第27話 光の中で
「……すき」
さっき、自分で言った言葉が、まだ胸のあたりに残っているみたいに、あたたかくて、やわらかくて、うまく言えないけど消えない感じで、そこにあった。
「……」
ルティは、そのまま動かない。
ただ、目の前に広がっているものを、逃さないようにするみたいに、じっと見つめ続けている。
光。
さっきよりも少しだけ強くなっていて、それでも刺さるような強さじゃなくて、やわらかく広がるように、森の中に満ちてきている。
「……」
さっきまでは金色だったそれが、今は少し白くなってきていて、でも冷たい感じはなくて、むしろふわっとしたやさしさが、少しずつ増えていくみたいだった。
木と木のあいだ。
細く落ちてくる光のすじ。
その中に——
小さなものが、ゆっくりと、ふわふわと漂っている。
「……?」
ルティは、目を細めて、もっとよく見ようとする。
きらきら……浮いてる。
ただのほこりなのかもしれないけど、ルティにはそうは見えなくて、光の中で動くそれは、どこか“いきてるみたい”に感じられた。
「……」
手を伸ばす。
今度は、急がない。
こわさよりも、さわりたい気持ちのほうが強い。
「……」
そっと。
光の中へ、指を入れる。
触れた、と思った瞬間——
ふっと、消える。
「……!」
びくっとして、思わず手を引く。
「……」
でも、また見ると、そこには同じようにきらきらがあって、さっきと同じ場所で、同じように揺れている。
「……」
今度は、もっとゆっくり。
触れる。
やっぱり、消える。
「……」
でも。
消えたあとも、いやな感じは残らない。
こわくない。
むしろ、くすぐったいみたいな、不思議な感じだけが残る。
「……」
小さく、笑う。
それから、ちゃんと名前をつけるみたいに——
「……ひかり」
うれしそうに、ぽつりと言う。
その言葉は、ただ見たものを呼んだだけなのに、どこかそれ以上の意味を持って、やわらかく空気に溶けていく。
「……」
ザーラが、横目でそれを見る。
何も言わない。
でも、さっきよりもほんの少しだけ、表情の硬さがほどけている。
「……」
ルティは、ゆっくり立ち上がる。
まだ少しふらつくけど、それも気にしないで、前へ出る。
「……気をつけて」
「……」
こくん、と素直にうなずく。
一歩。
草の上に、足を置く。
「……!」
びくっとする。
「……」
足の裏に、やわらかい感触が広がる。
少しだけ冷たくて、でも痛くなくて、むしろ気持ちよくて、今まで知らなかった感覚が、じんわりと伝わってくる。
「……」
もう一歩、踏み出す。
しゃり、と小さな音。
「……?」
足元を見る。
草の先に、小さな光がついている。
水。
朝のしずく。
「……」
しゃがみこむ。
そっと、指で触れる。
ひんやりとした感触が、指先に広がる。
「……!」
目が、また大きくなる。
「……みず」
小さく、確かめるように言う。
その指先には、光が乗っているみたいに、きらりと反射が残っている。
「……」
じっと見る。
それから、スプーンを見る。
ぎゅっと握る。
「……」
同じ、じゃない。
でも。
ちょっと、にてる。
あたたかさと、きらきら。
「……」
ゆっくり立ち上がる。
今度は、上を見る。
木。
葉っぱ。
そのすきまから、光がいくつも落ちてきて、風に揺れるたびに、形を変えながら、やさしく動いている。
ゆらゆら。
「……!」
思わず、笑う。
そのまま、くるっと回る。
少しふらつく。
でも、それも楽しくて、また笑う。
「……」
ザーラを見る。
「……」
ちゃんと見ている。
そのことが、うれしい。
「……」
ザーラは、一瞬だけ目を見開く。
それから、ほんのわずかに口元をゆるめる。
「……よかったわね」
「……!」
何度も、何度も、うなずく。
また前を見る。
「……」
世界が、広がっている。
知らないものが、いっぱいある。
でも。
「……」
こわくない。
「……」
スプーンを、胸に当てる。
あたたかい。
光を見る。
「……」
同じじゃない。
でも。
どっちも、ここにある。
どっちも、すき。
「……」
とことこと、小さな足取りで戻る。
ザーラのところへ。
ぴた、とくっつく。
「……」
ザーラは何も言わない。
でも、そっと手を伸ばして、その頭にやさしく触れる。
「……」
ルティは、目を細める。
安心。
光は、ふたりの上に降り続けていた。
やわらかく。
静かに。
逃げている途中であることさえ、一瞬だけ遠くへ押しやってしまうように。
この場所は——
確かに、やさしかった。




