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Marbling 現実と伝承が交わる、その先へ。  作者: 赤足


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3/5

警告

父の残した痕跡を追い、鼎は五和と共に山へ入ります。


そして、境界へ近づくにつれ、伝承は少しずつ現実へと姿を変え始める


父の残したノートを握りしめながら、俺は神原五和の後を歩いていた。


正直に言えば、まだ信用しているわけじゃない。


父を知っている。


境界を知っている。


そう言われても、疑問は消えない。


それでも。


この男だけが、父へ続く道を知っている。


だから俺は歩いていた。



「なあ」


鼎は前を歩く五和に声をかけた。


「父さんとは、どういう関係だったんだ?」


五和はしばらく黙って歩いた。


「調査仲間だ」


「調査仲間?」


「ああ」


「じゃあ、境界って何なんだ」


五和は湖へ目を向けた。


「境界は、特定の場所を指す言葉ではない。」


「人が、こちらと向こうを分けるためにつけた呼び名だ。」


「ただ、その境は場所によって薄くなる。」


鼎は湖を見る。


「……この湖も?」


「ああ。」


「君の父親は、そういう場所を調べていた。」


「父さんも、こういう場所を調べていたのか」


「そうだ」


相変わらず短い。


鼎はため息をつく。


「……アンタ、本当に必要最低限しか話さないな」


「必要なことは話している」


「いや、それを決めるのは俺じゃないのか?」


五和は少しだけ振り返る。


「違う」


「即答かよ」


鼎は苦笑した。


「そういうところ、父さんと似てるかもな」


その言葉に。


五和の足が一瞬だけ止まった。


「……彼もそうだった」


「何が?」


「知りたいことが多すぎる人間だった」


その言葉だけが、不思議と残った。



山を進むにつれて、周囲の空気が変わっていった。


最初は気のせいだと思った。


だが。


鳥の声が消えていく。


風の音が遠くなる。


自分の足音だけが、妙にはっきり聞こえる。


「……なあ」


鼎は周囲を見る。


「ここ、本当に普通の山道か?」


五和は答えなかった。


「境界に近づいている」


その言葉を聞いた瞬間。


肌が粟立った。



その時だった。


「……鼎」


足が止まる。


背後から声がした。


聞き間違えるはずがない。


「……父さん?」


振り返ろうとする。


その瞬間。


五和の手が鼎の肩を掴んだ。


「返事をするな」


低い声だった。


「……え?」


「返事をするな」


もう一度、五和は言った。


「今の声に」


鼎は背後を見る。


誰もいない。


だが。


確かに聞こえた。


父の声が。


「なんでだよ」


鼎は声を落とす。


「父さんかもしれないだろ」


五和は静かに答えた。


「違う」


「なぜ分かる」


「境界の中で、名前を呼ぶものに返事をしてはいけない」



五和は歩きながら言った。


「昔、この土地には話が残っている」


「山で名前を呼ばれても、決して返事をしてはいけない」


「返事をした者は、こちら側から消える」


鼎は息を飲む。


「……神隠し」


五和は頷いた。


「ああ」


「昔の人間は、それを神隠しと呼んだ」


「理解できない現象に、名前をつけたんだ」


その言葉は。


昔、父が言っていたものと同じだった。


『人間は理解できないものに名前をつける』



さらに進んだ先。


古い石が置かれていた。


鼎は足を止める。


そこには。


見覚えのある印が刻まれていた。


「……父さん」


五和が言う。


「彼が残したものだ」


鼎は近づく。


だが。


五和の表情は変わらなかった。


「これは道標じゃない」


「……え?」


「警告だ」



石の裏側。


古い文字が残されていた。


鼎は読む。


そして。


息が止まった。


『境界へ近づくな』


その下に。


父の字で続きがあった。


『もし鼎がここへ来たなら――』


そこから先は、消えていた。


「……父さんは」


鼎は呟く。


「俺が来ると思っていたのか」


五和は答えない。



しばらく沈黙が続いた。


やがて五和が口を開く。


「ここから先へ進めば」


「戻れなくなる可能性がある」


鼎は顔を上げる。


「死ぬってことか?」


「違う」


五和は境界の先を見る。


「今までのお前では、いられなくなるということだ」



父が残した警告。


目の前にある未知。


進むべきなのか。


戻るべきなのか。


鼎には、まだ答えが出せなかった。


五和は静かに言う。


「鼎」


「選べ」


「ここから先へ進むのか」


「それとも、戻るのか」

ついに鼎は、大きな選択を迫られることになります。


次回もよろしくお願いします。

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