第二章 乱流 2
「ん」
軽く音をさせヴァージニアは、零の首筋に唇を這わせ口づけていく。
ヴァージニアの腰を抱く零の右手が、妖艶なラインを描くヴァージニアの身体をまさぐっていく。甘い吐息を、ヴァージニアは響かせる。
「んん。零」
首筋に口づけ終えるとヴァージニアは、零を潤んだ瞳で見詰めてくる。
左手でヴァージニアの頤を掴むと、零は艶やかな石榴色の唇に口づける。そのまま零は左手を滑らせ、ヴァージニアの大きな膨らみを付ける双丘の片方を柔らかく掴んだ。
零の唇から離れたヴァージニアのそれから、切ないような喜悦のような声が漏れる。
「あっ」
胸を左手でまさぐりつつ、零の右手がヴァージニアの腰から背へと愛撫していった。時間が経つにつれて、ヴァージニアの吐息が喘ぐようなものとなっていく。
「んん――零」
十分にヴァージニアが息づかいが熱を帯びたのを見て、零は両手をヴァージニアの両肩に掛かるストラップへと伸ばした。両側へと一息に引き下ろす。
微かな羞恥をヴァージニアの美貌が帯び、それでも顕わになった二つの双丘――乳房を隠さすそれまで抑えていた吐息のような息づかいが明確な声となる。
「ああ」
ヴァージニアの裸身を、零は綺麗だと思った。
零はヴァージニアに口づけすると同時、二つの大きな膨らみのツンと立ったピンクの戦端を軽く摘まむ。
ヴァージニアの全身が震える。それは一種の恥じらいのようでもあり喜悦のようでもあった。けれど絡めたヴァージニアの舌は零のそれを今までに無いほど求めてくる。
ヴァージニアの唇を塞いだまま零は、ヴァージニアの乳房に触れていく。瑞々しい弾力が、次第に零の理性を麻痺させていく。
零の唇からヴァージニアは己のそれを離し、嬌声じみた声で呼び掛けてくる。
「零――ん――其方は――あっ――妾ばかりを弄びおって」
上目遣いに零を見遣るヴァージニアの紅瞳は、蠱惑的な光を放つ。
「悪い家臣じゃ」
さっとソファから身を滑らすと、ヴァージニアは零の膝に馬乗りになった。
零の腰に己の腰を密着させ、零がもたらす快感に艶やかな石榴色の唇を引き結び「ん」、「ん」と耐える様な扇情的だった。
考えることなく零口を衝いて言葉が紡がれ、手はヴァージニアの裸体をまさぐり続ける。
「陛下が思っているより、わたくしめはずっと悪うございます」
顔を横に僅かに背け、ヴァージニアは頬を上気させ切なさと喜悦とが混ぜになった、零がぞくりとするような色香を発散させた。
それと同時に、零の腰に密着させた腰が緩やかに動く。血流が零の下腹部に集まって行くのがはっきりと分かる。ヴァージニアの様態は、溺れるようで誘うようだった。
少し乱暴に零はヴァージニアの乳房を掴み、軽く捻る。
それに合わせ嬌声が上がり、ヴァージニアの腰の動きが勢いを増す。
「あ、ああぁ」
ヴァージニアの嬌態は、零が我を忘れ見惚れるほどだ。
――これがボルニア帝国皇帝。比肩するもの無き、尊き御方。
そう思うと、零の渦巻いていた情念が激しい奔流となっていくのを感じた。
零はヴァージニアの耳元に口を近づけ、囁きかける。
「陛下は、お狡い」
「あ――な、何じゃと? あぁあっ」
本音半分、閨の睦言を零はヴァージニアの耳に囁き続ける。
「そのような艶姿を見せられては俺は一生貴方を忘れられず、叶わぬ御方のことをずっと思い続けねばならないではないですか」
「ん――予が――あ――そうそう忘れれれる――あっ――女かえ?」
「だから、臣たる俺は困るのです」
「ならば――ん――ずっと、困っておれ――予を知った者が負う――あ――罰じゃ」
「いつ誰のものとなるか分からぬなど、俺は心労で死んでしまいます」
「――あ――だったら、妾を――あ――其方のものと――ん――すればよかろう」
あえぎ混じりのヴァージニアの声に、零はヴァージニアを両手で掲げ上げた。
唇に人差し指の甲を当てるヴァージニアは、甘えるうに呟く。
「零……」
零はヴァージニアを抱え、奥の天蓋付きのベッドへと向かった。
いっときの嵐のような激情が小康状態となり、仰向けになる零にヴァージニアが右側に寄り添い身を預けていた。
零の胸に頭を預けるヴァージニアが、口調は睦言のようでありながら言葉は物騒に囁く。
「ついぞ虎を気取るコヨーテ・ミラト王国との決戦を、卑怯な手を使われ果たせなんだ。此度で決着を付け、ボルニア帝国領内から一掃したいものだ」
「今回の戦には、結社アポストルスが絡んでいるのでしょうか? 古代兵器運用艦ギガントス撃沈――クロノス・クロックの無力化。確かにかの結社の策は潰えましたが、それで女帝陛下の身柄を諦めるとは思えません」
こちらも逢瀬の密語のように零も囁き返し、くすぐったそうに零の前髪を手で梳きながらヴァージニアが応じる。
「ふふ、其方は妾の身を案じておるのか? よい心がけではないか」
愉しそうにヴァージニアは笑い、気分を変えるように口調を幾分鋭くする。
「クロノス・クロックといえば、頑丈なものだな。あの巨艦が轟沈したというのに、傷一つついておらなんだ。使えば物騒なものだが、あれは帝国の宝でもある。回収できなによりじゃ」
「クロノス・クロックは今女帝軍に?」
「否、帝星エクス・ガイヤルドに送った。持ち歩いても補給部隊の負担が増えるばかりじゃからな」
そう言うとヴァージニアは零の上になり、まっすぐ見詰めてくる。
「ところで零よ。ジョルジュに何やら言われておったな。ルブラン家令嬢ヴァレリーと筆頭キャバアリアー。そして、カルパンティエとラクテル家の令嬢。このままでは、戦後の奴隷落ちは免れられぬ。他の貴様が率いた決死隊は、免罪されたが」
「どうにかしたい。でなければ、寝覚めが悪い」
珍しく表情と口調を真剣にする零に、ヴァージニアは僅かに美しい眉をキツくする。
「私はそう言うがな。それは難しかろう。前回の古代兵器運用艦ギガントス撃沈以上の戦果を上げねばならぬ。あれは、只の戦果ではない。それによって、予が救われたのだ。そのような状況になるとは思えぬな。クロノス・クロックは既に我が手にあり、再び結社が使用することはできない」
「分かってます。だからこそ、考えあぐねているのです。洗浄だというのに、どうもすっきりしない」
やるかたない様子の零に、ヴァージニアは悪戯っぽく笑う。
「それは前も同じではないか。ことあるごとに、巡礼の旅に戻りたいなどと申しおって。やりたくもない戦を無理に戦っているように見えたが」
「女帝陛下は、意地が悪――」
途中ヴァージニアが己のそれで零の唇を塞ぎ、憂いをいっとき忘れるように再び二人は求め合った。
幾度も激情が通り過ぎた明け方、けたたましく警報が鳴り響いた。
続いて、AIの声がピアス状の汎用コミュニケーター・オルタナのヴァーチャル音響システムで頭に艦内放送で直接耳とに届く。
「ミラト王国軍、襲来。急襲を仕掛けてきました。各位、持ち場に急がれたし。繰り返します――」
AIが告げたそれは、当然予想していて然るべきものだった。
しかしながら双方一億を超えるグラディアートを擁する大戦。下手な小細工など通用するものではなく、大国ボルニア帝国らしく動くなら堂々と戦いを挑むつもりでいた。
その思いは、ヴァージニアの怒声に表れている。
「虎を気取るミラトのコヨーテめ、明け方を狙うなどつまらぬことをしおって」
「少しは有効だろう。宇宙では宇宙標準時を基準に、軍なら三分の一ずつ交代で眠りにつく。で、標準時の夜には、ヴァージニア陛下のような要人は眠りについているから反応がちょっとくらいなら遅れる」
「くだらぬ。AIも居る。初期防衛はなされ、時間帯による急襲など意味など持たん。零、すぐ兵団へ戻れ。妾の雑事で戦に遅れたとあれば、とんだ笑いものだ」
ベッドから起き身支度を始めたヴァージニアが、まだベッドに横たわる零を急かせた。




