13 道
橋を後にした四人は、地図へ視線を落とした。
残る目印は、古いトンネルと神社。
「次は古いトンネルか。」
鼎が呟く。
「じゃあ、行こ!」
美羽が歩き出す。
四人は住宅街を抜け、人通りの少ない道へ入った。
蝉の鳴き声だけが響いている。
その時だった。
「おーい!」
後ろから声が飛んできた。
振り返ると、一人の青年が小走りで駆け寄ってくる。
二十代半ばほど。
人懐っこい笑顔を浮かべ、額には汗を滲ませていた。
「助かったー。」
「やっと人に会えた。」
青年は息を整えながら笑う。
「一人で歩いてたら、さすがに心細くてさ。」
鼎が尋ねる。
「受験者ですか?」
「ああ。」
青年は頷いた。
「辰野渉。よろしく。」
四人も順番に名乗る。
辰野は安心したように笑った。
「五人なら心強いな。」
自然と五人で歩き始める。
しばらくすると辰野が振り返った。
「みんな、水分ちゃんと飲んでる?」
「暑いから無理するなよ。」
「まだ平気!」
美羽がペットボトルを掲げる。
「ならよかった。」
辰野はほっと笑った。
誰かを気遣うことが、ごく自然な人だった。
鼎はそんな横顔を見て、小さく笑う。
(面倒見のいい人だな。)
穏やかな空気のまま歩き続ける。
しかし。
鼎はふと足を止めた。
「……どうした?」
辰野が振り返る。
鼎は周囲を見回した。
古びた郵便受け。
曲がった電柱。
塀から伸びた柿の木。
見覚えがある。
「また同じ景色……?」
美羽が辺りを見回す。
葵は静かに地図を開いた。
「距離は進んでいる。」
秋山も周囲へ視線を巡らせる。
「ですが、景色が変わりません。」
鼎は一本道を見つめた。
橋では時間。
道祖神では記憶。
そして今は、道。
五和の言葉が脳裏によみがえる。
――道を信じるな。
鼎は少し考え込む。
(道を信じるな……。)
(道を外れろってことか……。)
ふと、首を横に振る。
(いや、違うな。)
(それじゃ、言われた通りに動いてるだけだ。)
鼎は足元の舗装路を見下ろした。
誰かが作った道。
だから皆、疑わずに歩く。
だったら――。
鼎は草むらへ視線を向けた。
踏み跡はない。
でも、歩けないわけじゃない。
「……なあ。」
四人が鼎を見る。
「この道が正しいって、誰が決めたんだ?」
一瞬、誰も言葉を返せなかった。
鼎は少しだけ笑う。
「道がないなら。」
一歩、草むらへ踏み出した。
「作ればいい。」
草を踏む音が静かに響く。
四人は顔を見合わせる。
最初に笑ったのは辰野だった。
「ははっ。」
「そういう考え方か。」
秋山は顎に手を添え、静かに頷く。
「私は反対しません。」
「やってみる価値はあると思います。」
葵も小さく息を吐いた。
「異論はない。」
五人は舗装された道を離れ、草むらをかき分けながら歩き始める。
足元には、まだ道はない。
一歩。
また一歩。
自分たちの足で、新しい道を作っていく。
その先だった。
木々の隙間。
蔦に覆われた古いコンクリート。
ぽっかりと口を開けた、小さなトンネルが姿を現した。
地図には載っていた。
それなのに、舗装された道を歩いている限り、誰一人見つけることのできなかった場所。
鼎は静かにその入口を見つめる。
そして、小さく笑みを浮かべ呟いた。
「……こういう事だったのか。」
大分、風邪良くなってきました。
今回も読んでくださり、ありがとうございます。




