第67話 しっていた道
精霊の光が、ゆっくりとほどけるように散っていく。
静けさが、再びこの場所に戻ってくる。
でも。
どこか、さっきよりも深く沈んだ静寂。
「……」
ミーナは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
視線は、ザーラとルティへ。
そして。
ほんの少しだけ、リオンの方へ向く。
「……」
息を、ひとつだけ吐き出す。
それから。
ぽつりと、言葉を落とす。
「……ねえ」
「……?」
ザーラが、ゆっくり振り向く。
「……」
ミーナは、少しだけ迷う。
言うべきかどうかを測るように。
それでも。
決めたように口を開く。
「……なんで、わたしがここに来れたと思う?」
「……」
空気が、わずかに変わる。
リオンの目が、静かに細められる。
「……」
ザーラは、首をかしげる。
「……追いかけてきたから、じゃないの?」
「……」
ミーナは、少しだけ苦く笑う。
「……それだけで来れる場所じゃないでしょ、ここ」
「……」
沈黙が落ちる。
たしかに。
普通の人間なら、辿り着けない場所。
「……」
ミーナが、視線をゆっくり落とす。
ほんの少しの迷いとためらい。
「……あのね」
小さく、打ち明けるように。
「……わたしの旦那」
「……」
ザーラが、わずかに目を見開く。
「……木こりをしながら狩りしてるって、言ってたでしょ。
「……うん」
「……」
一瞬だけ、間が空く。
それから。
言葉を選ぶように続ける。
「……“森の奥”も知ってる人だったの」
「……!」
リオンの視線が、一気に鋭くなる。
「……どういう意味だ」
低く、探るような声。
「……」
ミーナは、ゆっくりと顔を上げる。
覚悟を固めたように。
「……昔、調査隊にいたの」
「……!」
空気が、一瞬で張りつめる。
「……外の……?」
ザーラが、息を呑みながら問う。
「……」
ミーナは、小さくうなずく。
「……今の“あの人たち”とは、少し違うけど」
「……でも、同じ側」
「……」
リオンの目が、さらに細くなる。
明確な警戒の色。
「……」
ミーナは、その視線を受け止めたまま。
逃げずに続ける。
「……帰ってきてからは、ほとんど何も話さなかった」
「……」
「……でもね」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「……一度だけ、言ったことがあるの」
『あそこには、行くな』
「……」
空気が、さらに重く沈む。
「……」
ミーナの声が、わずかに震える。
「……“見つかるから”って」
「……!」
リオンの呼吸が、ほんのわずかに変わる。
「……それで、わたし」
「……」
ゆっくりと視線を上げる。
まっすぐに、ふたりを見る。
「……逆に、わかったの」
「……あそこに、何かあるって」
沈黙。
「……」
ザーラが、小さく言葉を探す。
「……じゃあ……」
「……」
ミーナは、はっきりとうなずく。
「……この道、教えてもらった」
「……!」
その一言が、場に落ちる。
「……全部じゃないけど」
「……」
「……“入れる場所”だけ」
「……」
リオンが、低く問いかける。
「……その男は、今どこにいる」
「……」
ミーナは、少しだけ視線を外す。
ためらいと、わずかな不安。
「……村にいる」
一拍、間が落ちる。
「……でも」
「……」
言葉が、重くなる。
「……あの人、気づいてると思う」
「……!」
ザーラの心臓が、大きく跳ねる。
「……わたしがここに来たことも」
「……」
「……たぶん」
「……追手が動いたことも」
静寂が、落ちる。
つまり。
“外”と繋がる目は、まだ残っている。
「……」
リオンが、静かに言う。
「……厄介だな」
「……」
だが。
ミーナは、小さく首を振る。
「……わからないよ」
「……?」
「……あの人が、どっちにつくか」
「……」
その言葉には。
かすかな希望と、消えない不安が混ざっている。
「……」
ザーラが、腕の中のルティを見下ろす。
静かに眠っている。
何も知らないまま。
「……」
小さく、つぶやく。
「……また、増えたね」
「……?」
ミーナが、聞き返す。
「……守るものが」
「……」
静かに。
でも確かに。
物語は、さらに広がっていく。




