12 時間
道祖神を離れた四人は、地図に記された橋へ向かうことにした。
「いつの間に四人組になったんだろ」
美羽が歩きながら言う。
「一緒に行くとは言ってない」
葵が答える。
「でも一緒に歩いてるじゃん」
「方向が同じだけ」
「それを一緒って言うんじゃない?」
葵は返事をせず、前を歩き続ける。
秋山は三人の少し後ろを静かに歩いていた。
鼎は地図を見る。
橋までは一本道。
十分も歩けば着く距離のはずだった。
住宅街は静かだった。
犬の鳴き声。
風に揺れる洗濯物。
遠くを走る車の音。
景色は変わっている。
それなのに、橋だけが見えてこない。
「まだ着かないね」
美羽が言った。
「体感だと、もう十分以上歩いてる気がする」
鼎も同じだった。
「今、何時?」
美羽が尋ねる。
鼎はスマートフォンを見る。
「一時二十二分」
「え?」
美羽もスマートフォンを取り出した。
「私、一時四十六分だけど」
葵は左腕を見る。
「私は一時三十一分」
三人は思わず顔を見合わせた。
時計が一つも一致しない。
鼎は画面を見直した。
電波は入っている。
通信も切れていない。
「故障かな……」
「秋山君は?」
美羽が尋ねた。
秋山は静かに首を横へ振る。
「時計は持っていません」
「え?」
「携帯電話もありません」
「じゃあ時間どうしてるの?」
秋山は空を見上げた。
傾き始めた太陽。
足元へ伸びる影。
「太陽を見ます」
三人もつられて空を見上げた。
「影の向きでも、おおよその時刻は分かります」
「そんなので分かるの?」
美羽が驚く。
「十分です」
秋山は穏やかに答えた。
「日没までに戻る。それだけ分かれば困りません」
鼎は思わず聞いた。
「時間、気にならないのか?」
「気にはなります」
秋山は少しだけ笑う。
「ですが、答えは出ません」
その言葉に、誰も返事ができなかった。
そのときだった。
「おい!」
後ろから声が飛んだ。
振り返ると、一人の男性がこちらへ歩いてくる。
三十代ほど。
体育館で質問をしていた受験者だった。
額には汗が浮かび、肩で息をしている。
「その先へ行くのか?」
「橋を探してます」
鼎が答えた。
「なら右だ」
男性は坂道を指差した。
「俺は向こうから来た」
「でも川の音は左からする」
葵が言う。
耳を澄ます。
確かに水の流れる音が聞こえる。
「音なんて反響してるだけだ」
男性は首を振った。
「左は行き止まりだった」
「どれくらい歩いたんですか?」
鼎が尋ねる。
「三十分くらいだ」
「三十分……」
鼎は思わずスマートフォンを見る。
一時二十二分。
さっきから一分も進んでいない。
「俺たちは十分くらいの感覚だった」
「そんなわけあるか」
男性は苦笑した。
「境界じゃあるまいし」
その言葉に、四人は顔を見合わせた。
男性は坂道を下っていった。
「どうする?」
美羽が尋ねる。
少し考えたあと、鼎は言った。
「橋を探そう」
「時間じゃなくて?」
「時間は誰も一致しない。でも橋はあるはずだ」
四人は川の音がする左の路地へ入った。
数分も歩かないうちに、小さな橋が姿を現した。
「あった!」
美羽が駆け寄る。
古びた欄干。
浅い川。
どこにでもありそうな橋だった。
鼎は報告書を開く。
橋一基。
異常なし。
川の流れ、異常なし。
そして最後にスマートフォンを見る。
一時二十二分。
まだ変わっていない。
「私は一時五十分」
美羽が言う。
「一時三十五分」
葵が腕時計を見る。
秋山は空を見上げたまま、小さくつぶやいた。
「今日は、少し日が傾くのが早いですね」
鼎は報告書へ最後の一行を書き加えた。
**四人の時刻は一致しなかった。**
原因は記さない。
結論も書かない。
観測したことだけを書き残す。
五和の言葉が、静かに脳裏によみがえった。
――時間を信じるな。
今回も読んでいただき、ありがとうございます。




