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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第59話 ……けど

遺構の奥深くで脈打ち続ける光は、先ほどよりもわずかに強さを増しながら、静かに空間全体へと広がっている。


その中心でザーラはルティを抱いたまま、まるでその場に縫い止められたかのように動けずにいた。




つい先ほど耳にした“声”の余韻がまだ胸の奥に残り続けていて、言葉としてではなく感覚として、じわじわと彼女の内側を締めつけている。




一方でリオンは、周囲の気配を探るように静かに視線を巡らせており、その佇まいは落ち着いているように見えながらも、確実に何かの接近を感じ取っていた。




やがて彼は低く「……来る」と告げ、その短い一言にザーラははっと顔を上げる。


「……どれくらい」


問い返すが、リオンは一度目を閉じて感覚を研ぎ澄ませるように間を置いたのち


「……もう近い」とだけ、簡潔に答える。




その言葉を合図にしたかのように空気が張りつめた直後、――ぱき、と小さく枝が折れる音が響き、ザーラは反射的に振り向き、リオンも同時に構えを取る。




闇の奥からはひとつの気配が近づいてきている。


それは軽いながらもどこか焦りを帯びていて、次の瞬間、影が弾かれるように飛び出した。




「――ザーラ!!」


と叫ぶその声は聞き慣れたもので、ザーラは驚きに目を見開く。



「……ミーナ!?」


ミーナは息を荒くしながら駆け寄ってくる。





青ざめた顔。


「……なんでここに」



問われるより早く、「……それどころじゃない!」と即座に言い切るミーナ。



その様子に、ザーラの表情もすぐに引き締まる。




ミーナの視線が一瞬だけルティへと向かう。



その小さな姿にわずかな安堵が浮かぶものの、すぐにそれを押し殺す。



「……あの子、追われてる」



「……“鍵”って呼ばれてる」


言葉が落ちた瞬間、空気は凍りつき、ザーラの腕には無意識のうちに強い力がこもる。




リオンは何も言わず、ただ目を細めてその情報を受け止める。


ミーナは続ける。


「……確保が最優先」


わずかに言葉を詰まらせながら


「……抵抗したら……」と続ける。




その先をザーラが先に察する。


「……殺す気ね」


言い切ると、ミーナは答えないまま沈黙し、その沈黙自体がすべてを物語っていた。




その間にもルティは眠ったままわずかに身じろぎする。



不安を感じ取るように眉を寄せる。



ザーラはそっとその頭を撫でながら「……大丈夫」と小さく、しかし確かな声で言い聞かせる。





そのときリオンが「……遅い」と低く呟き、ザーラが「……?」と視線を向ける。



彼は入口の方向を見据えたまま「……もう囲まれてる」と告げる。




「……!」


ミーナが振り返る。


「……そんなはず……!」


否定しかけたその言葉を遮るように、――ざっ、と複数の足音が闇の中から響き始める。





ひとつではない、複数の気配がゆっくりと、しかし確実に近づいてきている。



やがて光の縁に影がにじむように現れ、ひとつ、またひとつと姿を現して出口を塞いでいく。




ミーナの顔から血の気が引く。



「……早すぎる……」


呟く中、リオンは静かに一歩前へ出て、ザーラたちを背に庇うように立つ。




その背中には迷いがない。


「……下がってろ」


短く告げられたザーラは一瞬だけためらうものの、すぐにルティを抱き直して一歩下がる。


ミーナもその隣に身を寄せる。




やがて影の中からひとりの男が前に進み出て、無駄のない動きで光の中へと姿を現す。



感情を抑えた冷静な声で、「……抵抗は無意味だ」と告げる。




それに対してリオンはわずかに口元を歪める。


「……誰に言ってる」

返すと、男の視線は一瞬だけルティへと向かい、ほんのわずかに揺らぐ。




しかしその迷いはすぐに押し込められる。


「……対象を引き渡せ」


任務通りの言葉が続き、ザーラは迷うことなく一歩前に出てリオンの隣に立つ。




「……断る」


即答したその声には一切の迷いがなく、空気は再び鋭く張りつめる。



「……ざーら……」

ルティが小さく呟く。


全員の視線が集まる中、目を閉じたまま細い手を伸ばす。


ザーラはすぐにそれを握り返し「……ここにいる」と応える。




そのやり取りを見た追手の男の目に、ほんのわずかな迷いが浮かぶものの、それでも次に発せられた言葉は冷酷なまま。


「……ならば、力づくで確保する」と一歩踏み出す。




その瞬間、遺構の光がさらに強く脈打ち、空間全体がわずかに震えるように応じて、まるでこの選択そのものを見届けているかのように、静かに、しかし確実に存在を主張していた。

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