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Marbling 現実と伝承が交わる、その先へ。  作者: 赤足


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14/15

14 意味

五人はトンネルを抜けた。


 目の前には、小さな神社が建っていた。


 鳥居。


 石段。


 古びた社。


 どこにでもありそうな神社だった。


「ここが最後か。」


 辰野が周囲を見回す。


「調べてみよう。」


 葵が石段を上る。


 鼎も後に続いた。


(凪さんは言っていた。)


(境界だと思う場所を見つけてください、と。)


 橋。


 道祖神。


 トンネル。


 どれも境界だと思える理由があった。


 なら、この神社にも何かあるはずだ。


 境内は静かだった。


 社の前には賽銭箱。


 鈴が風に揺れている。


 脇には、お守りやおみくじが並び、絵馬掛けには願い事がいくつも残されていた。


 家族の健康。


 受験合格。


 商売繁盛。


 誰かを想う願い。


 美羽が絵馬を眺める。


「すごいね。」


「こんなにあるんだ。」


 辰野は賽銭箱へ目を向ける。


「昔から、みんな願い事をしてきたんだろうな。」


 鼎は社の裏へ回った。


 古い石碑。


 小さな祠。


 苔むした灯籠。


 石碑の文字を読む。


 祠の中を覗く。


 灯籠の足元まで見渡す。


 何か見落としているだけじゃないのか。


 境界だと思える何かが、どこかにあるはずだ。


 そう思いながら探し続ける。


 だが。


 何もない。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 蝉の声だけが響いていた。


 しばらくして。


 五人は自然と鳥居の前へ集まっていた。


「どうだった?」


 美羽が聞く。


 辰野が苦笑する。


「何も見つからなかった。」


「私も。」


 葵も首を横に振る。


 秋山は静かに社を見つめた。


「……何もありませんでした。」


 鼎はもう一度だけ境内を見渡した。


 願いは残っている。


 人が訪れた跡もある。


 それでも。


 最後まで、境界だと思える場所は見つけられなかった。


「戻ろう。」


 辰野が歩き出す。


 四人も後に続いた。



 アカライへ戻る頃には、空が赤く染まり始めていた。


 公民館の前では、町の人たちが慌ただしく動いている。


 提灯を運ぶ人。


 太鼓を並べる人。


 やぐらを組み立てる人。


「盆踊りの準備か。」


 辰野が呟く。


「なんか普通だね。」


 美羽が笑う。


 張りつめていた空気が、少しだけ和らいだ気がした。


 その時。


 凪が受験者たちの前へ立つ。


「これで試験は終了です。」


 受験者たちは小さく息を吐いた。


 ようやく終わった。


 そう思った。


「……最後に、通過儀礼を行ってもらいます。」



 鼎の番が来た。


 扉の前へ立つ。


「千曲 鼎。」


 凪が静かに名前を呼ぶ。


 鼎は振り返った。


「あなたがアカライに入る理由は何ですか。」


 突然の問いだった。


 父を見つけたい。


 その思いは変わらない。


 けれど。


 それだけなのだろうか。


 境界を知った。


 五和と出会った。


 試験を受けた。


 そのすべてを思い返しても、言葉にはならなかった。


「……分かりません。」


 凪は静かに頷く。


「分かりました。」


「では、通過儀礼を始めます。」


「壁から手を離さず、出口まで歩いてください。」


 鼎は小さく頷いた。


 扉を開く。


 一歩踏み出す。


 背後で扉が閉まる音がした。


 何も見えない。


 右手を壁へ添える。


 冷たい。


 一歩。


 また一歩。


 歩く。


 歩く。


 どれだけ歩いただろう。


 分からない。


 ――場所を信じるな。


 五和の声が浮かぶ。


 歩く。


 ――道が正しいとは限らない。


 歩く。


 ――時間を信じるな。


 また歩く。


 暗闇の中で、景色が揺れた。


 白い服の子ども。


 湖。


 父の背中。


 水面の奥で揺れる巨大な影。


 橋。


 道祖神。


 トンネル。


 境界。


 そして。


 誰かが、こちらを見ている。


 振り返る。


 何もいない。


 歩き出す。


 それでも。


 まだ見られている。


 歩く。


 歩く。


 壁だけを頼りに。


 どれほど歩いたのか。


 もう分からない。


 ふと。


 指先から壁の感触が消えた。


 顔を上げる。


 暗闇の向こうに、小さな光が見えた。


 出口だ。


 鼎は思わず息を吐く。


 終わった。


 ようやく終わった。


 ゆっくりと光へ近づく。


 扉に手を掛ける。


 静かに開いた。


 眩しい光が差し込む。


 鼎は目を細める。


 そこには凪が立っていた。


 凪は静かに鼎を見つめる。


「……意味を持ちましたね。」


 鼎は何も答えられなかった。

今回も読んでくれてありがとうございます。

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