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Marbling 現実と伝承が交わる、その先へ。  作者: 赤足


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4/5

選択

五和「選べ。」


鼎「待て!」


五和「何だ。」


「君は重大な勘違いをしている!」


五和

「……。」


「人間という生き物には順序というものがある!」


「状況説明!」


「情報整理!」


「現状把握!」


「そして覚悟!」


「これらを経て初めて『選択』という行為は成立する!」


「それを全部飛ばして『選べ』とは何事だ!」


五和

「長い。」


「まだ前置きだ!」


五和

「要点。」


「説明不足だ!」


五和

「最初からそう言え。」


「今ので十分要約したつもりなんだ!」


鼎は一度咳払いをし、眼鏡を押し上げる。


「いや、普通こういう展開ってさ。」


「映画とか漫画とかなら分かるんだよ。」


「赤い薬と青い薬を選べ、みたいなやつ。」


五和

「薬?」


「そこからかよ。」


五和

「何の話だ。」


「……いや、いい。」


「つまりだ。」


「俺は今、物語の主人公っぽい選択を迫られているわけだ。」


「突然現れた謎の男。」


「失踪した父親。」


「誰も知らない境界。」


「隠された真実。」


「ここまで来たら様式美なんだよ。」


「こういう場面には説明役がいて!」


「主人公は十分くらい葛藤して!」


「観客も心の準備を済ませて!」


「それから選択する!」


「それが物語というものだ!」


五和

「主人公?」


「そう!」


「選ばれた者だけが進める道!」


「隠された真実への旅!」


「失踪した父親の謎!」


「完璧な導入じゃないか!」


五和

「違う。」


「まだ最後まで言ってないだろ!」


五和

「君は選ばれたわけではない。」


「……。」


五和

「君が来ただけだ。」


「夢のないこと言うなよ!」


五和

「現実だ。」


「だからその現実にも、もう少し演出ってものが――」


五和

「時間がない。」


「だからその『時間がない』を説明しろって言ってるんだ!」


五和

「説明はした。」


「してない!」


五和

「した。」


「してない!」


五和

「した。」


鼎は眼鏡を外し、こめかみを押さえる。


深呼吸。


……沈黙。


そして。


「────きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


「だからぁぁぁぁ!!」


「説明という文化を軽視するなぁぁぁぁ!!」


「俺だけ会話のルールが違うじゃないかぁぁぁぁ!!」


森の静寂を破るように、鳥たちが一斉に飛び立った。


再び静寂が戻る。


五和

「……落ち着いたか。」


「……少し。」


五和は鼎を真っ直ぐ見つめる。


五和

「怖いなら、怖いと言えばいい。」


「説明を求めるのは悪くない。」


「だが、ここから先は説明だけでは進めない。」


一拍置いて、静かに告げる。


五和

「……選べ。」


鼎は長く息を吐く。


眼鏡を掛け直す。


先ほどまでの軽口はもうない。


ゆっくりと前を見る。



「……行く。」


五和は何も言わない。


ただ一歩、境界へ足を踏み入れる。


鼎も続く。


その瞬間――


風が止んだ。


鳥の声が消える。


空気が変わる。


鼎は思わず立ち止まる。


「……何だ、これ。」


五和は振り返らない。


「ここから先が、境界だ。」

今回も読んでいただきありがとうございます。


楽しんでいただけたら幸いです。

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