表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/156

第48話 触れてはいけないもの

森の奥。




夕方の光がゆっくりと沈みはじめて、木々のあいだに差し込んでいた淡い明るさが、少しずつ色を失いながら、影のほうへと傾いていく。



「……」


三人は、その中を静かに進んでいる。



足音を殺すように。



けれど止まることはせずに。



「……」


さっきまでの、わずかに緩んだ空気は、まだ完全には消えていない。



ほんの少しだけ残っている。



だが。





「……」


ルティが、小さくあくびをこぼす。



張り詰めていた時間の反動のように。



「……」


それを見て、ザーラの口元がほんのわずかに緩む。



緊張の中に差し込む、ごく短い隙間。



その瞬間。



「……」


リオンの足が、ぴたりと止まる。




不自然なほど正確に。



音もなく。



「……?」


ザーラも、すぐに気づく。



反応は早い。



「……どうした」


低く問う。



「……」


リオンは答えない。



ただ。



視線を前に据えたまま、わずかにも動かない。



「……」


空気が、変わる。



さっきまでとは明らかに違う、重く沈んだ気配が、静かに広がっていく。



「……」


次の瞬間。



「……そこまでだ」


低く、冷たい声が、前方から落ちる。



「……」


木々の隙間から、影が現れる。



一人ではない。






数人。



「……」


装備が違う。



無駄のない配置。



統率の取れた立ち方。



先ほどの連中とは、明らかに質が違う。



「……」


ザーラの呼吸が、わずかに乱れる。



理解する。



囲まれている。



逃げ場は、もうない。



「……」


ルティが、ぎゅっと手を握る。




怖い。



でも、声は出さない。



耐えるように。





「……」


そのとき。



前に立つ男が、ゆっくりと口を開く。



「……やっと追いついた」



「……」



「……その子を、渡してもらおうか」



「……」


空気が、凍りつく。



「……」


ザーラが、一歩前に出る。




迷いなく。




「……断る」


即答。




一切の揺らぎもない。



「……」


男が、わずかに口元を歪める。



「……そうか」



「……なら、奪うだけだ」



その言葉が落ちた瞬間。



空気が一気に切り替わる。



戦いの温度へと。






「……」


ルティの体が、びくっと震える。



「……」


その瞬間。



男の視線が、まっすぐにルティへ向けられる。



逃げ場のない、確定した“標的”として。



「……」


一歩、踏み出す。



その視線が、触れる。



“狙われた”と、はっきりわかる。



その瞬間。



「……やめろ」


低く、押し殺した声が落ちる。



リオン。






「……」


その声は、これまでと違う。



抑えているのに、深く響く。



「……」


男たちの動きが、わずかに止まる。



空気が、揺れる。



「……」


リオンが、一歩前に出る。



ザーラの横へ並ぶ位置に。



「……」


その目。



さっきまでとは、まるで別物。



金の瞳が、強く光を帯びている。



冷たいのではない。



だが。



確かに。



「……」


“怒っている”。



静かに。



深く。



底の方で。






「……」


男が、眉をひそめる。



「……なんだ、お前は」



「……邪魔をする気か?」



「……」


リオンは答えない。



言葉ではなく。



ただ、一歩前に出る。




「……」


その足が地面に触れた瞬間。



見えない“道”が軋む。



歪む。



「……」


空気が、一段重く沈む。



圧。



明確な、力の差。



「……」


男たちの表情が変わる。



理解してしまう。



“格が違う”。



「……」


それでも、引かない。




一人が踏み込む。



「……っ!」



その瞬間。



リオンが動く。



速い。



先ほどまでとは明らかに違う速度で。



一歩で間合いに入り。



「……!」


叩き落とす。





一撃。



音が、遅れて響く。



「……」


男が崩れ落ちる。



動かない。



「……」


リオンは止まらない。



次。



さらに次。



流れるように、連続して。



「……!」


男たちが次々に崩れる。



圧倒的。



だが。



「……」


その動きは、“整っていない”。



洗練ではない。



荒い。



「……」


無駄はないのに。



どこか削り取るような、容赦のなさがある。



「……」


ザーラが、気づく。



これは。






ただの戦闘技術ではない。



「……」


“壊すための動き”。



「……」


最後の一人が、震えながら立っている。



リオンの前に。



「……」


ゆっくりと、近づく。



逃げ場はない。



「……」


そのまま手を伸ばす。


首へ。



「……」


掴む。



そのまま、持ち上げる。



「……!」


男が、苦しげにもがく。



足が宙を掻く。



「……」


リオンの手に、力が込められる。



わずかに。



だが確実に。



「……」


ザーラの声が落ちる。



「……リオン」



止めるでもなく。





ただ、呼ぶ。





「……」


その声で、一瞬だけ動きが止まる。



ほんのわずかに。



「……」


続いて。




ルティの声。




小さく、震えながら。




「……りおん……」




怖い。




それでも。



呼んだ。



「……」


その声が、届く。



確かに。



「……」


リオンの手が、止まる。



完全に。


「……」


数秒の沈黙。



それから。



「……ちっ」


小さな舌打ち。



手を離す。




「……っ!」


男が地面に崩れ落ち、激しく咳き込む。



「……」


リオンは、何事もなかったかのように背を向ける。




だが。




「……」


肩が、わずかに上下している。



呼吸が、ほんの少し荒い。



「……」


ザーラは、それを見る。



理解する。



これは、ただの怒りではない。



「……」


“思い出している”。




何かを。



「……」


ルティが、ゆっくりと近づく。




まだ少し怖い。




それでも止まらない。




「……」


そっと、服の端をつまむ。




前と同じように。




「……」


リオンが、振り返る。



目が合う。



「……」


その瞳は、まだわずかに揺れている。



完全には戻っていない。




「……」


ルティが、言う。



「……だいじょうぶ」




今度は、守られる側ではなく。




言う側として。




「……」


その一言で。




リオンの中にあった何かが、静かに引いていく。




波が引くように。




「……」


目を閉じる。



一瞬だけ。



それから、開く。



元の瞳。




「……」


戻る。




何も言わずに。



ただ、そこに立っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ