38 俺が村に戻ってから、オズベルト父さんに怒られているのだが
地下神殿遺跡の大穴を無事登り切ると太陽はそろそろ傾きかけようとしてきていた。
日が落ちきる前に脱出できたこと、というより、その日の内にこんな大穴から抜け出せたことは冷静に考えて本当に運が良かったのだろうと思う。
ヒューク司祭の言いようではないけれど、改めて、神殿遺跡の月の双子女神エボーナ神とボニーナ神に感謝だな。
地上に上った後、日の光の下で、ヒューク司祭は俺とリノアに怪我がないかを確認して、念のためと言って俺たちに治癒の魔法をかけてくれた。
「俺たちより、ヒューク司祭が自分で使った方が良いんじゃないですか?」
「私はミリアーナが作ってくれた治癒のポーションを飲みましたから。治癒の魔法は自分には効き目が薄いんですよ。この力は自分ではなく他人を癒すための力なのです」
ヒューク司祭は穏やかに微笑んで言った。
「なら、それでも、全く効果がないというわけではないですよね?」
それでも俺は食い下がる。
大穴をロープで昇り降りしていたから大丈夫だとは思うけど、あの時のヒューク司祭は俺たちを逃がすためにアシュランベアと対峙したり、長い間探し求めていた神殿の手がかりが見つかったかも知れないという興奮状態だったからな。
恐らくはスポーツでよく言われるアドレナリンとかドーパミンとかエンドルフィンとかがたくさん出ていて、痛みが麻痺していたに違いない。
安易に安心はできないと思う。
俺にも経験がある。
前世、夢中になって好きな運動をしているとき、激突して怪我をしていても、そのまま平気な顔をしてプレイし続けたことがある。
実際その時は痛みも感じず動けていたんだけど。
後になって、物凄い腫れて痛みも凄くて大変なことになったことがある。
結局、あのときは骨に罅がはいっていたんだけれど。
「ええ、まあ」
「なら、かけた方がいいよ!」
リノアもヒューク司祭のことが心配なようで俺に賛成する。
「そうですね。そうしましょうか」
俺とリノアの真剣な言葉に苦笑しながら、それでもちゃんと自分自身にも治癒魔法をかけてくれた。
そうして三人でパスレク村への帰途に着く。
「そういえば、地震!」
思わずいろいろなことがあった興奮から忘れていたけれど、大地震が2回あったんだよな。
ちょっとした冒険というには一歩間違えていればかなり危険と隣り合わせだった冒険に少し浮かれていたせいで、すっかり頭から抜け落ちていた。
村は大丈夫だっただろうか?
「ヒューク司祭、村は大丈夫かな?」
「そうですね。急いで戻りましょう」
俺とリノアとヒューク司祭は歩く速さを上げてパスレク村に急いだ。
「お母さんとお父さんとお姉ちゃん、大丈夫かな?」
「きっと、二人を守ってくれたようにエボーナ様とボニーナ様が守ってくださいますよ」
「うん」
急に家族が心配になったのだろう。
リノアが不安げに俺の手をギュッと握りながら、ヒューク司祭に聞いていた。
その気持ちは分かる。
大地が大きく揺れるという得体のしれない恐怖感。
未知のものへの不安。
地震など起こったことがなかったというこの地域の人たちと違い、俺は前世の地震大国だった日本に生きていたという記憶があるからまだ心構えができる。
知識だけとはいえ、前世高校生までしか生きた記憶のない俺ですら知っている耐震技術なんて考え方、当然この地域にはないだろうから、建物が壊れず、中にいる人たちが無事か心配だ。
以前に起きた地震では他の家も精々物が落ちた程度で済んでいたみたいだけど、今回は大丈夫だっただろうか?
はやる気持ちを抑えて、アストランの森をパスレク村へと急いだ。
◇
結果的には大丈夫だった。
かなり揺れはしたみたいだけれども、俺たちが感じたほどの揺れではなかったらしい。
村に着くと、あちらこちらで何人かが固まって話をしている様子が見られたが、被害が出て大騒ぎという感じではなく、驚いて外に出てきて集まっているという様子に見える。
精々物が落ちた程度らしい。
森の奥だったとはいえ、そんなに離れてはいないはずなんだけど。
えっと、確かこういう地震のタイプを直下型地震っていうんだっけ?
比較的狭い範囲内だけれど、その地域の揺れは激しくなるんだっけか?
でも、海側のプレートとか、陸側のプレートとかあったような。
この辺、海はないし。
あと、縦揺れとか、横揺れとか。
そういうのは関係ないのかな?
何はともあれ、村に被害らしい被害がなかったのは良かったことでホッとする。
だけど、そのあと何があったかをオズベルト父さんたちに話したら、すごく怒られた。
「今までは留まらなければならなかったり、自分自身だけの問題だったが、今回は下手をしなくてもリノアちゃんを死なせていたかもしれなかったんだぞ」
その言葉が俺の胸に重く突き刺さる。
確かにそのとおりだ。
6本腕の魔物のアシュランベアに襲われ、深い洞窟の穴に落ち、大型の蟻の魔物のボムビックアントに追いかけられた。
どれをとっても本当に死んでいてもおかしくないことだらけだ。
結果オーライ、ではすまされない。
不用意な行動。
軽率な判断。
どうすれば正しかったんだろうか?
前世の教訓とか、経験とか。
ちゃんと見つめなおして、次に生かさないといけない。
(次?)
自分が次を考えている事に少し驚いた。
苦笑。
「ちゃんと聞いているのかフォルト!」
「痛たたっ!」
俺が気を散らしているのが分かったのか、オズベルト父さんが俺の頭をグリグリする。
「ごめんなさい」
素直に謝る。
今回は本当に自分の軽率な行動が原因だった。
真剣に心配して怒ってくれていることが伝わってくる。
なんだか、胸の奥が温かい。
そう感じてしまうのはおかしいだろうか?
ふと、少し離れた場所を横目で見ると、ヒューク司祭もミリアーナさんに怒られていた。
前世の俺が死んだときの高校生くらいの年のミリアーナさんに怒られて小さくなっている40くらいのヒューク司祭を姿は何か子供っぽくてちょっとホッコリする。
「聞いているのかフォルト!」
「痛たたたたっ!」
また、頭をグリグリされた。




