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Marbling 現実と伝承が交わる、その先へ。  作者: 赤足


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12/13

12 時間


 道祖神を離れた四人は、地図に記された橋へ向かうことにした。


「いつの間に四人組になったんだろ」


 美羽が歩きながら言う。


「一緒に行くとは言ってない」


 葵が答える。


「でも一緒に歩いてるじゃん」


「方向が同じだけ」


「それを一緒って言うんじゃない?」


 葵は返事をせず、前を歩き続ける。


 秋山は三人の少し後ろを静かに歩いていた。


 鼎は地図を見る。


 橋までは一本道。


 十分も歩けば着く距離のはずだった。


 住宅街は静かだった。


 犬の鳴き声。


 風に揺れる洗濯物。


 遠くを走る車の音。


 景色は変わっている。


 それなのに、橋だけが見えてこない。


「まだ着かないね」


 美羽が言った。


「体感だと、もう十分以上歩いてる気がする」


 鼎も同じだった。


「今、何時?」


 美羽が尋ねる。


 鼎はスマートフォンを見る。


「一時二十二分」


「え?」


 美羽もスマートフォンを取り出した。


「私、一時四十六分だけど」


 葵は左腕を見る。


「私は一時三十一分」


 三人は思わず顔を見合わせた。


 時計が一つも一致しない。


 鼎は画面を見直した。


 電波は入っている。


 通信も切れていない。


「故障かな……」


「秋山君は?」


 美羽が尋ねた。


 秋山は静かに首を横へ振る。


「時計は持っていません」


「え?」


「携帯電話もありません」


「じゃあ時間どうしてるの?」


 秋山は空を見上げた。


 傾き始めた太陽。


 足元へ伸びる影。


「太陽を見ます」


 三人もつられて空を見上げた。


「影の向きでも、おおよその時刻は分かります」


「そんなので分かるの?」


 美羽が驚く。


「十分です」


 秋山は穏やかに答えた。


「日没までに戻る。それだけ分かれば困りません」


 鼎は思わず聞いた。


「時間、気にならないのか?」


「気にはなります」


 秋山は少しだけ笑う。


「ですが、答えは出ません」


 その言葉に、誰も返事ができなかった。


 そのときだった。


「おい!」


 後ろから声が飛んだ。


 振り返ると、一人の男性がこちらへ歩いてくる。


 三十代ほど。


 体育館で質問をしていた受験者だった。


 額には汗が浮かび、肩で息をしている。


「その先へ行くのか?」


「橋を探してます」


 鼎が答えた。


「なら右だ」


 男性は坂道を指差した。


「俺は向こうから来た」


「でも川の音は左からする」


 葵が言う。


 耳を澄ます。


 確かに水の流れる音が聞こえる。


「音なんて反響してるだけだ」


 男性は首を振った。


「左は行き止まりだった」


「どれくらい歩いたんですか?」


 鼎が尋ねる。


「三十分くらいだ」


「三十分……」


 鼎は思わずスマートフォンを見る。


 一時二十二分。


 さっきから一分も進んでいない。


「俺たちは十分くらいの感覚だった」


「そんなわけあるか」


 男性は苦笑した。


「境界じゃあるまいし」


 その言葉に、四人は顔を見合わせた。


 男性は坂道を下っていった。


「どうする?」


 美羽が尋ねる。


 少し考えたあと、鼎は言った。


「橋を探そう」


「時間じゃなくて?」


「時間は誰も一致しない。でも橋はあるはずだ」


 四人は川の音がする左の路地へ入った。


 数分も歩かないうちに、小さな橋が姿を現した。


「あった!」


 美羽が駆け寄る。


 古びた欄干。


 浅い川。


 どこにでもありそうな橋だった。


 鼎は報告書を開く。


 橋一基。


 異常なし。


 川の流れ、異常なし。


 そして最後にスマートフォンを見る。


 一時二十二分。


 まだ変わっていない。


「私は一時五十分」


 美羽が言う。


「一時三十五分」


 葵が腕時計を見る。


 秋山は空を見上げたまま、小さくつぶやいた。


「今日は、少し日が傾くのが早いですね」


 鼎は報告書へ最後の一行を書き加えた。


 **四人の時刻は一致しなかった。**


 原因は記さない。


 結論も書かない。


 観測したことだけを書き残す。


 五和の言葉が、静かに脳裏によみがえった。


 ――時間を信じるな。

今回も読んでいただき、ありがとうございます。

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