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境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


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第58話 森の外縁

森の外縁に差しかかった夜の闇の中で、ひときわ低く抑えられた声。



「……止まれ」

短く響いた瞬間、進んでいた隊は示し合わせたかのように一斉に足を止めた。



そして、その場に張りつくように静止する。




周囲の空気は、不自然なほどに重く沈み込んでいる。



そして……さっきまでかすかに流れていた風さえも、ぴたりと止まっている。



まるで、森そのものが息を潜めているような気配が漂っていた。




ひとりの男がわずかに眉をひそめながら空を見上げる。



「……妙だな、静かすぎる」


呟きとともに、別の男が警戒するようにしゃがみ込む。



地面へ手をついて慎重に感触を確かめる。




触れた土は夜気を吸って冷たく沈んでいるはずなのに、その奥で何かが脈打つような違和感がある。


「……脈打ってる……?」


戸惑い混じりに言葉を漏らしたその声に、周囲が一瞬ざわめく。





「……は?」


と疑う声が返る中、耳を澄ませばごく微かな振動が確かに伝わってくる。



――どくん、どくん、と規則的に刻まれるその気配に、誰もが言葉を失いかける。





そのとき、先頭に立っていた男がゆっくりと振り返る。



「……“来てる”」


揺るぎない確信を宿した目でと短く告げた瞬間、場の空気が張り詰めた糸のようにぴんと緊張する。




「……どっちだ」

問う声に対して、わずかな間が置かれる。



「……奥だ」

返された、その視線の先――森のさらに奥。


遺構の方向が示されたことで、隊の中にざわりとした動揺が広がる。




「……まさか」


「……ありえない」



否定の言葉が漏れるものの、そのどれもが確信を伴わない。



誰一人として完全に否定しきれないまま、不安だけが静かに積み重なっていく。





やがて先頭の男が「……本部に伝達」と指示を出す。



短い魔導通信が開始されると、報告する声にはわずかな震えが混じる。



「……境界反応、確認」


「……規模、増大中」と簡潔に状況が伝えられる。




通信の向こう側では一瞬の間が空いたあと、低く抑えられた声。


『……座標、固定しろ』




「……対象の確認は」



わずかな沈黙ののち。



『……最優先で確保』と告げられる。




『……繰り返す、対象は――』


言いかけたその声がほんの一瞬だけ揺らぎ、ためらいを滲ませる。



『……“鍵”と推定される存在だ』


続けられたことで、隊の緊張は一段と強まる。





『……生存状態で回収』



「……抵抗があれば?」と確認が入ると、短い間を置いたのち、冷え切った声。



『……排除は許可する』と告げられ、通信はそこで途切れた。





残された沈黙は重く、誰もすぐには口を開けない。



やがて先頭の男が「……行くぞ」と言い放つ。



その鋭い視線の奥に、単なる任務以上の何かが潜んでいることを感じさせる。



「……本当に、あれなのか」


彼は誰にも聞こえないほど小さな声で呟くが、その疑問は闇の中へ溶けていき、誰にも拾われることはなかった。



その一方で、少し後方の木々の隙間には、気配を殺して潜むもう一つの影がある。


ミーナは息を潜めながら先ほどの会話をすべて聞き取っていた。




「……鍵……?」と小さくこぼした言葉の意味を完全には理解できない。



それでも胸の奥に広がる嫌な予感だけははっきりと形を持つ。



「……ルティ……」

名前を呼んだ瞬間、強い不安が込み上げる。




ぎゅっと拳を握りしめながら迷いは一瞬だけ生まれるものの、すぐにそれを振り切る。


顔を上げ、森の奥――遺構の方向をまっすぐ見据える。


小さく息を吸い込む。



「……先に行かなきゃ」 と決意を固める。




そして彼女は音を立てぬよう細心の注意を払いながら、それでも焦りを抑えきれない足取りで森の奥へと駆け出し、闇の中へと溶け込んでいった。




その直後、隊のひとりがふと足を止める。


「……?」


違和感に気づいて振り返る。



「……今、何か……」


曖昧な感覚は確信に変わることない。



「……なんでもない」


首を振って再び前を向く。




こうして、彼らはまだ知らないまま進んでいく。


――この先に待つ“それ”が、単なる回収対象などでは到底収まらない存在であることを。




そして森の奥深く、遺構の中心では、微かに脈打つ光が先ほどよりも確かに強さを増しながら、まるでこちら側の気配に応じるかのように、静かに、しかし確実に応答していた。


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