第63話 いっしょがいい
光の円。
その中心で。
ルティは宙に浮いたまま、静かに、涙を流し続けている。
「……ざーら……」
か細く、今にも消えそうな声。
小さく、震えている。
「……!」
ザーラは、必死に手を伸ばし続ける。
指先が、かろうじて触れている。
離れそうで。
それでも。
決して、離さない。
「……ここにいる!」
何度でも、繰り返して言う。
届かせるために。
繋ぎ止めるために。
「……」
光が、わずかに揺らぐ。
“それ”が、じっと見ている。
深く。
静かに。
声が、落ちてくる。
直接。
心の奥底へと。
――選別を開始する
「……!」
誰一人として、動くことができない。
止める術もない。
「……」
言葉が、さらに続いていく。
――境界の核は
――本来、分離されるべき存在
「……」
ザーラの心臓が、強く打ち鳴らされる。
嫌な予感が、はっきりと形を取る。
――感情による安定は
――不完全であり、極めて危険
「……っ」
ザーラの手が、小さく震える。
それでも。
決して、離さない。
「……」
“それ”は、淡々と結論を告げる。
――よって
――分離・固定を推奨する
「……!」
ミーナの目が、大きく見開かれる。
「……分離って……」
声にならないまま、途切れる。
「……」
リオンが、強く歯を食いしばる。
理解してしまったから。
それが意味するものを。
「……」
ザーラは。
嫌でも、分かってしまう。
「……」
それは。
ルティを――
「……」
“人として”扱わないということ。
声が、さらに続く。
――だが
わずかな、間。
「……?」
――例外を確認
「……!」
“それ”の視線が、ザーラへと向けられる。
強く。
はっきりと。
「……」
息が、止まる。
逃げることはできない。
「……」
言葉が、静かに落ちる。
――保持者との結合状態
――異常だが、安定している
「……」
ザーラの指に、さらに力がこもる。
ルティを、引き寄せるように。
「……」
ルティもまた、必死に握り返す。
小さな手で。
確かめるように。
「……」
“それ”が、判断を下す。
冷静に。
そして、容赦なく。
――選択肢を提示する
「……!」
空気が、張りつめる。
「……」
逃げ場は、どこにもない。
ただ、聞くしかない。
――一
――分離・固定
「……」
言葉が、重く沈む。
――核を安定化し
――世界への影響を最小化する
「……」
その代償は。
言葉にはされない。
だが、はっきりと理解できる。
――ルティは、“ルティ”ではなくなる
―― 二
――現状維持
「……!」
わずかに、光が揺れる。
――保持者との結合を継続
――不確定要素を許容
「……」
つまり。
今のまま、一緒にいられる。
だが。
――ただし
その一言で、空気が凍りつく。
――境界の不安定化は進行する
「……」
ザーラの呼吸が、浅くなる。
――臨界に達した場合
――周辺領域の崩壊が予測される
「……!」
ミーナが、息を呑む。
「……そんな……」
一緒にいれば。
世界が、壊れるかもしれない。
「……」
沈黙が落ちる。
重く。
逃げ場のないまま。
“それ”が、最後に告げる。
――選べ
完全な静寂。
誰も、口を開けない。
ザーラの中で。
時間が、止まる。
ルティの手。
小さくて。
あたたかくて。
震えている。
「……ざーら……」
涙混じりの声。
「……いっしょ……がいい……」
「……」
その一言で。
すべてが、揺らぐ。
ザーラの目から、涙がこぼれる。
静かに。
けれど。
止められないまま。
「……」
ゆっくりと。
息を吸い込む。
顔を上げる。
“それ”を、まっすぐ見る。
震えている。
怖い。
それでも。
はっきりと、言い切る。
「……二番」
「……!」
その場の全員が、息を呑む。
「……この子と、一緒にいる」
声は、確かに震えている。
それでも。
決して、折れない。
「……世界がどうなるかなんて」
一瞬、言葉が詰まる。
それでも。
「……知らない」
「……!」
ミーナの目が揺れ。
リオンが、静かに目を細める。
ザーラは、さらに続ける。
「……この子は、ひとりじゃない」
ルティを、強く抱きしめる。
「……わたしがいる」
「……」
その言葉が。
静かに、空間へ落ちていく。
静寂。
“それ”が、沈黙する。
長く。
深く。
そして。
わずかに。
ほんのわずかに。
光が、揺らぐ。
――選択を確認
その声は。
ほんの少しだけ。
変化していた。
――不確定要素を受理
「……!」
光が、一気に収束していく。
ルティの体が、ふっと落ちる。
「……!」
ザーラが、しっかりと抱きとめる。
離さないように。
光が、完全に消える。
跡形もなく。
静寂。
すべてが終わったあとに残るのは。
ルティの、小さな寝息だけ。
そして。
ザーラの、わずかに震える腕。




