた途中、道端のお地蔵様におそなえ物をしてたっけ。

 あっ、そうだ。

 俺は空間収納に入っているあるものを取り出す。

 それはチーズとハチミツと砂糖だ。

 女神様たちも女性だから甘いものは好きだと思う。

 勝手な思い込みだけど。

 祭壇をよごすわけにもいかないから、チーズの入っていた空き箱を分解して簡単なお皿を作り、チーズとハチミツと砂糖を少しずつ2つに分けておそなえする。

「女神様方どうぞ。前世の俺の世界の食べ物ですが」

 こっちにも同じものはあるけれど、一応(ことわ)っておく。

 この世界のいのり方は両手の指を組むのだけど、思わずおばあちゃんと一緒におそなえ物をしていた時の仏前のように両手を合わせるおがみ方をしてしまった。

 まあ、いいか。

 そのまま目をつむっておがんでいる。

 すると、時折感じる身体にまとわりつくような感覚が、いつもより少し強く感じられるような気がした。

 集中して目をつぶっているからだろうか?

 その時、頭の中に声が聞こえた気がした。

『ありがとう』

(えっ?)

 手を合わすのを止め、目を開けて祭壇を見る。

 すると、祭壇の上の方、天井付近にあわい紫色の光がユラユラと揺れながらのぼっていくように見えた。

「なんだろうかあれは?」

 一度、目をパチクリさせて目をこすってからもう一度天井を見上げてみる。

 何もない?

 目に見えるのは特に変わった所のない石造りの天井が広がっているだけだった。

「あれ?」

 俺はしばしポカンとしたまま天井をながめていた。

 ただの目の錯覚?

 急に眼を開けて光に目が慣れてなかっただけだろうか?

 それともただの気のせいだろうか?

 だけど、声が聞こえた気がした。

 でも、男の人の声だったきがするけど?

 おだやかで優し気な声だったように聞こえた。

 もしかしたら神様が何かしたのかもしれないかな?

 この世界は神様の力も干渉しているし、魔法も存在するし。

(どっちにしても、お供え物、気に入ってくれたなら良かったけど)

「おーい、フォルトちゃ~ん!」

「はっ! 急いで戻らないと」

 呑気のんきにそんなことを考えていたら、ちょっと時間をかけすぎたかもしれない。

 洞窟の天井の穴の方からかすかにリノアの声が聞こえてきて我に返る。

 俺はあわてて、部屋の隅に積み上げていた物を空間収納にしまい込んでいく。

「これでよし!」

 すぐに帰ろうかと出口に向かおうとしてから気が付いて再び女神像の前に行き、空間収納から綺麗きれいと思える花を取り出してそれぞれの女神像の前におそなえしてみた。

 『草』の分類では無く『薬』の分類に分けて入れておいたイヤシンスの花を取り出してお供えする。

 これも前世、田舎の婆ちゃんが一緒に散歩していた時に道端のお地蔵さまによくやっていた事の真似事だ。

 そうして今度こそ出口に向かい、ヒューク司祭とリノアの元へと走り出した。


   ◇


   - 大広間、二体の女神像が淡く光を帯び始め、おそなえしてあった物や花が不意に消える -


『訪れる者もいなくなって久しいこの地』

『地震による損壊を期にこの地の守護もそろそろ終わろうかと思いましたが』

『なかなか面白そうな者達よ』

『そうですね』

『それとあのヌコンの欠片かけらが反応したわらべは』

『ええ、地球側の神、サホックとの遊戯の勝利の対価として贈られた者にまちがいないでしょう』

『この地の見護りもそろそろやめようと思うたが』

『暫し、あの者達を見届けるとしましょうか』

『あの者達に良き未来を』

『あの者達に良き出会いを』

『『それと、今暫し、この地に安寧あんねいを』』


   ◇


「お待たせ!」

 俺は洞窟の天井の開いた場所まで急いで戻ってくると、穴の入り口に向かって声を上げた。

何処どこへ行っていたんですか? 早く上がってこないと危険かもしれません」

「そうだよフォルトちゃん、はやく登っておいでよ」

穴の上からそう言ってくるが、さっきまで興奮して喜々としてこの穴の中に降りて来て神殿の遺跡を目に感動していたヒューク司祭の様子を思い浮かべて思わず苦笑してしまう。

「すみません。今から登ります!」

 俺はロープを身体にくくり付けて結ぶと上の方を持ち、跳び上がってロープにしがみ付いて登り始めた。

 前世の学校の体育館にあったから、俺は結構これが得意だった。

 休み時間に勝手に引っ張り出して、ただ登るだけじゃなくて誰が一番早く天井までたどり着けるかを競争したり、手の力だけで何処どこまで登れるかを競ったりしたことを思い出す。

 ロープをのぼりながら今日あったことを振り返ってみる。

 ヒューク司祭の後をこっそりつけて、リノアにつけられてて、森の奥を散策して、大地震があって、アシュランベアに襲われて、穴に落ちて、ボムビックアントの群れに追いかけられて、ヒューク司祭が探し続けていた神殿の遺跡を見つけた。

 今思い返してみればすごくご近所だったけど、前世では経験する事もないようなちょっとした冒険だったのかもしれない。

 冒険か……。

 手放しで喜ぶことはできないけれど、アストランの森に魔物が出るようになったことが確認できた。

 おそらくだけど、子供たちが入れるようになる範囲は大分限られることになるだろうと予想が付く。

 けど、森の浅い部分で弱い魔物なら、遭遇できる可能性が出てきた。

 不謹慎ふきんしんかもしれないけれど、全く可能性のなかった前に比べれば、俺としてははるかに期待が持てる。

 確認できたんだから、あせることはないし。

 さあ、これから魔物をいっぱい狩って地球の品物をたくさん手に入れよう!

 なんて、ちょっと浮かれ過ぎかな俺?

 あっ、しまった。せっかく神殿に来たんだから、その事もお祈りしてくればよかったか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地雷メンヘラヒロインもどきさん、フォルトママに弟子入りしてない?(ロープ登れるとか、つけられてたのに気づかなかった辺りから思うに) ダメだよ、ママさん他人の子(の恋心)より自分の息子…
[一言] >『草』の分類では無く『薬』の分類に分けて入れておいたイヤシンスの花を取り出してお供えする。  これも前世、田舎の婆ちゃんが一緒に散歩していた時に道端のお地蔵さまによくやっていた事の真似事だ…
[一言] フォルト君が早く、魔物を倒して地球産物で無双するのを楽しみにしています。 「司祭」が「市債」になっている箇所がありました。
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