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Marbling 現実と伝承が交わる、その先へ。  作者: 赤足
第二章 伝承編 野霧湖

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24/68

24 狭間

白い霧は、ゆっくりと湖面を覆っていった。


 遊覧船は速度を落としながら、その中を静かに進んでいく。


 さっきまで聞こえていた観光客たちの笑い声も、どこか遠く感じられた。


 鼎は辺りを見渡す。


 何も変わっていない。


 それなのに。


 何かが違う。


「……静かですね。」


 誰に言うでもなく呟く。


 返事はない。


 五和は霧の向こうを見つめたまま動かない。


 凪は記録帳へ静かに書き続けていた。


 美羽はまだ座り込んだまま、呼吸を整えている。


「少しは落ち着いたか。」


 五和が尋ねる。


 美羽は小さく頷いた。


「……はい。」


「でも。」


「まだ、頭の奥が変なんです。」


 五和はそれ以上聞かなかった。


 鼎は霧へ目を向ける。


 白い。


 ただ白いだけだ。


 それなのに。


 その奥から、誰かに見られているような気がした。


 思わず目を逸らす。


 その瞬間。


「……あれ。」


 湖面へ視線を戻す。


 何もない。


 気のせいだったのか。


 いや。


 そう思った時には、もう確信が持てなくなっていた。


 船長が操縦席から首をかしげる。


「おかしいな……。」


 計器を見直す。


 前方を見る。


 また計器を見る。


「どうかしましたか?」


 乗務員が尋ねる。


「いや。」


「そろそろ霧を抜ける頃なんだけどな。」


 その言葉に、鼎は五和を見る。


 五和は静かに答えた。


「気にするな。」


 だが、その目は鋭い。


 凪は湖面へ双眼鏡を向けながら、小さく記録する。


『霧、継続。』


『風、無し。』


『視界、不変。』


 ペン先が止まる。


 そして、もう一行だけ書き加えた。


『境界、継続観測。』


 鼎は、その文字を見てしまった。


「境界……。」


 思わず声が漏れる。


 凪は記録帳を閉じた。


「ええ。」


「現在、私たちは境界を観測しています。」


 鼎は霧の向こうを見つめる。


 何も見えない。


 それでも。


 もう元の湖ではないことだけは分かった。


 その時。


 どこからともなく。


 水面を叩くような、小さな音が響いた。


 ――ちゃぷん。


 誰も動かない。


 いや。


 動けなかった。


 音は、一度だけだった。

今回も読んでくださり、ありがとうございます。

次回更新日は14日0時予定です。

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