表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/161

第55話 夜の遺構

夜の遺構の内部には、昼間とは違う静けさが満ちており、壁に刻まれた光だけが、かすかに揺らめきながら空間を淡く照らしている。




ルティはザーラに抱きしめられたまま、その腕の中で体を預けている。



乱れていた呼吸も次第に落ち着きを取り戻しつつあった。




それでも、安心しきれないのか、彼女の小さな手はザーラの服をぎゅっと掴んだまま離れない。



指先にかすかな震えが残っている。




ザーラはそんな様子を感じ取りながら、「大丈夫」と低くつぶやく。



それがルティに向けた言葉であると同時に、自分自身に言い聞かせるためのものでもあるように響く。




少し離れた場所に立つリオンは、その光景を横目にしながらも、意識の大半を遺構のさらに奥へと向けていた。




そこには先ほどまで存在しなかったはずの“道”が、淡い光の線となってゆっくりと浮かび上がり、奥へ奥へと導くように伸びている。




ザーラもやがてその異変に気づき、視線をそちらへ向ける。



「何あれ」 


と警戒を含んだ声で問いかける。




リオンはすぐには答えず、わずかな間を置き「呼ばれているな」と静かに告げる。




その言葉に、空気が一段階冷えたような感覚が走り、ザーラはさらに問いを重ねる。




「誰に」と。




しかし、その答えはすでに二人の中で共有されている。



自然と視線は同じ対象――ザーラの腕の中にいるルティへと向けられる。




小さな体はまだ完全には落ち着いていない。



かすかな震えを残したまま、どこか遠い場所に意識を置いているようだった。




そのとき、ルティの指先がわずかに動き、ゆっくりとザーラの服を掴んでいた手が離れていく。




宙を探るように漂ったその手は、やがて迷いなく遺構の奥を指し示す。




「あっち……」


かすれた声でつぶやく。




ザーラの表情が一瞬で固まる。



「ルティ?」


呼びかけるが、彼女は目を閉じたまま、もう一度同じ方向へ指を伸ばす。




「いかなきゃ……」



言葉は小さく、それでいて不思議なほどはっきりと響いた。




リオンの目が細まる。


その言葉に確信の色を帯びる一方で、ザーラは即座に首を振る。



「だめよ、今は休む」


強い口調で否定する。




その瞬間、眠ったままのはずのルティの眉がわずかに寄る。



ぽつりと、つぶやく。 



「おこる……」




次の瞬間、遺構全体が低く唸るような音を響かせ、空間そのものが震える。




ザーラは反射的にルティを強く抱きしめ、周囲の光は一斉に強まる。



さきほどとは比べものにならないほどの輝きを帯びる。



リオンはその変化を見逃さず、奥へと続く光の道に視線を向ける。



それが今度は広がるように形を変え、まるで何かが“開こうとしている”かのように脈動しているのを確認する。




「時間がない」


リオンは低く告げる。



「説明しなさい」


ザーラは鋭い視線を向け、短く迫る。




リオンは一度だけ息を吐き、言葉を選びながら続ける。



「これは選択だ」



進めば戻れない。


しかし進まなければより大きな崩壊が起きる―


―その簡潔な説明は、状況の重さを十分に伝えていた。




ザーラの腕に力がこもり、ルティを守るように抱きしめながら、その視線がわずかに揺れる。



守るために留まるか、それとも進むことで守るのか――その選択が迫られている。



そのとき、ルティがうっすらと目を開く。




「ざーら……」


弱く呼びかける。




ザーラはすぐに顔を近づけ、「なに」と優しく応じる。



ルティはぼんやりとした意識のまま、それでもまっすぐにザーラを見つめる。



「だいじょうぶ……」と小さく告げる。



「いっしょ……だから……」と、かすかに笑みを浮かべる。




その言葉は短く、それでいて確かな重みを持ってザーラの中に落ちる。




ザーラはゆっくりと息を吐き、一度目を閉じてから開き直す。



迷いを振り切るようにリオンへ視線を向ける。




「行くわよ」

告げる声には、揺るぎない覚悟が宿っていた。



リオンは短くうなずき、「ああ」と応じる。



ザーラはルティを抱えたまま立ち上がり、一瞬だけ体勢を崩しかけるが、すぐに抱き直してしっかりと支える。



ルティは再び服をぎゅっと掴み、その温もりにしがみつくように身を寄せる。



三人はそのまま、静かに、しかし確かな意志をもって、光の道へと一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ