第二十二話『音楽室』
そろそろ、なんとかしなくてはならない。
このZ組の生徒36人、一人ひとりにしっかりしてもらわないと…
特に水玉。
それに生徒だけではない。四月一日先生にもだ。
教師というのは学問を教える立場というのと、さらに生徒たちの正しき見本であるべき存在とも言えるだろう。それがああではどうにもならない。
私のような“生徒”の立場から、“教師”を正そうだなんて馬鹿げた話だが、私がここにいるのは生徒たちの問題を更正するため。そのために必要なことはする。
―――あ、次の授業音楽室だ…急がないと。エレベーターが混んじゃう。
きっとZ組の皆は唯一楽しみな音楽の授業なのでとっくに着いているだろう。無駄に広い教室は無人で静かだった。
そんなことを考えながら、自然と急ぎ足になった私は、この後待ち受けている誰かの悲劇をまだ知らなかった。今までに想像したこともない悲劇を。
*****
「なあなあ!今日はでっかい大会やろうぜ!トーナメント戦とかさ!!」
「いいねっ!トーナメント燃えるよね、そーいうの大好き!」
「腕がなるなぁ!」
「うおっしゃあ!勝つぞ!あ、和」
「菊野…前みたいな勝ち方はやめなさいよ…楽器を後で戻せなくなるから
あ、授業始まるよ できればそんな下らないことしてないで今日こそ席ついてよ」
「んー…番が来るまでは授業にしよ」
「いや本当はずっと授業聞いてるべきなんだよ…」
最近私は、少々控えめだ。
いきなり全ての問題行動を、直接的にやめろと注意してもあまり効果が見られないことは今までの経験から証明済みだ。
仕方がないので、問題行動をすぐにやめずとも、被害を減らさせることにはまれに成功する。できても時間稼ぎにしかならないかもしれないのだが…。
とにかくかなり道のりは長い。ゴールなどあるのだろうか。
そこで四月一日先生が登場…というか見えていなかっただけで前から音楽室にいたのだが、授業での定位置につき、満面の笑みでいつものように号令を出そうとしていた。
「きりーつ!今から六時間め…あっ!」
目を見開く先生。何だろうかまたしょうもないことか!?
ここからはいつものように、とは行かなくなった。いつもも相当酷いけれど。
「一昨日から忘れていましたが、転校生を紹介しまーす!」
こんな時期に転校生。まるで王道漫画である。
こういう転校生ってその、王道漫画とやらならば、だいたい美少女or美少年、それか顔が凶器な悪女とか、だろう。
じゃなくて!
一昨日から忘れていた、ということはその転校生は3日も待ったの!!?
というか、わざわざZ組に転校生ということは…。
いい予感がする箇所が一つもない。つまり嫌な予感しかしない。
次の瞬間。
バサバサ…
変わった音が聞こえた。そして、白い羽が二、三枚舞った。
「ヘーイ!ハローーー!…えーとワタクシ、デアイダルとモーシマース」
やっぱりね!!変な人だよ!!変人だよ!!!
数瞬前に浮かんだ微かな予想と一致して、かなりの変人登場である。
その姿は美少年、美少女、凶器悪女のどれにも当てはまらず、両腕に謎の羽を着けていて、暗めな桃色の髪を4つにも分けて結っている。
表情はあまり無く、如何にも馬鹿そうなポカンと空いた口だ。イメージ的にだが日向そっくりな少女だ。
とりあえずどうでもいいことだが、気になった。
「デアイダルさん、外国人ですか」
「いや日本人だぁぁぁ!!!」
言い切る前に叫ばれてしまった。正直うるさい。
それとこれはつっこみたい。
「普通に喋れよ!」
「ヤーーダネーーー」
ここで反応がくるあたりは日向と違う。日向ならば「そういえば~」とか言って、話をそらしてしまうパターンだろう。似ているのは見た目だけかもしれない…。とにかくこの転校生、Z組生徒達に負けず劣らず強敵だ。
いや負けて劣ってほしかったけど。
「アッシハ出ル、合う、滝と書いテ出合滝だぁァァァアあぁ」
「だから普通に喋ってよ…」
「人の言うコトナンか聞くものカ!!」
「う…反抗期…」
私の話を皆が聞かないのは自分にとって都合が悪いことや理解が出来ないことを言われているからだが…この出合滝という子はZ組では変わったタイプだと思う。
そして、またしっかりさせなくてはならない人が増えた。




