14 意味
五人はトンネルを抜けた。
目の前には、小さな神社が建っていた。
鳥居。
石段。
古びた社。
どこにでもありそうな神社だった。
「ここが最後か。」
辰野が周囲を見回す。
「調べてみよう。」
葵が石段を上る。
鼎も後に続いた。
(凪さんは言っていた。)
(境界だと思う場所を見つけてください、と。)
橋。
道祖神。
トンネル。
どれも境界だと思える理由があった。
なら、この神社にも何かあるはずだ。
境内は静かだった。
社の前には賽銭箱。
鈴が風に揺れている。
脇には、お守りやおみくじが並び、絵馬掛けには願い事がいくつも残されていた。
家族の健康。
受験合格。
商売繁盛。
誰かを想う願い。
美羽が絵馬を眺める。
「すごいね。」
「こんなにあるんだ。」
辰野は賽銭箱へ目を向ける。
「昔から、みんな願い事をしてきたんだろうな。」
鼎は社の裏へ回った。
古い石碑。
小さな祠。
苔むした灯籠。
石碑の文字を読む。
祠の中を覗く。
灯籠の足元まで見渡す。
何か見落としているだけじゃないのか。
境界だと思える何かが、どこかにあるはずだ。
そう思いながら探し続ける。
だが。
何もない。
風が吹く。
木々が揺れる。
蝉の声だけが響いていた。
しばらくして。
五人は自然と鳥居の前へ集まっていた。
「どうだった?」
美羽が聞く。
辰野が苦笑する。
「何も見つからなかった。」
「私も。」
葵も首を横に振る。
秋山は静かに社を見つめた。
「……何もありませんでした。」
鼎はもう一度だけ境内を見渡した。
願いは残っている。
人が訪れた跡もある。
それでも。
最後まで、境界だと思える場所は見つけられなかった。
「戻ろう。」
辰野が歩き出す。
四人も後に続いた。
⸻
アカライへ戻る頃には、空が赤く染まり始めていた。
公民館の前では、町の人たちが慌ただしく動いている。
提灯を運ぶ人。
太鼓を並べる人。
やぐらを組み立てる人。
「盆踊りの準備か。」
辰野が呟く。
「なんか普通だね。」
美羽が笑う。
張りつめていた空気が、少しだけ和らいだ気がした。
その時。
凪が受験者たちの前へ立つ。
「これで試験は終了です。」
受験者たちは小さく息を吐いた。
ようやく終わった。
そう思った。
「……最後に、通過儀礼を行ってもらいます。」
⸻
鼎の番が来た。
扉の前へ立つ。
「千曲 鼎。」
凪が静かに名前を呼ぶ。
鼎は振り返った。
「あなたがアカライに入る理由は何ですか。」
突然の問いだった。
父を見つけたい。
その思いは変わらない。
けれど。
それだけなのだろうか。
境界を知った。
五和と出会った。
試験を受けた。
そのすべてを思い返しても、言葉にはならなかった。
「……分かりません。」
凪は静かに頷く。
「分かりました。」
「では、通過儀礼を始めます。」
「壁から手を離さず、出口まで歩いてください。」
鼎は小さく頷いた。
扉を開く。
一歩踏み出す。
背後で扉が閉まる音がした。
何も見えない。
右手を壁へ添える。
冷たい。
一歩。
また一歩。
歩く。
歩く。
どれだけ歩いただろう。
分からない。
――場所を信じるな。
五和の声が浮かぶ。
歩く。
――道が正しいとは限らない。
歩く。
――時間を信じるな。
また歩く。
暗闇の中で、景色が揺れた。
白い服の子ども。
湖。
父の背中。
水面の奥で揺れる巨大な影。
橋。
道祖神。
トンネル。
境界。
そして。
誰かが、こちらを見ている。
振り返る。
何もいない。
歩き出す。
それでも。
まだ見られている。
歩く。
歩く。
壁だけを頼りに。
どれほど歩いたのか。
もう分からない。
ふと。
指先から壁の感触が消えた。
顔を上げる。
暗闇の向こうに、小さな光が見えた。
出口だ。
鼎は思わず息を吐く。
終わった。
ようやく終わった。
ゆっくりと光へ近づく。
扉に手を掛ける。
静かに開いた。
眩しい光が差し込む。
鼎は目を細める。
そこには凪が立っていた。
凪は静かに鼎を見つめる。
「……意味を持ちましたね。」
鼎は何も答えられなかった。
今回も読んでくれてありがとうございます。




