表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
125/197

訊問①

 数名の女性騎士見習い達が隊服を持って門まで迎えに来たことで二人の門番は彼女こそ本物のアシュリー・キスミスだと知り、またパトリック隊長代理から速やかに彼女を通すようにと指示を受けたことを知らされると直ちにアシュリーを中へと通してくれた。


 隊服を羽織ったアシュリーは格下の見習いの裾を摘みながら怯えるように腰を低くくしながら歩く。その様子のなんと情けないことか。


 エデンで多少マシになったかと思われたアシュリーの男性恐怖症はフランスに行って更に拍車が掛かったように他者からは見えた。その点も踏まえてアシュリーは一度全てを仲間たちに報告する義務がある。フランスで一体何があったのかを。


 一度自身の部屋へ戻り、身支度を整えたアシュリーは獅子の間へと向かった。


 三回ノックをして「第八席、アシュリー・キスミス。入ります」と宣言し中に入ると、室内は今まで見たことが無いほど荒れていた。中にはそれぞれの席に座っているレオンクロスのメンバー。パトリック、アルベルト、そして第三席の前に置かれたタブレットには銀髪の青年、ユーゴの映像が映し出されていた。


 それと片付けをしている一般騎士数名に加えて第一席に女教皇ミリアが座っていた。ミリアは呆然と部屋の様子を眺めていたアシュリーに声をかける。


「ようやく本物のご登場だ。長旅ご苦労。アシュリー」


「ミリア様、この惨状は一体……」


「換気の為に窓ガラスを取っ払った……って言ったら信じるかい?」


「あぁ、なるほど。風邪予防ですか」


「アホかテメーは。んなわけねーだろ。誰かさんが仕留めるハズだったエインヘリアとやり合ったんだよ。しかもご丁寧に誰かさんの姿に化けてな!」


 ミリアの冗談を真に受けるアシュリーに辛辣過ぎるツッコミを放つアルベルト。事態が飲み込めていないアシュリーに対し、パトリックが少し前に起こった経緯を事細かに説明してくれた。


「——というわけだ。少しは状況を飲み込めたかな?」


 真っ青な顔で推し黙るアシュリー。事の重大性を十二分に認識した様だ。


「ほほほホントに申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばっかりに敵を仕留められなかっただけでなく本部陥落、隊長暗殺の危機にまで瀕してしまったなんて……何とお詫びすればいいか……」


「謝って済む問題じゃねーだろうが。サムライの国ニッポンならハラキリもんだぜ」


 涙目のアシュリーに対して厳し過ぎる言葉を浴びせるアルベルトの態度を見兼ねた隊長代理のパトリックが助け舟を出す。


「叱責にしては言葉が過ぎるぞ、アルベルト。まずはフランスでの出来事を報告してくれ、アシュリー」


 パトリックの言葉に袖で涙を拭き、アシュリーはフランスでの出来事を出来るだけ事細かに報告した。


 フランス到着後、聖教が手配したパリのホテルの受付で貰った指示書と同封されていた抹殺対象であるハイネリーゼの写真の確認。その後、レーヴァテインとの関係が噂されている人物や施設の調査。ホテルの近くのコインランドリーで隊服を含めて衣類の洗濯をしている間、シャンゼリゼ通りのオシャレなカフェでコーヒーを飲んでいたら黒い衣装と黒い眼帯をしたモデルみたいにキレイなパリジェンヌに同席を求められ、お喋りを楽しんだこと。その後コインランドリーに戻ったら洗濯物を盗まれ、おまけにホテルまでの帰り道でスリや痴漢に遭いより一層男性が嫌いになったことを話そうとした辺りでアシュリーの話は遮られた。


「待て待て待て、そいつだよそいつ。黒眼帯の女。テメーの抹殺対象は」


 明らかに不可解なワードが飛び出した辺りで堪らず話の腰を折ったのはアルベルト。流石のパトリックも俯いたままであり、アシュリーは自分が何か不味いことを言ったのか分からず困惑していた。


「えっ? えっ? あの気さくなお姉さんがエインヘリア? あり得ませんよ。だって魔力のカケラも感じませんでしたし、すっごい聞き上手で話しやすかったですもん」


「魔力云々は良いとして、人柄は全く関係ないな」


 タブレットのスピーカーからユーゴの声が聞こえた。


「ま、まぁ、他のエインヘリア共より魔力感知が困難なのは元聖騎士だったこと。つまり、光と闇の力が混ざり合っていることも少なからず関係しているのだろう。実際に対峙した我々でさえ奴の魔力を感知出来なかったせいでここまでの侵入を許してしまったのもまた事実。その点をアシュリーだけ咎めるというのはあまりにも酷というものだろう」


 ユーゴの言葉にしゅんとしていたアシュリーを見て、パトリックはまたもやフォローする。


「ところで、お前がシャンゼリゼ通りで見た女というのはコイツで間違いないか?」


 ユーゴの言葉の後、タブレットから壁に向かって光が放たれた。まるでプロジェクターのように壁へ投影されたのは先程パトリックとハイネリーゼが戦っていた映像。そこに映っていたのは、まさしくアシュリーが出会った女であった。


「あーっ! こっ、この人です! この人で間違いないです!」


 驚きながら女の映像を指差すアシュリー。これで彼女が任務を全うせず抹殺対象と呑気にお茶をしながら談笑をしていた事実が確定した。


 溜息を吐くパトリックとやたら睨みつけてくるアルベルト。タブレットが壁を向いているので表情は分からないが、おそらくいつもの無表情を保っているだろうユーゴ。頬杖を突いてウトウトしているミリア。沈黙が放つ重苦しい空気に耐え切れず、アシュリーは堪らず反論を放った。


「で、でもでも、もらっていた写真と全然違うじゃないですかぁ。魔力探知出来ないなら、分かりっこないですよぉ」


 アシュリーはそう言うと、フランスで手掛かりにと貰っていた写真を皆に突きつけた。


 そこに写っていたのは、先程侵入した派手な出立ちの自信に満ち溢れた高飛車の眼帯女ではなく、髪の色は同じだが気弱ささえ伺える可憐な女性の姿だった。アスガルド聖教の服を着ていることから魔人に堕ちる前のハイネリーゼだろう。確かにこの写真からあれを同一人物だと判断するのは無理がある。


「ミリア様、この写真は……」


 居眠りしかけていたミリアに対し、申し訳なさそうにパトリックは話しかける。


「あん? あぁ、その写真? うちに入ったばかりの頃のハイネだよ。仕方ないじゃん。あいつすげーシャイだったから写真撮らせてくれなくてさ。だから保管されてるのはその一枚だけ。あの頃はこんなに可愛かったのにねぇ」


 欠伸をしながら呑気な返事を返すミリア。これには他の隊員たちもアシュリーを責める気にはなれず、寧ろ哀れみすら覚えるほど無茶な任務だったと認めざるを得なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ