第二生 牙兎
前話を読んでくださった方、ありがとうございました!
初のpv数表示にドキドキ嬉しくなりました。
これからぼちぼち投稿していきます。
前足のヌメヌメとした感覚に驚き、後ろに飛び退いた。
「ヒキャンッ!」
同時に、自分の口から出た音に続いて驚く。
意識が途切れるまでは、声はでなかった。だが今の、小動物の叫び声は、間違いなく自分から発せられた。
試しに『あー』と声を出そうとしてみると、
「クァー」
なんとも間抜けな、しかし小動物が出しそうな音がでた。
改めて状況を確認。周囲は変わらず広大な草原。そして、前足に粘りつく水色の粘液。
前足…?
はっと気づき、自分を見下ろしてみると毛深く、丸みを帯びた、動物の体になっていた。
そして視界、先程までは全方位が見えるという、不思議な視界であったが、現在は横方向がほぼ全て見えるが、立体感が薄く奥行きがわからない。上下は首を動かさないと見えなかった。また、真正面は視界が欠けている部分がありながら、なぜかわかる。
混乱しながらも、なんとか状況を飲むこむと、私は、先程目の前に現れた、牙兎の体に乗り移った状態なのだろう。そして、前足に粘りつく水色の粘液が、私だったもの。
じっと前足を見たあと、視線を移し、草むらの上に残された粘液を見てみてると、その中に、キラリと光るものがあった。恐る恐る近づくと、透明な鉱物の欠片のようなもので、粘液の真ん中に浮いていた。そーっとかき寄せ、より近くで観察してみる。
『なんだろう? ガラス?』
正体を探ろうとしたとき、頭の中に声が響いた。
『オイシイ』『タベタイ』
驚き、慌てて周りを確認するが、草原があるばかりで変わった様子は見られない。
『今の声はなに…?』
「美味しい」、「食べたい」と言っていた気がするが、私はそんなことは考えていない。
警戒したまま固まっていると、突然、映像のようなものが、頭のなかを駆け巡った。
小さな兎たちと、一匹の牙兎が周りに固まって、砕かれた鉱物のようなものを囲んでいる。牙兎が『ヨシ』と鳴くと、小さな兎は鉱物に群がり我先に食べようとしている。
私も食べなきゃ、兄弟にとられちゃう。お母さんが取ってきてくれた、美味しいきらきらしたやつ。前のは少ししか食べられなかった。もっと、もっと食べたい。
映像が終わると、私は理解した。今のは、私が乗り移った牙兎の、幼少の記憶だ。目の前の鉱物のようなものを、母親に与えられて、兄弟と競って食べた記憶。この他にも、牙兎として生きた記憶や知識が流れ込んできた。寒い日に母や兄弟と寄り添って暖まった思い出、母に教えられた美味しい草や飲める水がある場所、牙を使った威嚇のやり方、危険な動物、倒せる動物、倒した動物から、美味しい鉱物のようなものが出てくるときがあること。
そして、私が乗り移る直前の記憶もあった。見晴らしが良く、危険な動物をすぐに見つけて逃げ出せる、美味しい草があるところ。この牙兎は食事場としてこの草原を気に入っていたようだ。ここでいつものように草を食んでいたところ、水色のプルプルした動物がじっとしているのを見つけた。
『この水色のは、「倒せる動物」で、「美味しいきらきら」を出す。倒して「美味しいきらきら」を食べたい!』
そう考えて、逃げられぬようにそっと、しかし素早く近づき、前足で踏み潰した。
…ここで牙兎の意識は途切れ、冒頭に戻る。
確信した。私はこの記憶にある、水色のプルプルした動物で、鉱物のようなものを狙った牙兎に倒された。そして、私を倒した牙兎の意識を私が乗っ取った。
そして、水色のプルプルした動物というのは、いわゆるファンタジー生物の「スライム」ではなかろうか。そして、「美味しいきらきら」とは、魔物が持つ核とか「魔石」とか言われるものではなかろう。
視線を戻し、目の前の「魔石」と思わしききらきらを見つめなおしてみた。見つめていると、『美味しい』という記憶が次々沸いてきて、よだれが垂れそうになる。
しばらく見つめていたが、つい、抗えず、パクンッと、口に含んでしまった。
すると、口の中に『美味しい』が広がった。甘いとも、しょっぱいともわからないが、とにかく鮮烈に美味であることだけがわかった。
『おいしい!おいしい!』
口内で魔石を転がし、噛み砕くほど美味の感覚が増した。口の中から失くなってしまうのが惜しい気持ちも、食欲に勝てず、ゴクリと飲み込んだ。
その途端、体に力がみなぎるような、自分が一段強くなった感覚がした。人であったときには経験したことのない感覚だったが、牙兎としては、何度か経験があるようだ。
美味と不思議な感覚に、つかの間立ち尽くしていたが、はたと今の自分の状況に気がついた。
トラックに押し潰され、スライムになって死に、牙の大きい兎になって、自分だったスライムの魔石を食べた。
倫理観からの嫌悪感とか、死を経験した恐怖とか、整理すればそんな感情なのだろうが、とにかく気味が悪く、吐き気を覚えた。
そして、この数時間忘れていた気持ちが蘇る。
『死にたい!嫌だ!!死にたい!!』
強烈な希死念慮に押され、私は走り出した。
知らないはずの兎の走り方で、猛烈に走った。向かう先は、とにかく「死」に近いところ。記憶の中の、危険な動物のいる深い森。
走り続け、森に入り、木の根を越えひたすら走った。
そして、大きな爪の一撃を腹に受けた。
痛烈な痛みとともに、私の意識は途切れた。
閲覧いただき、ありがとうございます。
ラストだけ決まっており、途中は構想しながらの投稿ですので、修正の可能性はあります。
拙い文ですが、最低週に一回は更新したいとおもっていますので、今後もいらしていただけると嬉しいです。
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