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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第65話 行き先の名

森の奥深く。


あの騒ぎが嘘のように、静けさが戻っている。



でも、その静けさは、もう前とはまったく違う。




「……」


ザーラは、ルティを抱いたまま歩き続けている。


足取りは、慎重にゆっくりと。



それでも、迷いだけは一切ない。



「……」


ミーナが、そのすぐ隣を並んで歩く。



何度も、後ろを振り返る。



もう追手の気配は、感じられない。



それでも。



完全に安心することはできない。




「……」


リオンは、少し前を進んでいる。



道を切り開くように、迷いなく歩いていく。




まるで。




“知っている場所”へ帰るように。




「……ねえ」




ミーナが、小さく声をかける。



「……これから、どうするの」



「……」


その問いは、重く沈む。



でも。



避けては通れない問いでもある。



「……」


ザーラは、ほんの一瞬だけ考えて。



それから。



すぐに視線を前へと上げる。



「……守れる場所に行く」



余計な飾りのない、シンプルな答え。



「……」


ミーナが、少しだけ眉を寄せる。



「……そんな場所、本当にあるの?」




「……」


短い沈黙が落ちる。




その問いに応えたのは。




リオンだった。



「……ある」



迷いのない、短い返答。



「……」


ふたりの視線が、同時にリオンへ向く。



「……どこなの」



ミーナが、問いを重ねる。



「……」


リオンは、わずかに立ち止まる。



森の奥を、じっと見据える。



さらに深く、人の踏み入らない領域へ。



「……」


低く、静かに言う。



「……“ずれてる場所”だ」



「……?」




ミーナが、理解できずに首をかしげる。



「……」


ザーラは、その言葉に息をのむ。



あの遺構で感じた違和感。



“世界が重なっていた”あの感覚。



「……」


リオンが、さらに説明を続ける。



「……精霊領域に近い場所だ」



「……!」




ミーナの目が、大きく見開かれる。




「……そんな場所……本当に存在するの……」




「……」


リオンは、静かにうなずく。




「……人間の認識から、外れている」



「……」


一歩、前へ踏み出す。




「……だから、追跡もされない」



「……」


その言葉には。




確かな希望と、拭えない不安が混ざっている。




「……」


ザーラが、腕の中のルティを見る。



眠っている。



けれど。



その存在は、もう“普通”ではない。



「……」


静かに、問いかける。




「……そこなら」



一拍、言葉を区切って。



「……この子、守れるの?」



「……」


リオンが、わずかに視線を落とす。



珍しく。



ほんの少しだけ迷う。



「……」


それでも、答えを出す。



「……“時間は稼げる”」



「……」


完全な保証ではない。



それでも。



現実に基づいた答え。



「……」


ミーナが、小さく息を吐く。




「……それでも、行くしかないか」



「……」


ザーラは、迷いなくうなずく。



「……うん」



ルティを、強く抱きしめ直す。



確かめるように。



「……行く」





そのとき。



風が、ふわりと吹き抜ける。



さっきまでの空気とは違う。



やわらかく、包み込むような感触。



それでいて。




どこかに“意思”を感じさせる。



「……?」




ミーナが、不思議そうに周囲を見回す。



「……今の……なに……」



「……」


リオンが、ゆっくりと空を見上げる。



ほんのわずかに、目を細める。




「……歓迎されてるな」



「……え?」



「……」


それ以上は、何も語らない。




だが。




道は、自然と開けていく。



枝が避けるように揺れ。



足元が、導くように整っていく。



「……」


ザーラは、はっきりと気づく。



ここは、もう。



ただの森ではない。





“向こう側”に、近づいている。





ルティが、腕の中でわずかに動く。




「……」


目は閉じたまま。



それでも。



小さく、つぶやく。



「……きれい……」



「……」


ザーラが、そっと微笑む。




涙の跡を残したまま。



ほんの少しだけ。



「……そうね」




その先。



木々の隙間の向こうに。



淡く光る場所が見えてくる。



まるで。



世界の境界そのもののように。



リオンが、静かに立ち止まる。



振り返り。



ふたりを見る。



「……ここから先は」



低く、静かに。



「……戻れない」




「……」


ミーナが、息を呑む。



「……」


ザーラは。



ほんの一瞬だけ、後ろを振り返る。



もう見えない景色。



戻ることのできない場所。



守られていた日常。




「……」


そして。



迷いなく、前を向く。




「……いい」




一歩、踏み出す。




そのまま。




光の中へ。

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