第2話 朝のはじまり 【挿絵、ルティ、ザーラ】
【ルティ】と【ザーラ】の画像あり
※AIに作ってもらいました。可愛いルティとクールなザーラ、結構ハマります。
――あたたかい。
目を覚ましたとき、最初に浮かんだのは、そんな感覚だった。
やわらかくて、深くて、体がゆっくりと沈みこんでいるみたいな、不思議な安心感。
「……」
まぶたを、ゆっくりと持ち上げる。
視界に入ってきたのは、見慣れない天井。
木の色。
昨日と、同じ。
「……ぁ」
小さく、息を吐く。
――こわく、ない。
そのことに気づいて、ほんの少しだけ驚く。
体を動かそうとして、ぴくりと動きが止まった。
すぐそばに、気配がある。
「……」
そっと横を見る。
すぐ近くに、人がいた。
――ザーラ。
覚えている。
名前も、声も、あたたかさも。
「……ざー、ら」
まだ、うまく言えない。
それでも、確かめるみたいに小さく呼んだ。
返事はない。
眠っているみたいだった。
「……」
じっと、見つめる。
規則的に上下する呼吸。
少しだけ開いた手。
昨日、触れた手。
「……」
ゆっくりと、体を近づける。
指先を、そっと伸ばす。
ふれる。
あたたかい。
「……」
それだけで、胸の奥がすっと落ち着いた。
――いなくならない。
そう思えた。
「……っ」
体を起こそうとして、少しふらつく。
まだ、うまく力が入らない。
それでも、ベッドの端に手をついて、ゆっくりと体を支えた。
足を下ろす。
床に触れる。
ひんやりしていて、少しだけ現実に引き戻される。
「……」
立ち上がる。
少し揺れる。
でも、立てた。
ほんの少しだけ、胸の奥があたたかくなる。
――とん。
小さな音がした。
「……!」
びくっと肩が跳ねる。
反射的に振り向く。
でも、何もない。
窓から差し込む光と、風の音だけ。
「……」
その場で、しばらく動けなかった。
――だいじょうぶ。
そう思っても、体はすぐにはついてこない。
それでも。
「……ざーら」
もう一度、小さく呼ぶ。
「……ん……?」
かすれた声。
「……なに……」
ザーラが、眠そうに目を開ける。
「……ぁ」
目が合う。
その瞬間、胸の奥がほどけるみたいに安心した。
「……起きたの」
まだ、ぼんやりした声。
「……早いわね」
そう言いながら、ザーラはゆっくりと体を起こした。
「……無理しないで」
それだけ言って、小さく息をつく。
「……すぐ、何か作るから」
ぶっきらぼうに。
でも、どこかやわらかくて、あたたかい声で。
「……」
ルティは、小さくうなずいた。
その場から動かずに、ただザーラの動きを目で追っていた。
ザーラが立ち上がる。
まだ少し眠そうに目元をこすりながら、部屋を出ていく。
「……」
ルティはその場で立ったまま、じっと見ていた。
――いく。
小さく決めるみたいに、足を動かす。
ぺた、ぺた、と。
少し頼りない足取りで、あとを追う。
扉の向こうには、小さな台所があった。
木の棚。
吊るされた鍋。
窓から差し込む朝の光。
やさしい空気。
「……」
ザーラは、手慣れた動きで火を起こしていた。
カチ、と乾いた音。
火がつく。
その一連の動きは無駄がなくて、でも急いでいるわけでもなくて、静かに整っている。
「……そこ、座ってて」
振り向かずに言う。
「危ないから」
ぶっきらぼうに。
でも、ちゃんと気にしている声で。
「……」
ルティは少し迷ってから、こくんと小さくうなずいた。
言われた通り、椅子によじ登る。
足が、ぶらぶらと揺れる。
「……」
じっと、見つめる。
ザーラの動きを。
水を量る手。
火加減を調整する仕草。
鍋の中を、木のスプーンでゆっくりとかき混ぜる動き。
そのひとつひとつから、なぜか目が離せなかった。
「……」
瞬きも忘れて見ている。
――すごい。
言葉にはならないけれど、そう思っていた。
「……なに」
ふと、ザーラが言う。
振り向かないまま。
「そんなに見られると、やりにくいんだけど」
「……」
ルティは、はっとする。
でも、目をそらせない。
「……」
じーっと見つめたまま。
「……はぁ」
小さなため息。
けれど、そのあと。
ザーラは火をほんの少し弱めた。
鍋をかき混ぜる手も、少しだけゆっくりになる。
見やすいように。
「……」
ルティは、それに気づかない。
ただ、夢中で見ていた。
「……っ」
体が、少し前に出る。
椅子から落ちそうになる。
「……ちょっと」
ザーラが、片手で支えた。
「落ちるわよ」
「……ぁ」
びくっとして固まる。
でも、怒られない。
「……ちゃんと座って」
軽く元の位置に戻される。
「……」
こくん、と今度はしっかりうなずいた。
「……いい子」
ぽつりと。
無意識みたいに、ザーラが言う。
「……!」
ルティの目が、ぱっと開いた。
言葉の意味を、ちゃんと受け取っている。
でも、どうしていいかわからない。
「……」
そのまま、じっとする。
でも、少しだけ。
ほんの少しだけ、背筋が伸びた。
しばらくして。
器が、ことりと置かれる。
「はい」
湯気の立つ、やさしい匂い。
昨日と同じ。
でも、少し違う。
小さな皿が、もうひとつ添えられていた。
そこには、ほんの少しだけ甘いものがのっている。
「……?」
ルティは首をかしげる。
「……果物よ」
ザーラがそっけなく言う。
「そのままじゃ味気ないでしょ」
当たり前みたいに。
「……」
ルティは、じっとそれを見る。
きらきらしている。
知らないもの。
「……いいから、食べなさい」
ザーラは、少しだけ視線をそらす。
「……冷める」
「……!」
こくん、と大きくうなずいた。
スプーンを、ぎゅっと握る。
――これ。
ルティにとって、それは安心のかたちだった。
一口、食べる。
あたたかい。
やさしい味。
それから、そっと果物に触れる。
口に入れる。
「……!」
目が、見開かれた。
甘い。
びっくりするくらい、甘い。
「……」
言葉が出ない。
でも、ちゃんと伝わっている。
――おいしい。
「……」
ちら、とザーラを見る。
「……なに」
ぶっきらぼうな声。
でも、少しだけ気にしている。
「……」
ルティは、スプーンを持ったまま少し迷って、そっと差し出した。
「……?」
「……あ」
うまく言えない。
でも、伝えたい。
「……」
ザーラは一瞬、止まった。
それから、ほんの少しだけ目を細める。
「……なに、それ」
小さく、笑うみたいに。
でも、差し出されたスプーンを見て、顔を近づけた。
少しだけ迷って。
「……落とさないでよ」
そう言って、口にする。
「……」
ほんの一瞬の沈黙。
「……甘いわね」
ぽつりと。
「……!」
ルティの顔が、ぱっと明るくなる。
伝わった。
それだけで、うれしい。
「……もういいでしょ」
ザーラは少し視線をそらす。
「……ちゃんと自分で食べなさい」
でも、その声はやわらかかった。
朝の光の中。
小さな食卓。
ぎこちなくて、まだ距離のあるやりとり。
それでも。
その場所には、ちゃんと“あたたかい日常”が生まれはじめていた。




