表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/171

第76話 知らない言葉

昼のやわらかな光が、精霊領域の薄膜のような空気を透かして降りてくる中、短い訓練の余韻がまだ身体の奥に残っている。


ルティは、少しだけ呼吸を乱しながら、ザーラのすぐ隣に寄り添うように腰を下ろしている。



「……つかれた……ちょっと、からっぽ……」



「……うん、ちゃんと使えてたよ、がんばったね」



ザーラはそう言って、ゆっくりと指先で頭を撫でる。撫でるたびに細い髪がやわらかく揺れて、ルティは目を細めながら小さく息を吐く。どこか、ほどけていくみたいに。


そのままルティは、視線を上げて淡く明滅する空をぼんやりと見つめる。この場所特有の、呼吸するような光の層。


「……ねえ、ざーら」



「……なに?」



「……ここのひかり、やわらかいね……あったかい」



「……うん、そうだね」



「……でもね」



ルティは、わずかに首をかしげながら言葉を探すように少し間を置く。



「……ちがう“ひかり”も、しってる……たぶん、むこうの」



ザーラの手が、そこでぴたりと止まる。



「……どんなの……?」


慎重に問いかけると、ルティは少し考え込むように視線を泳がせてから答える。



「……ささるみたいで……ひかりなのに、いたいの」



「……?」



「……あったかくなくて……でも、すごくつよい……ぎゅって、ひらくかんじ」



その言葉の選び方はどこか不自然で、けれど妙に具体的だった。


空気が、ほんのわずかに張りつめる。


リオンの視線が、静かに鋭さを帯びる。


ルティはその変化に気づかないまま、無垢なまま言葉を続ける。



「……あっちではね……みんな、それつかってた」



その一言が、重く落ちる。



「……あっち……って……どこ……?」



ザーラの声は、かすかに揺れている。



「……うん……わかんないけど……“かさなってるとこ”……たぶん」



曖昧で、けれどどこか核心に触れているような響き。



「……みんな、それで“ひらいてた”……えっと……ゲートじゃなくて……」



言葉を探す。記憶の底に沈んだ音を拾い上げるみたいに。



「……きょうかいせつだん……? ちがう……きょうめいかいろ……?」



聞き慣れない語。断片的で、整っていない。


それでも、ただの想像とは思えない重みがあった。


風が、すっと止まる。


リオンが、低くつぶやく。



「……遺留記憶……いや、残響記憶か……」



ザーラの胸の奥で、不安がゆっくりと広がる。



「……ルティ」



「……なに?」



「……それ、どこで見たの……?」



「……わかんない」



あっさりとした答え。ためらいも、隠しもない。



「……でもね」



ルティは、ふっと小さく笑う。



「……ざーらのひかりのほうが、すき……いたくないから」



その言葉はあまりにも素直で、張りつめていた空気をゆっくりとほどいていく。


ザーラは、何も言えなくなる。ただ、そっと強く抱き寄せる。失わないように、確かめるように。


リオンは一瞬だけ目を閉じ、思考を整理するように静かに息を整える。


そして、低く言う。



「……時間がないな……想定より早い」



その声音には、確かな焦りと決断の気配が混じっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ