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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第64話 世界よりも大切なもの

静寂。




さっきまで満ちていた光は、すでに消えている。



遺構は、まるで何事もなかったかのように。



ただの石へと戻ったように見える。



「……」


誰も、すぐには動こうとしない。



あまりにも大きすぎる出来事が。



現実として、重くのしかかっている。





「……」


ザーラは、ルティを抱いたまま。



その場に、力を抜いたように座り込んでいる。



腕が、まだわずかに震えている。



それでも。



決して、離そうとはしない。



「……」


ルティは、静かに眠っている。



すべてから解放されたように。



小さく、規則正しく息をしている。



「……」


ミーナが、様子をうかがうように近づく。



足音を消すように。



ゆっくりと。



「……大丈夫……?」



小さく、気遣う声で。



「……」


ザーラは、かすかにうなずくだけ。



言葉にする余裕は、まだない。




「……」


リオンは、立ったまま。



周囲の気配を探るように見渡している。



警戒は、いまだに解いていない。



「……」


そして。


ゆっくりと視線を前へ向ける。





追手たちのいる方へ。




彼らもまた、動いていない。



剣は下げられている。



だが。



完全に収めたわけではない。



「……」


空気が、緊張を保ったまま張りつめている。



戦うべきか。



それとも、退くべきか。



誰もが、決めきれずにいる。



その中で。



ひとりだけ。



最初に前へ出ていた男が。



ゆっくりと顔を上げる。



「……」


その視線は、ルティへ向けられ。



そして。



ザーラへと移る。



さっきの言葉が。



「……いっしょがいい……」




耳の奥に、残り続けている。



消えることなく。





「……」


男の手が、わずかに動く。



剣の柄を、握る。



力が、わずかにこもる。



だが。



「……」


その剣を、抜こうとはしない。



代わりに。



低く、抑えた声で言う。



「……報告内容を、変更する」



「……!」



隊のひとりが、即座に反応する。



「……何を言っている……」



「……」


男は、視線を逸らさないまま。



淡々と続ける。



「……対象は、不安定だ」


事実として。



「……制御不能の可能性が高い」



これもまた、事実。



「……」


一拍、間を置く。




「……現時点での強制確保は」




言葉を選ぶように、わずかに間を取る。



「……“危険”と判断する」



「……!」



空気が、わずかにざわつく。



「……隊長、それは……」



「……」


隊長である彼は、静かに言い切る。



「……任務の重要性は理解している」



低く、落ち着いた声で。



「……だが」



ほんのわずかに、視線が揺れる。



一瞬だけ。




「……さっきのを、見ただろう」




沈黙が落ちる。



誰ひとりとして、否定しない。




「……」


彼は、そのまま続ける。



「……あれを、力で抑え込めると思うか」



「……」


返答は、ない。



いや。



答えは、すでに全員の中にある。



無理だ。




「……」


隊長が、ゆっくりと息を吐き出す。


「……ならば」



「……」



「……ここで無理をする理由はない」




「……」


ミーナが、小さく息を呑む。




「……」


ザーラも、静かに顔を上げる。




「……」


隊長は、結論を告げる。



「……一時撤退する」




「……!」



ざわり、と空気が揺れる。



「……本部には、そのように報告する」



「……」


それは。




完全な裏切りではない。



だが。



決して、従順とも言えない選択。



「……」


彼は、最後に。



ほとんど聞こえないほどの小さな声で。



つぶやく。



「……あれは……“道具”じゃない」




「……」


リオンが、その言葉を聞き取る。



ほんのわずかに。



目を細める。



「……」


ザーラは、何も言わない。



ただ。



ルティを、もう一度強く抱きしめる。



「……」


ミーナが、小さく口にする。



「……行こう」



その一言で。



止まっていた空気が、わずかに動き出す。



逃げる時間は、できた。



だが。



終わったわけではない。



隊は、ゆっくりと後退を始める。



警戒を解くことなく。



視線を外すこともなく。




そして。




やがて森の闇へと、静かに消えていく。



その場に残されたのは。



ザーラたちだけ。



静寂。



だが。



それはもう。



“守られていた日常”ではない。




「……」


リオンが、低く口を開く。



「……時間は、あまり残されていない」



「……」


ザーラが、静かにうなずく。



腕の中のぬくもりを。



もう一度、確かめるように抱きしめながら。



「……」


小さく。




だが、はっきりと。




「……行こう」

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