第46話 光の中の色
森の中。
木々の合間から、わずかに光が差し込む場所に出て、さっきまでの閉じた暗さとは違う、ほんの少しだけ呼吸のしやすい空間が広がる。
「……」
三人はその中を歩いている。
もう走ってはいない。
それぞれが乱れた呼吸を整えながら、それでも足だけは止めないという、ぎりぎりの均衡で進んでいる。
「……」
ルティは歩きながら、何度も前をちらちらと見上げる。
リオンの背中。
決して大きすぎるわけではないのに、妙に視線を引きつける形をしている。
無駄がなく。
力みもなく。
それでいて、一歩ごとの動きに隙がない。
しなやかに、静かに、森と同じリズムで進んでいく。
「……」
そのとき。
枝葉の隙間から、細い光が差し込む。
ほんの一瞬だけ、空気の色が変わる。
「……」
その光を受けて、リオンの髪がふわりと揺れる。
深い色。
ただの黒ではない。
光を含んだその色は、角度によってわずかに変わり。
藍。
夜の底みたいに静かな、深い青。
「……!」
ルティの目が、わずかに見開かれる。
「……きれい」
思わずこぼれた声は、ほとんど無意識で、飾り気も遠慮もない、ただ感じたままの言葉だった。
「……」
リオンの足が、ほんの一拍だけ止まる。
振り返るほどではない。
だが、確かにその言葉は届いている。
「……」
すぐにまた歩き出す。
何も言わないまま。
それでも。
わずかに、その一言が耳の奥に残っている。
「……」
ザーラもまた、その色を目で追う。
「……」
確かに珍しい色だと、冷静に判断する。
この辺りでは見ない。
自然の中に紛れる色でありながら、どこか異質でもある。
「……」
そして、ふと視線が上がる。
リオンの横顔。
「……」
その瞬間、視線がぶつかる。
ほんの一瞬だけ。
「……」
その瞳。
金。
濁りのない、鋭くもまっすぐな光を宿した色。
「……」
だがすぐに、何事もなかったかのように逸らされる。
言葉はない。
意味も、与えられない。
「……」
ザーラは、わずかに眉をひそめる。
ただの「強い男」ではないと、感覚が告げている。
「……」
どこか。
明確には言葉にできないが。
“違う”。
◇◇◇◇◇◇◇◇
少し進んだところで。
「……ここで休む」
リオンが、振り返ることなくそう告げる。
声は低く、短いが、迷いはない。
「……」
三人は同時に足を止める。
「……」
ルティは、その場に座り込むようにして腰を下ろす。
まだ疲れが残っていて、完全には回復していないのがわかる。
「……」
ザーラもその近くに位置を取る。
自然な動きで。
けれど意図的に。
リオンとの距離を、わずかに保つ位置で。
「……」
リオンは少し離れた木にもたれかかり、腕を組んで目を閉じる。
一見すると、完全に力を抜いているように見える。
だが。
「……」
その立ち方も、呼吸も、重心も。
どこにも隙がない。
いつでも動ける状態のまま、休んでいる。
「……」
ルティは、またじっとその姿を見つめる。
遠慮なく。
好奇心のままに。
「……」
リオンが、それに気づく。
目を開けずに。
「……なんだ」
短く問う。
「……」
ルティは一瞬だけ迷ってから。
「……め」
小さく言葉を出す。
「……?」
リオンが、わずかに目を開く。
「……ひかる」
続ける。
「……」
リオンはほんの少しだけ目を細める。
否定もせず。
誤魔化しもせず。
「……そうか」
それだけを返す。
説明はしない。
理由も語らない。
「……」
ルティは、それで十分だとばかりに小さくうなずく。
納得した顔で。
「……」
そして、手の中のスプーンを握り直す。
きら、と。
ほんのわずかに光が揺れる。
「……」
リオンの視線が、一瞬だけそこへ落ちる。
見逃さない。
だが、追及もしない。
「……」
何かを確かめるように、ただ観察するだけで。
「……」
そしてまた、静けさが戻る。
休息のようでいて。
まだ終わっていない時間の中に、三人は確かに立っている。




