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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第9話 ちいさな手と、はじめての薬

昼前。


窓から差し込む光が、やわらかく部屋の中に広がって、木のテーブルの上をあたたかく照らしている。


光の中には、細かな埃がゆっくりと漂っていて、それさえもどこか静かで、やさしい時間の一部みたいだった。




そのテーブルの上には——


乾いた葉。


細く伸びた根。


すり鉢と、すりこぎ。


「……今日はこれ」


ザーラが、いつもより少しだけ落ち着いた声で言う。


「薬、作るから」


「……!」


その一言を聞いた瞬間、ルティの目がぱっと明るくなる。


きらきら、と。


まるで光をそのまま映したみたいに。


「……」


スプーンを、ぎゅっと握る。


無意識に。


でも、しっかりと。


——やる。


その気持ちが、体の中でふくらむ。


「……手伝う?」


ザーラが、少しだけ様子を見るように言う。


「……!」


こくん!!


全力で、力いっぱい。


体ごと揺れるくらいにうなずく。


「……はぁ」


小さく息をつく。


でも、その口元はほんの少しだけゆるんでいる。


「……じゃあ」


すり鉢を、手元に引き寄せる。


「これ、持って」


「……」


差し出される、すりこぎ。


ルティにとっては、少し大きい。


少し重い。


でも。


「……」


両手で、ぎゅっと持つ。


落とさないように。


大事に。


「……いい?」


「……」


こくん。


しっかりと。





「これを——」


ザーラが、乾いた葉をすり鉢に入れる。


ぱさり、と小さな音。


「つぶす」


ゆっくりと、手本を見せる。


ごり。


ごり。


一定のリズム。


無駄のない動き。


「……」


ルティは、じっと見る。


動き。


音。


力の入り方。


全部、逃さないように。


覚えるみたいに。


「……やってみなさい」


「……!」


すりこぎを、そっと動かす。


ごり。


……ごり。


「……」


少し弱い。


葉が、あまり崩れない。


「……もう少し」


ザーラの手が、上から重なる。


大きな手。


あたたかい。


「こう」


ぐっと、力が入る。


ごり、ごり。


「……!」


目が、ぱっと光る。


できてる。


ちゃんと、つぶれていく。


「……」


今度は、一人で。


ごり。


ごり。


さっきより、少しだけ強く。


「……いい」


ザーラが、ぽつりと言う。


「そのまま」


「……!」


嬉しくて、少しだけ動きが早くなる。


ごり。


ごり。


ごり。


だんだん夢中になっていく。





少しずつ。


葉が細かくなっていく。


形がなくなって。


粉みたいになっていく。


そのたびに。


ふわっと。


香りが広がる。


草の匂い。


少し苦い。


でも、どこか落ち着く、やさしい匂い。


「……」


ルティは、鼻を少しひくひくさせる。


くん。


くん。


「……」


なんだか、いい。


理由はわからないけど。


好きな匂い。





そのとき。


ふわ、と。


ほんの一瞬。


粉になった葉が、やわらかく光った気がした。


「……?」


ルティの手が、ぴたりと止まる。


今の。


なに。


「……どうしたの」


ザーラが、すぐに気づく。


「……」


ルティは、すり鉢の中をのぞき込む。


でも。


そこには、ただの粉になった葉しかない。


「……」


首をかしげる。


さっきの、あたたかい感じ。


ほんの一瞬だけ、触れたみたいな感覚。


「……」


もう一度。


ごり。


ごり。


今度は——何も起きない。


「……」


気のせい?


でも。


胸の奥に、ほんのり残っている。


あの、あたたかさだけ。





「……いいわ」


ザーラが言う。


「次」


小さな瓶を取り出す。


光を受けて、少しだけきらっとする。


「これに入れる」


「……」


ルティは、こくんとうなずく。


慎重に。


とても慎重に。


すり鉢を持ち上げる。


重い。


でも、がんばる。


「……」


ゆっくり、傾ける。


さらさら、と。


粉が流れる。


少しだけ、外にこぼれる。


「……っ」


びくっと肩が跳ねる。


「……大丈夫」


すぐに、ザーラが言う。


「そのくらいはいい」


「……」


ほっとする。


少しだけ、力が抜ける。


そのまま。


全部、瓶に入れる。


「……」


終わった。


できた。





「……えらい」


ザーラが言う。


「ちゃんとできた」


「……!」


その瞬間。


胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。


ゆっくり。


広がっていく。


「……」


ルティは、スプーンを見る。


それから、瓶を見る。


「……」


これ。


さっきの葉。


さっきの作業。


自分が、やった。


自分の手で。


「……」


そっと、瓶に触れる。


指先で。


確かめるように。





ザーラが、その様子を見て。


ほんの少しだけ、目を細める。


「……それね」


ぽつりと。


「人を助けるやつ」


「……?」


ルティが、顔を上げる。


「飲んだら、楽になる」


「……」


少しだけ、考える。


言葉を、ゆっくりとつなげる。


「……」


それから——


「……!」


目が、ぱっと開く。


わかった。


全部じゃないけど。


でも。


大事なところは、ちゃんと。


——だれか、たすける。


「……!」


ぎゅっと、スプーンを握る。


少しだけ、力が強くなる。


「……」


ザーラは、その様子を見て。


ほんの少し間を置いてから。


「……あんたが作ったのも、ちゃんと効くわよ」


「……!」


時間が、止まる。


「……」


ルティは、瓶をじっと見る。


それから——


両手で、包み込むように持つ。


まるで、大切なものを守るみたいに。


「……」


うれしい。


それだけじゃない。


胸の奥に、さっきとは違う感覚が広がる。


——だいじ。


——これ、だいじ。


——これで、だれか、たすかる。





「……もう」


ミーナが横で顔を覆う。


「無理……泣く……」


「うるさい」


「だってさぁ! この子、完全に“自分が人助けした”って顔してるよ!?」


「大げさ」


そう言いながらも。


ザーラの声は、少しだけやわらいでいた。





光の中。


小さな手。


すり鉢。


薬の瓶。


そして。


ぎゅっと握られた、一本のスプーン。





それはもう、


ただの“お手伝い”じゃなかった。





はじめて——


「自分の手で、誰かの役に立てる」ということを、


ちゃんと感じた日だった。

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