39 俺が見たのは、ミリアーナ先生の珍しい様子だったのだが
パスレク村に帰ってきて早々、俺はオズベルト父さんに、ヒューク司祭はミリアーナさんに怒られていた。
俺が怒られ終わった後、ヒューク司祭の方を見れば、まだミリアーナさんのお説教が続いている。
どうでもいいことだけど、見ていて何となく思ったのは今はミリアーナ先生ではなく、ミリアーナさんといった方がしっくりくるということだった。
正直、この光景は珍しい。
と、言うか、初めて見た。
普段、ミリアーナさんは助祭見習いとしてヒューク司祭を手伝っているおっとり温厚なお姉さんというイメージが強い。
前世で俺が生きた年齢と同じか少し上という感覚から見てもおっとり系の先輩って感じだ。
そのミリアーナさんが大の大人のヒューク司祭に真っ赤な顔をして一生懸命怒っている。
なんだか可愛い。
傍から見ていれば、クリっとしているがややタレ目がちの青い目に、明るい緑色の長いゆるふわヘアのミリアーナさんが、頬を膨らませて怒っても殆ど迫力はないのだが、ヒューク司祭は本当に申し訳なさそうに小さくなって聞いている。
俺やリノアを庇ってくれたのは感謝しているし、その事はちゃんとオズベルト父さんたちに話した。
けど、その後の行動は確かにいただけない。
長い間探し求めていた神殿を見つけて ヒューク司祭はいてもたってもいられなかったのだろう。
怒られている仲間意識はあるけど、その辺は自分もどうなんだろうと思っていたから、同情できないところも確かにあるので生暖かい目で見ている。
聞こえてくる会話から、治癒のポーションを使った話になった時、 ミリアーナさんの顔が急に青くなり、慌ててペタペタとヒューク司祭の身体を触って無事かどうかを確認し始めた。
そのあと、今度は涙目になって抗議しているミリアーナさんの姿がなんかやっぱりちょっとかわいいと思った。
怒っているときも思ったけど、前世の感覚が残っている俺としてはミリアーナさんは一学年上の優しい先輩のイメージが強い。
そんな普段教会で、おっとりフワフワな感じでニコニコしているミリアーナさんの珍しい様子に頬が自然と緩む。
ふと、隣りで気配がした。
見ると、なんだかリノアが頬を膨らませて唇を尖らせている。
「どうしたリノア?」
「べ~つに」
変なヤツ?
そういえば、俺に付いてきただけとはいえ、リノアは両親に心配されただけで、特に怒られていた様子はなかったように思える。
うーん、やっぱり男の事女の子の違いだろうか?
そんなことを考えていると、しばらくしてミリアーナさんのお説教も一段落ついたみたいで、皆それぞれ家路につくことになった。
◇
それから数日。
俺たちは日常の生活の中にいた。
予想通りというか、複数の魔物が出たというヒューク司祭の報告があってからは森の浅い部分にも子供たちだけでは入れなくなっている。
大人たちが町まで行って冒険者に森の探索を依頼するかどうか話し合っているらしい。
それまでの対処法として、村に住むオズベルト父さんやヒューク司祭をはじめとする何人かの元冒険者の人たちで森の巡回を強化することになったそうだ。
ナーザ母さんも参加するらしい。
正確に言うと、Bランクの冒険者資格を持つ、オズベルト父さんとナーザ母さんは今でも現役冒険者の資格を持っているそうだ。
なんでも通常の冒険者は決まった間に一定数の依頼をこなすことで冒険者資格の更新を行う決まりになっているらしい。
これはランクが上がるとともに、次の更新までの期間が延びるとのことだ。
まあ、普通に稼がなくてはいけないから、ちゃんと依頼を受けていれば更新は気にしなくてもいいだろうし、冒険者で生活している人にとって見れば、あまり意味のある決まりではないのかもしれない。
登録だけとか、サボり防止とかかな?
そして、Bランク以上の冒険者にはこの更新期間がなくなるという特典があるんだって。
ただ、いろいろとあるみたいで。
例えば町にいるとギルドの役職についてほしいとか、緊急時に問答無用で招集されるとか。
前世で高校生までしか生きたことがないから社会に出て働いたことがなくて、あまりよくは分からないけれど、冒険者にも所謂、面倒な柵というものがあるのだろう。
もしかして、中間管理職みたいなものがあるのかな?
冒険者って一見、自由なイメージがあるけれど、やっぱりそれはそれでそうでもないらしい。
意外だったのは教会の助祭見習いのミリアーナさんもこの巡回に参加することになっていた。
なんと、ミリアーナさんも冒険者資格を持っているそうだ。
Bランク冒険者のオズベルト父さんとナーザ母さんは別として、つまりは現役冒険者!
こんな近くに!
オズベルト父さんの話では冒険者資格は15歳からとれるそうで、ミリアーナさんは町の学校に行っていたからその時に取ったのだろうと言っていた。
ランクはE。
更新期間は3年。
下から2番目だけど、卒業してから村に戻ってくるまでの活動期間が短い割には良く上げた方だと言っていた。
今日はオズベルト父さんとナーザ母さんが揃って森に巡回に行く日だったので俺もついでに見送りについていった。
そこには同じく今日の当番らしいミリアーナさんも来て待っていた。
今日のミリアーナさんはいつもと違う服装をしている。
いつものゆったりとした修道服ではなくて、革のブーツに膝丈くらいの紺色のスカート、白い上着の首元には赤いリボンが巻かれている。
これって、まるで……。
「かわいい!」
一緒に見送りについてきたリノアが興奮気味に叫ぶ。
「ミリアーナせんせい?」
俺が不思議そうな顔で尋ねたのに気付いたのか、ミリアーナ先生がにこやかに微笑んで言った。
「ああ、これ? これね、学生時代の服なんですよ。もう2年以上は経っているんだけど、動きやすい服があまりなくって。でも、ヒューク司祭に見せたら、似合ってますし、動きやすいのが一番ですよって」
そういうと恥ずかしそうに頬を染めていた。
うん、前世的に見ても学生の夏服みたいだし、15で卒業してから3年と言ってもミリアーナ先生は18くらいだから、前世で高3くらいってことで。
似合ってるし、可愛いいな。
思わず前世の懐かしい記憶が思い起こされるような気がして、ちょっとホッコリする気持ちでしばらく眺めている。
ふと、隣りで妙な気配がした。
見ると、なんだかリノアが頬を膨らませて唇を尖らせていた。
「どうしたリノア?」
「べ~つに」
リノア、ここんとこなんか変だけど、なんかしたかな俺?




