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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第72話 やわらかい朝

朝のはじまり。



精霊領域の朝は、どこまでも音がやさしい。



淡い光が、時間をかけてゆっくりと満ちてくる。



鳥の声に似ているけれど、どこか少し違う不思議な音。



風が、葉のあいだをすべるようにやさしくなでていく。




「……」


ザーラが、静かに目を覚ます。



まだ少しだけ、意識がぼんやりとしていて。



それから、ゆっくりと。



腕の中にある重みを思い出す。




「……」


そっと視線を落とす。



ルティ。



すぐ目の前で。



安心しきったように、すやすやと眠っている。



「……」


昨日の出来事が、かすかによぎる。



揺らいだ境界の感触。



ガイルの気配の重さ。



張りつめていた、あの緊張。




「……」


でも。



今この瞬間は。



ただ、静かだ。




「……ふふ」



思わず、小さく笑みがこぼれる。



どこか安心したような、やわらかな笑い。




そのとき。




「……ん……」



ルティが、わずかに身じろぐ。



顔を、ザーラの胸元へとすり寄せる。



ぎゅっと、小さな手で服をつかむ。




「……」


ザーラの呼吸が、一瞬だけ止まりかける。


かわいい、と。



言葉にならない感情が浮かぶ。




「……ねむい……」


まだ夢の中にいるような声で、ぽつりとつぶやく。



「……うん、いいよ」



自然と、声がやわらかくほどける。



「……もう少しだけ、寝ていていいよ」




「……ん……」


返事ともつかない、小さな音。


それでも。



完全に安心しきっているのが伝わる。




「……」


ザーラは、そっと頭を撫でる。



指に触れる、やわらかな髪。


そこに、朝の光がほんの少しだけ差し込む。



その瞬間。



ふわり、と。



小さな光が、静かに浮かび上がる。



「……あ」


ザーラが、かすかに目を瞬かせる。



ルティの髪のまわりに。



淡く揺れる、光の粒。



くるくると、楽しげに回りながら。




「……」


ルティが、ゆっくりと目を開ける。



まだ少し、ぼんやりとしたまま。




「……ひかり……」




小さな指を、そっと伸ばす。



すると。



光が、ちょこんとその指先に乗る。



「……!」



ぱっと、顔が明るくなる。




「……ざーら、みて」



無邪気な、満面の笑顔。




「……うん、ちゃんと見てるよ」



その一言だけで。


さらに嬉しそうに目を輝かせる。



「……きれい……」



両手で、光を包み込む。



壊さないように、そっとやさしく。



でも。



ほんの少しだけ力が入ってしまって。



「……あっ」


光が、ふわっと逃げていく。




「……にげた……」



しょんぼりと肩を落とす。




「……」


ザーラが、くすっと小さく笑う。




「……大丈夫だよ」



そっと、手を添えて。



「……また、すぐ来てくれるよ」




「……ほんと?」



「……うん、本当」




すると。


まるで応えるように。



また光が、ふわりと近づいてくる。



まるで“わかっている”かのように。



「……きた!」



今度は、さっきよりも慎重に。



とても大事そうに。



「……いいこ……」




まるで相手がいるみたいに、光へ話しかける。



「……」


ザーラの胸が、じんわりとあたたかくなる。



そこへ。




「……朝から、にぎやかだな」



リオンの声が、静かに入ってくる。



振り向くと。



ほんの少しだけ、口元が緩んでいる。




「……」


珍しい、と感じる。



ほんのわずかな変化だけれど。



「……あ!」


ルティが、すぐにリオンに気づく。




「……おはよ!」


元気いっぱいの声で。




「……おはよう」



リオンも、短く返す。



けれど。



その声は、少しだけやわらかい。




「……ねえねえ」



ルティが、ぴょこっと立ち上がる。



少しだけ足元がふらついて。



「……あぶない」


ザーラが手を伸ばす。



けれど、その前に。


光が、ふわっと足元へ集まる。




「……?」




ルティの足元を、やさしく包み込む光。




「……だいじょぶ!」


得意げに、胸を張る。




「……」


リオンが、小さく息を吐く。




「……守られているな」


ぽつりと、静かに。




「……?」


ルティには、その意味はまだわからない。




けれど。



「……えへへ」




ただ、嬉しそうに笑う。



それだけで場の空気が、少しだけ軽くなる。




少し離れた場所で。



ミーナが、その様子を見つめている。



「……」


その目は、とてもやわらかい。



小さく、誰にも聞こえない声でつぶやく。



「……よかったね」


誰に向けたものでもない。




けれど確かに。




この時間は。



やさしく、守られている。

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