表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/161

第3話 嵐のような人 【挿絵 ミーナ】

【ミーナ】の画像あり。

※AIに作ってもらいました。ミーナの明るさがよく出ていると思います。



――コンコン、と、少し軽やかな調子で扉が叩かれた。


「ザーラー? いるんでしょー?」


間を置かずに、外から弾むような明るい声が飛び込んでくる。


「開けるわよー?」


「……待ちなさい」


止める声より、ほんのわずかに早く。


扉が、がちゃりと開いた。


朝の光が流れ込み、そのまま押し出されるように、ひとりの人影が勢いよく部屋へと入り込む。


「やっぱりいた! ほらね、煙出てたし――って」


ぴたり、と動きが止まる。


視線が、まっすぐテーブルへと向いた。


ルティ。


スプーンを握ったまま、ぴしっと固まっている。


「…………」


一拍。


二拍。


ほんのわずかな静止。


そして――


「なにこの子ぉぉぉ!? かわいすぎない!?」


空気が弾けた。


「ちょっとちょっとちょっと! どうしたのこの子!? どこから来たの!? 何歳!? え、え、待って顔ちっちゃ! 目おっき! ほっぺやわらかそう!」


言葉と一緒に、ぐいぐいと距離が詰まってくる。


「……っ!」


ルティの肩がびくっと跳ねる。


小さな手に力が入り、スプーンをぎゅっと握りしめた。


「近い」


ザーラが、片手をすっと出して制する。


「……」


ミーナは、その場でぴたりと止まる。


けれど――目だけは、きらきらと輝いたまま。


「……触っていい?」


「だめ」


間髪入れずの即答。


「ええっ!? なんで!?」


「びびってるでしょ」


「うっ……それは……」


ちらりと、ルティを見る。


完全に固まっている。


「……ごめんねぇ?」


声のトーンが、少しだけやわらぐ。


それでも、にじむ興奮は隠しきれていない。


「びっくりさせちゃったね」


ゆっくりと手を下ろし、少し距離をとる。


しゃがんで、目線を合わせる。


「……」


ルティは、じっと見つめる。


逃げない。


でも、近づかない。


体はまだ、少しだけこわばっている。


「……いい子だねぇ」


やさしく、落ち着いた声で言う。


その響きは、さっきザーラがかけた言葉と、どこか似ていた。


「……!」


ルティのまつげが、ぴくりと揺れる。


「名前は?」


「……ルティ」


ザーラが、短く答える。


「あ、ルティちゃんね!」


ぱっと顔が明るくなる。


「よろしくねぇ、ルティちゃん。あたしはミーナ。あっちで木こりやってる人の奥さん!」


「……」


言葉の意味は、まだ全部はわからない。


でも――声の感じは、ちゃんとわかる。


明るくて、あたたかくて。


ちょっとだけ、うるさい。


「ねえザーラ、いつの間にこんな可愛い子――っていうかこの子さ、絶対ただの子じゃないでしょ? ほら見て、この目! この雰囲気! 絶対いいとこの子だって!」


「知らないわよ」


あっさりとした返事。


「森で拾っただけ」


「ひろっ……!」


ミーナの目が、まんまるになる。


「ちょっとそれ、さらっと言うことじゃないでしょ!?」


「事実でしょ」


「いやそうだけど!」


両手をばたばたと振る。


「でもさぁ! こんな可愛い子拾うってなに!? 運命!? なにそれずるくない!?」


「知らないって言ってるでしょ」


「はぁー……もう……」


ため息をつきながらも、視線はずっとルティに向いたまま。


「……」


ルティは、じっと見ている。


さっきよりも、ほんの少しだけ体の力が抜けていた。


「……食べてるとこも可愛い……」


ぽつりと漏れた本音。


「……っ」


ルティは、はっとして。


慌ててスプーンを動かす。


もぐもぐ。


がつがつ。


一生懸命に、急いで食べる。


「わっ、ちょ、早い早い!」


「……だから言ったでしょ」


ザーラが、少し呆れた声で言う。


「取られると思ってるのよ」


「え……」


ミーナの表情が、すっと変わる。


さっきまでの軽やかさが、ほんの少しだけ落ち着く。


「……そっか」


小さくつぶやいてから。


にっこりと、やさしく笑う。


「大丈夫だよ」


今度は、ゆっくりと。


「誰も取らないからね」


その言葉は、ザーラと同じ意味を持っているのに。


少しだけ違っていた。


包み込むような、あたたかさ。


「……」


ルティの手が、ほんの少しだけゆるむ。


その変化を見て。


ミーナは、嬉しそうに目を細めた。


「そうだ、これ持ってきたの」


ごそごそと袋を開ける。


「はい、パイ。朝焼いたの」


甘い匂いが、ふわりと広がる。


「……!」


ルティの動きが、ぴたりと止まる。


知らない匂い。


でも、すごく気になる。


「ほら、食べてみて」


「……待ちなさい」


ザーラが、すぐに止める。


「まだ早い」


「えー! いいじゃない、少しくらい!」


「胃に負担かかるでしょ」


「うっ……」


ぐうの音も出ない。


「……あとで」


ザーラが、静かに言う。


「ちゃんと落ち着いてから」


「……はーい……」


しぶしぶと引き下がる。


でも――


「楽しみだねぇ、ルティちゃん」


にこにこと、変わらず嬉しそうにしている。


「……」


ルティは、袋と、ミーナと、ザーラを順番に見て。


少しだけ考えるみたいにしてから。


「……」


こくん、とゆっくりうなずいた。


にぎやかな声。


行き交うあたたかさ。


増えていく、人の気配。


さっきまでなら、きっと怖かったはずなのに。


それでも――


今はもう、


ほんの少しだけ、“安心していい場所”だと思えていた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ