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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第61話 抱きしめる理由

静寂。



さっきまで続いていた揺れが、嘘みたいにぴたりと止まっている。



「……」


誰もが、すぐには動き出せないまま立ち尽くす。



ただ。



視線だけが、吸い寄せられるようにひとつへと集まる。



ルティへ。






ザーラの腕の中に抱かれたまま。



小さな体が、かすかに震えている。



「……」


ザーラが、壊れものに触れるみたいに、そっと背をなでる。



「……大丈夫」



もう何度繰り返したか分からない言葉。



それでも。



今は、それ以外にかけられるものがない。






「……」


追手の男が、間合いを測るように一歩だけ前へ出る。



さっきまでとは明らかに違う。



慎重さを帯びた動き。



「……」


剣はすでに下げられている。



だが、その全身から油断の気配は消えていない。



「……」


低く、押し殺した声で口を開く。



「……今の現象についてだが」




一拍。




言葉を慎重に選ぶ間。



「……あれは、この子によるものか」



「……」


ザーラは、あえて答えない。



ただ。



抱きしめる腕に、わずかに力を込めるだけ。




「……」


沈黙が落ちる。



重く、逃げ場のない静けさ。




「……」


男は、その沈黙を受け止めたまま続ける。



「……我々の認識は、修正する必要があるようだ」



「……?」



ミーナが、小さく息を呑む音を漏らす。




「……」


男の視線が、ルティへと向けられる。




先ほどまでとは違う。




“対象”を観察する目ではない。




“危険”を測る目。




「……」


それでも声色は、あくまで冷静なまま。



「……あれを、このまま放置するわけにはいかない」



「……」



ザーラが、低く押し返すように言う。



「……“あれ”じゃない」



その一言で。



空気が張りつめる。



「……この子には、ちゃんと名前がある」



はっきりと、拒むように。



「……ルティよ」



「……」


男の表情が、わずかに揺らぐ。



ほんの一瞬だけ。





「……」


それでもすぐに、何事もなかったかのように戻る。



「……ルティ」



その名を、確かめるように口にする。



「……」


その響きが。



ほんのわずかに、場の空気を変える。




「……」


男は、息をひとつ吐く。



「……ルティは、危険だ」



「……!」



ミーナが、はっきりと反応する。



「……っ」


ザーラの目が、鋭く細められる。




「……違う」




間を置かない即答。



「……」


男は、ゆっくりと首を振る。



否定ではなく。あくまで訂正するように。




「……違わない」




静かに、断言する。



「……危険なのは、“この子”そのものじゃない」




一拍置いて。



「……この子が、引き起こすものだ」



「……」


その言葉は、重く沈む。



簡単には、否定しきれない響き。




「……」


ザーラの視線が、わずかに揺れる。




ほんの一瞬だけ。



「……」


その変化を、男は見逃さない。



「……」


さらに言葉を重ねる。



「……だからこそ、我々が管理する必要がある」



「……!」




ミーナが、歯を食いしばる。




「……管理って……」




言いかけて。



しかし、途中で止まる。




その言葉の重さを、理解してしまったから。




「……」


ザーラが、ゆっくりと口を開く。




「……管理して」



低く、抑えた声で。



「……どうするの」



「……」


男は、一切迷わない。



「……安定させる」



短く言い切る。





「……そして、制御する」





「……!」



その瞬間。



空気が、はっきりと変質する。



誰の目にも分かるほどに。



「……」


ザーラの目が、すっと冷たくなる。



「……それが本音ね」



「……」


男は、否定しない。



「……」


沈黙そのものが、答えになっている。





「……」


ザーラが、ルティを抱き直す。




さっきよりも、ずっと強く。




「……渡さない」




はっきりと。




迷いを含まない声で。



「……」


男の目が、わずかに細められる。



「……」


周囲の隊員たちも、かすかに動く。



張りつめる緊張。



再び、戦いの気配。



「……」


リオンが、一歩前へ出る。




わずかな距離を詰めて。




「……」


視線を、まっすぐ男へ向ける。




「……ひとつ、聞かせろ」




静かな声で。




「……」


男が、その視線を受け止める。




「……」


リオンの声は低い。




だが、刃のように鋭い。




「……“安定させた後”は、どうする」




「……」


一瞬。




ほんのわずかに男の目が揺れる。



「……」


沈黙。



それが、すべてを物語る。



「……」


リオンが、小さく笑う。



皮肉を含んだ、ごく短い笑み。



「……やっぱりな」




「……」


空気が、さらに冷え込む。




「……」


ザーラは、理解する。




言葉にされなくても。




「……」


その先にあるもの。





“利用”。






そのとき。




ルティが、かすかに身じろぎする。




「……」


閉じていた目が、ゆっくりとうっすら開く。




ぼんやりとした視界で。




周囲を見回す。




見知らぬ人々。




張りつめたままの空気。




「……」


小さく、か細い声でつぶやく。




「……ざーら……」




「……」


ザーラが、すぐに応える。




「……ここにいる」




「……」


ルティが、安堵したように息を吐く。




それから。




ぽつりと、続ける。



「……いかないで……」



「……」


その一言が。



静かに、場の空気を切り裂く。



「……」


ザーラが、さらに強く抱きしめる。



「……行かない」



はっきりと、言い切る。






沈黙。





誰も、すぐには動けないまま。






そして。




男が、最後に口を開く。




「……では」



一歩、静かに下がる。




「……選択だ」




「……」




「……ここで引き渡すか」




「……」




「……それとも――」




わずかに視線を上げる。




遺構の奥へ。



まだ消えていない光の方へ。




「……共に崩れるか」




「……」


静かに。




しかし確実に。




“次”が、すぐそこまで迫っている。


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