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第二章 乱流 3

「こんなときにローレライ二を空けるだなんて、兵団長はいい気なものね」


 ボルニア帝国総旗艦アルゴノートから六合(りくごう)兵団群との合流ポイントにゲレイドで向かう零に、ヘルメットのヴァイザー越しのサブリナは音律のある声音に嫌味を塗した。


 薄暗いゲレイドのコクピット内。タンデム式の前席、浅い角度でほぼ立っている状態に近いシードに身体を預ける零を、ホロウィンドウが三つ照らし出していた。一つ目には知性と勝ち気さが表れた端麗な美貌のサブリナが、二つ目には凜々しさと清楚さが同居した美貌のヴァレリーが、三つ目には爽やかに整っているが目元に暗鬱さのある面のモリスが映し出されていた。


 明眸の美少女ヴァレリーが、凜々しく引き締まった声に避難を込める。


「兵団長不在で兵団出撃だなんて、困ったものだわ。女帝陛下からの呼び出しなんて、一体何の用があったのかしら?」


 ヴァージニアに呼び出された理由に察しがついたようで、女帝の私室を守っていた親衛隊の少女と同様な不埒な者を見るような視線を零に送るヴァレリーに、モリスが同情めいたものを茶色の瞳に浮かべ零を見遣りつつ苦笑する。


「そう苛めないでやって欲しいね。このボルニア帝国に女帝陛下の意に逆らえる者なんて居よう筈がない。これもボルニア帝国の臣としての責務だ」


「責務、ねー。随分と美味しい思いをできる責務もあったものね」


「何か零の顔がだらしなく見えるわ。見た目だけなら、普段は男装の麗人のような凜々しさなのに」


 蔑むような視線をサブリナが送り、冷気を帯びた視線をヴァレリーが零へと送った。


 二人の視線を受ける零は、何でもないように開き直る。


「モリスが言っただろう? 女帝陛下には逆らえない。ご下命とあれば、従うまでだ」


 暗にヴァージニアとの関係を認める零に、モリスは兵団群長として幾分弱り顔をする。


「見目がいいのも考え物だね、零君。戦場でこんなことが度々あるようでは、こちらとしては困る。零君の意見は、役立つからね。深遠なるデュポン殿の策という奴さ。それで君の兵団は既に出撃しているから、合流後指揮を頼むよ」


「了解だ、モリス。全く。女にもてるのも考え物だ。相手が相手だ。どこで墓穴を掘るか分からない」


「自信家」


「不潔」


 小声でサブリナとヴァレリーの声が聞こえたが、零は無視した。



   *



【エレノア、ブレイズ、ヘザー。連携しよう】


 情報感覚共有(iss)リンクシステムを介し零は僚友に呼び掛け、すぐさまエレノアが応じる。


【そうしよう。先を取られた分、味方が幾分押されている。敵兵団の撃破ペースを上げたい】


【四人でか。心強いな】


【いい考えです、零。この戦場では局地的でも、デゥポン兵団群を優位に立たせられます。そうなれば、他兵団群との連携が取りやすくなります】


 ブレイズとヘザーも賛成し、零は架空頭脳空間(オルタナ・スペース)に集合地点を指示した。


 今の会話は、六合(りくごう)兵団の主要メンバーには流している。すぐさまポップしたホロウィンドウに、サブリナが映し出される。


【零、リザーランド卿達と共闘するの?】


【ああ。グズグズしていても、いいことはない。何しろこんな大戦だからな】


 グラディアートの数は、圧巻の一言だった。ボルニア帝国女帝軍対ミラト王国侵攻軍の総力戦。双方億を超えるグラディアートを繰り出している。当然戦場も広大で、そこにグラディアートが奥が見えぬほど犇めいている。零は六合兵団に合流するや否や、エレノアにブレイズ、ヘザーに連絡を入れたのだ。激流に落ちた木の葉の如く高々一兵団など楽々と一飲みされてしまう現状に、少しでも戦場の主導権を得たいが為。


 サブリナを映し出すホロウィンドウの隣にもう一つホロウィンドウが出現し、ヴァレリーを映し出す。


【零、直卒小隊はどうするの? いつも通り、わたしが率いる?】


【否、俺が率いるよ。通常の首領兵団相手だ。こんなときくらい面倒を見ないと、俺の小隊にした意味がないからな。兵団は基本的にサブリナに任せる】


【ええ、構わないわ。リザーランド、リュトヴィッツ、ナイトリー三兵団との共闘、楽しみだわ】


 ヴァレリーの問いに応じる零に指名されたサブリナは、自信家らしく躊躇いなく答えた。


 架空頭脳空間(オルタナスペース)内で空間認識戦術マップを確認すると、零は今現在デゥポン兵団群が相手取っている二倍の敵兵十万をつぶさに観察する。さしあたって相手取るべきは手近の一千の兵団三つ。六合、リザーランド、リュトヴィッツ、ナイトリー四兵団二千強の役一・五倍の敵勢。架空頭脳空間(オルタナスペース)で戦術プロットを組み上げ、自兵団員と合流地点に向かう三兵団と共有する。


 すぐさまリザーランド、リュトヴィッツ、ナイトリー三兵団の進路が変わった。六合兵団は、敵三兵団の中心へまっすぐ進軍。


 高速情報伝達を介し、サブリナの合成音声が響く。


【大隊長各位。当初我が兵団は多数の敵を引き受けねばならない。その為、第二エクエス以上のキャバリアーは兵団と敵との壁の役割を果たして貰う。できうる限り広範囲をカバーし、兵団が受け持つ敵勢を通常の戦闘レベルまで絞って貰いたい】


【了解】


 サブリナの命令に、すぐさま返事が返った。


 ホロウィンドウがポップし、ヴァレリーが映し出される。


【零、小隊はどうするの? 兵団と敵との壁をやらせるの? まだ戦闘に不慣れな面もあるから心配だわ】


 明眸に懸念を宿し確認してくるヴァレリーに、零はきっぱりと言い切る。


【当然、やって貰う。敵は第一エクエスではないといっても、乱戦になれば危険度は跳ね上がる。が、強敵との戦いも経験した我が小隊には、実地で思えていって貰う。当然、俺やヴァレリーがカバーする】


【分かったわ。敵は三兵団三千。こちらの六倍近い。その猛攻を兵団に当たるときには通常の攻撃に絞らなければいけないものね。少しでも調整役が欲しいわ】


【そういうことだ。六合兵団各位、サブリナの指示通り動け】


【了解】


 兵団から返事が返ると、零は直卒小隊へ呼び掛ける。


【サブリナが第二エクエスクラス以上のキャバリアーは、兵団と敵との壁になるようご所望だ。当然、この小隊も壁役をやる】


【おっし。そう来なくっちゃ】


【零が過保護すぎなくて安心したわ。わたし達じゃまだ早いって言いそうだもの】


【でも、そう思っても当然の任務だよ】


【敵は多いわ。慎重に行きましょう】


 零の命令に、バルチアンが生意気に、オルタンスが勝ち気に、ランベールがおずおずと、シャルロットが思慮深く応じた。


 すぐさまサブリナの合成音声が、凜と響き渡る。


戦闘開始(アンガージユマン)。各位、健闘を祈ります】


 接敵。五百強の六合兵団に一千の兵団三つが包囲の構え。前方左右三方向から襲い掛かる。


 作戦通り第二エクエス・クラス以上のキャバリアーが、味方兵団と敵兵団の間に入り戦闘が始まった。味方兵団が相手取る敵の数を調節する為だ。零の直卒小隊も、壁役の例外ではなかった。


 零、ヴァレリー、バルチアン、オルタンス、ランベール、シャルロット六名が駆るゲレイドが、敵主力兵団機と交戦を開始する。


 ミラト王国兵団主力機ルプス。カーキー色をした、球面を多用したデザインのグラディアート。一つ目を連想させるシンプルな楕円のフェイスマスクを有する、機動性を重視するミラト王国らしくスモール骨格を使用した機体。メイファース社のミドルエンドモデルを、ミラト王国仕様に再設計されたグラディアートだ。メインウェポンは、アダマンタイン製光粒子(フォトン)エッジ式ブレード。それをアダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ヒーターシールド裏にラックしている。


 第一エクエスや第二エクエスを相手取ったときのよに、ファントム性能にそれ程の差があるわけではない主力兵団。前兵団主力機たるゲレイドよりも機体性能が勝るとはいえ、零にとって苦戦するような相手ではなかった。


 三体同時に仕掛けてくるルプスに一閃した光粒子(フォトン)エッジ式ブレードの軌跡を変えることで、あたかもその場で止まったり進んだりするようなトリッキーな太刀筋を見せ、ルプス三体の防御の感覚を狂わせ一度に撃破する。


 高速情報伝達に、零は呟きを落とす。


【簡単】


 すぐさま急接近してくるルプスを、光粒子(フォトン)エッジを打ち合わせるかに見せて機体に横を向かせ投影面積を最小にし敵機の斬撃を躱し一撃を入れ沈黙させた。


 ヴァレリーもソルダ位階第四位ダイアモンドの実力を遺憾なく発揮して、敵主力兵団機ルプスを次々と撃破していく。


 直卒小隊の他の四人、バルチアン、オルタンス、ランベール、シャルロットの四人も危なげなく撃破を重ねていく。尤もその危なげなくは、圧倒的なものではなく一対一ならばとの条件がつくが。


 他の第二エクエス・クラス以上のキャバリアー達も、機体性能で劣るゲレイドで実力差の優位を保っている。一体一体のカバー範囲はそれなりに広いが、敵兵団と味方兵団との壁となり敵の通過量を調節している。お陰で兵団本体は通常の戦闘と同じ数を相手し、兵団を維持している。


 と、そのとき敵の圧力が増した。


 雪崩れ込んでくる敵機ルプスの大軍に、バルチアンのゲレイドが横合いからのシールドバッシュに吹き飛ぶ。


【うわっ】


 体勢を崩し隙を晒すゲレイドに、敵は好機(チヤンス)と更に群がった。


 既に動いていた零は、数に物を言わせた攻勢に内心悪態を吐く。


 ――くそっ! 流石にこれは、こいつ等じゃ無理だ。


 機体を横に泳がせてしまったバルチアンのゲレイドに、光粒子(フォトン)エッジ式ブレードが迫る。が、バルチアンは光粒子(フォトン)エッジでどうにか凌ぐ。更にもう二体のルプズの斬撃は、片方しか防げない。迷いなくバルチアンは前方の攻撃に応じ、が後方からの刺突に無防備になる。貫かれるかに見えた刹那、ルプスの刺突が止まる。零のゲレイドが脚が、ルプスの腕を押さえ付けているのだ。アイゼン式となった脚部底部が、しっかりとルプスの腕を爪で挟んでいるのだ。そのまま零のゲレイドは機体を捻り、ルプスの腕を捻りきった。


 安堵するバルチアンの合成音声が、高速情報伝達で伝わる。


【零! 助かった】


【立て直せ! 敵が殺到する】


【分かってる】


 零の叱咤にバルチアンはゲレイドに構えさせ隙を無くし、迫ったルプスを下した。


 バルチアンのゲレイドの背中を守る形で、零とバルチアンのゲレイドは背中合わせとなった。360度迫るルプスを、零とバルチアンのゲレイドは屠っていく。どうやらバルチアンは平気そうだと、零は他に意識を向けた。


 少し離れた場所でオルタンスのゲレイドが、敵の数による突進に晒された。一体倒すがその隙に他のルプスの斬撃を胸部に受け、小破。防戦だけで、手一杯になる。刺突を硬化型ラウンドシールドで受け、斬撃を光粒子エッジで流し。が、動力・機動性能共に劣るゲレイドでそれを行えば、次第に機体を吹き飛ばされていった。


 バルチアンにもう少し付き合ってやりたいが向かうべきか零が刹那逡巡すると、ヴァレリーのゲレイドが救援する。敵機ルプスを軍団長より上を務まるその実力でもって蹴散らし、オルタンスのゲレイドへと辿り着いた。ヴァレリーが来て安心したことと、元々態勢を崩していないこともあってすぐさまオルタンスのゲレイドはヴァレリーのゲレイドと連携した。数に物を言わせた突進を仕掛けてくるルプスを、キャバリアーとして上のポテンシャルでもって仕留めていく。敵が相打ちを嫌って前方からのみ突撃を仕掛けてきたことが、対処を簡単にしていた。突進してくるルプスにオルタンスのゲレイドが硬化型ラウンドシールドを突き出し数機分防御し、その隙を突くようにヴァレリーのゲレイドが瞬殺していく。


 安堵を高速情報伝達に、独り言のように零は乗せる。


【大丈夫だな。次は、シャルロットか。ランベールの分を引き受けるように前に出てる】


 シャルロットのゲレイドは、味方兵団群の防壁から少し前へ出ていた。戦い方は冷静で無理に撃破せず防御に徹している。が360度攻勢にさらされては、防御に綻びが出るのも時間の問題だ。


 零は合成音声を響かせ、バルチアンに呼び掛ける。


【バルチアン、一人で持ち堪えられるか?】


【馬鹿にするなよ。このくらい、一人でどうにかなるさ】


【了解だ。だが、無理はするなよ】


 零のゲレイドが、その場から離脱した。ランベールへの攻勢を減らすため一体だけ突出し、孤立するシャルロットのゲレイドを支援し下がらせる必要がある。


 落ち着いて対処するシャルロットのゲレイドだったが、やはり格下相手とはいえ多勢に無勢。


 高速情報伝達を伝い、シャルロットの苦痛を訴える呟きが漏れ聞こえる。


【くっ――】


 前後同時の攻撃に、シャルロットのゲレイドは硬化型ランドシールドを前方の攻撃に置きつつ、機体を90度回転させ半身で後方からの攻撃を光粒子(フォトン)エッジ式ブレードで流した。ぎりぎりの防戦。そこへ左右からルプスが光粒子エッジ式ブレードの刺突を放ってきた。前後の敵に横を向いているため、左右の敵には前後を晒しているシャルロットのゲレイドは、今度こそ防御不能に陥る。


 高速情報伝達に、零は思念を迸らせる。


【シャルロット、前の敵を!】


 シャルロットのゲレイドの背後から刺突を放つルプスを掠めるように、零のゲレイドが蹴り上げつつパスした。同時ルプスが機能を停止し、吹き飛ばされる。次元機関ディメンシヨン・エンジンのエネルギー供給ラインを零のゲレイドが断ち切り沈黙したルプスは蹴り飛ばされ、シャルロットのゲレイドの背後から姿を消したのだ。


 正面に捉えたルプスの刺突をシャルロットのゲレイドが硬化型ラウンドシールドで受け止め、同時に放たれた光粒子(フォトン)エッジがルプスを刺し貫いた。撃破。


 透かさず零はシャルロットの左側のルプスに光粒子(フォトン)エッジを一閃させ、次元機関ディメンシヨン・エンジンのエネルギー供給ラインを断ち切った。沈黙。


 シャルロットも訪れた好機に、すぐさま動いた。右側に位置するルプスへ光粒子エッジを一閃。腹部の装甲の継ぎ目を切り裂いた。撃破。


 零は独特の抑揚のある声を、高速情報伝達に乗せる。


【シャルロット、タイミングを見て下がるぞ。防衛線を下げるんだ。ランベールを考慮しての位置取りだろうが、このままじゃシャルロットが保たない】


【分かりました】


 零とシャルロットのゲレイドは、敵主力兵団機ルプスの撃破を重ねる。少しずつ、防衛線を下げながら。流石に多数の敵に、一度に下がれば雪崩れ込まれ飲み込まれ兼ねない。シャルロットの突出で敵の流れ込みが穏やかだったランベールのゲレイドへ、徐々に敵が押し寄せてきた。


 苦戦するランベールの合成音声が、高速情報伝達に乗り流れ込む。


【この、何て数……シャルロットは僕の代わりにこれ以上の敵を引き受けて……】


 多数の敵に取り憑かれるランベールのゲレイドは、最早限界だった。


 一体のルプスを撃破するが、それが隙となり多数のゲレイドがこれ見よがしに責め立てる。ルプスが放つ刺突を受け右肩の装甲が吹き飛び、斬撃を避ける為放った左脚が切り裂かれ損壊する。小破。更に被害が広がるのは時間の問題だった。が、零は差ほど心配していない。


 ランベールのゲレイドに群がっていたルプスが、次々と脱落していく。ヴァレリーのゲレイドが到着したのだ。


 珍しう負けん気らしい合成音声を、ランベールが発する。


【僕だって】


 機体を立て直したランベールのゲレイドが、シャルロットのプルスと共闘を始める。ソルダ位階第四位ダイアモンドのヴァレリーと第一エクエス相当のポテンシャルと持つランベールが、瞬く間に周囲のルプスを一掃していった。


 シャルロットのホッとして合成音声が、零に流れ込む。


【ランベール、大丈夫みたいね】


【ああ。あっちは、ヴァレリーに任せておけば平気だ】


 そのとき、回り込んでいたリザーランド、リュトヴィッツ、ナイトリー3兵団が敵後方3方向から襲い掛かった。


 どうにか六合兵団への接敵数を壁役が絞り、数でもって一飲みにされるのを避けてきたが、そう長く保つものではない。3兵団の到着は、俄に六合兵団を活気づかせ志気を挫かれた敵を押し始めた。


 敵3兵団が混乱する。


 六合兵団を前方左右三方向から攻めていた3兵団は、突如それぞれ背後から攻撃を受けたのだ。敵を一飲みにしようとしていた矢先に。


 凜とサブリナの音律的な合成音声が、響き渡る。


【六合兵団各位。反撃に移るわ。先ずは正面の兵団をリザーランド兵団と挟撃し撃退する。零?】


【了解だ、サブリナ。そのまま指揮を】


 答えると同時、零は架空頭脳空間(オルタナスペース)で戦術プロットを組み上げた。


 サブリナの号令が、高速情報伝達で響き渡る。


【総反撃】


 その指示だけで、六合兵団は戦列を組み直し動いた。架空頭脳空間(オルタナスペース)で零の戦術プロットを、皆参照しているのだ。


 麾下の直卒小隊へ、零は呼び掛ける。


【反撃戦は、二隊に別れよう。ヴァレリーがランベールとシャルロットを率いて、俺がバルチアンとオルタンスを率いる】


【【【【【了解】】】】】


 小隊員から返事が返った。


 正面の兵団1000は、背後からリザーランド兵団の急襲を受けそれに対応するため反転している。六合兵団へは300程が、こちらを向き対していた。敵兵団は、前後を各500計1000のほぼ同数の兵団に挟撃される形となった。


 リザーランド兵団の攻勢は鋭い。エレノア駆るファブールを陣頭に、易々とルプスの壁を切り裂き陣列に割って入る。


 サブリナが陣頭指揮をとる六合兵団は、菱形の楕円形へと陣形を組み替えた紡錘陣形をとった。その突破力に優れた陣形で、六合兵団に備える300のルプスへと突進する。


 指揮下に組み入れたバルチアンとオルタンスに、零は呼び掛ける。


【味方の陣形から弾き出されるなよ。目の前の敵を抜けるとき、敵との交戦は一瞬だから、深追いはするなよ】


【分かってるって】


【敵陣突破。何か血が沸くわね】


 バルチアンとオルタンスが、それぞれ生意気に勝ち気に応じた。


 六合直卒小隊の位置取りは、副兵団長サブリナ率いる大隊の直近。その分、突破時の戦闘は苛烈だ。先頭のサブリナ駆るゲレイドが、300のルプスへと切り込む。それに続き兵団が。サブリナとその大隊が敵陣に楔を打ち込もうと戦闘は苛烈を極めた。すぐさま、大隊近くの零率いる直卒小隊も穿った穴を広げるため戦陣に加わる。


 正面に捉えたルプス二体を零のゲレイドは、一体を硬化型ラウンドシールドのシールドバッシュを加えるかに見せかけたフェイントで刺突を繰り出し仕留め、慌て斬撃を放つもう一体をゲレイドを屈ませ躱し切り裂いた。


 すぐさま零の両翼のバルチアンとオルタンスも、ルプスとの戦闘に加わる。


 叱咤を零は、高速情報伝達に乗せる。


【一撃で倒せなければ、無理に倒そうとはするな。後続に任せるんだ】


【仕留め損ねるかっての】


【黙ってみてなさい】


 バルチアンとオルタンスの二人らしい返答に、ふっと零は苦笑じみた思念を浮かべた。


 自信たっぷりな二人は言葉だけでなく、前方のルプスを第一エクエス相当のキャバリアーとしてのポテンシャルでもって、反撃を許さす屠る。


 零は更に撃破を重ね、後続の負担を減らしていった。突進しながらの攻撃に、バルチアンとオルタンスは流石に仕留め損ねるルプスも出て来たが零の言葉を守り置いていった敵機に拘泥しない。


 紡錘陣形の楔は敵陣に十分に浸透し、押し広げていった。二〇体近いルプスを零が屠ったとき、先頭集団が後衛のルプス300を抜けた。敵が分断される。零とバルチアンにオルタンスの小隊とヴァレリーとランベールにシャルロットの小隊も敵陣を抜けた。前方には、後背を晒すリザーランド兵団と交戦中の兵団主力のルプスが広がっている。


 高速情報伝達にサブリナの音律的な合成音声が、気迫を乗せ迸る。


【兵団各位、架空頭脳空間(オルタナスペース)にある兵団長の戦術プロットに従い後衛の敵陣を抜け次第陣形を散兵線に変更】


 六合兵団は高速で敵後衛を抜け、紡錘陣形をとっていた兵団はゲレイドを横に広く薄く展開した。前方には600程に数を減らしたルプスが、無防備な後背を晒している。


 号令一下、サブリナが合成音声を響かせる。


【六合兵団、突撃】


 六合兵団全軍が加速し、敵に襲い掛かった。零以下バルチアンとオルタンス、ヴァレリー以下ランベールとシャルロットも。


 零のゲレイドが光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを振るうだけで、反応が遅れた無防備なルプスの背が切り裂かれる。それは、他の兵団員も同様だった。零が一体二体三体……楽々七体を撃破する。一気に敵の数が減った。敵兵団の陣列が乱れる。後衛に託した無防備な背後を襲われ、前方ではリザーランド兵団が攻勢を強めている。指揮官の前後への対応が遅れたためか、各自で動きぶつかり合うルプスがあちこちで見られた。


 前方の敵が乱れたままなのを見て取った零は、現指揮下の二人に呼び掛ける。


【バルチアン、オルタンス。纏まれ。好機(チヤンス)だ。狩れるだけ狩るんだ!】


【おお】


【分かったわ】


 背後の六合兵団へ対し始めた敵へ、零以下三体のゲレイドが襲い掛かった。敵の動きは組織だったものではなく個人個人での判断だ。その分、応手に隙があった。零は小隊長機と思しきルプスへ突進し、それにバルチアンとオルタンスも両翼をつかず離れずで従う。


 フェイントを入れただけで、零のゲレイドは光粒子(フォトン)エッジを次元機関ディメンシヨン・エンジンのエネルギー供給ラインへ突き入れた。沈黙。


 零のゲレイドが隊長機に掛かると同時に左右のルプスに襲い掛かったバルチアンとオルタンスのゲレイドも、それぞれルプスを数合打ち合うだけで仕留めた。ルプス五体の小隊で残り二体も、バルチアンとオルタンスが撃破する。


 さほど時間を掛けることなく優勢に立った六合・リザーランド2兵団によって、中央の1000の兵団は打ち破られた。残り2兵団。


 逃げ散る残敵を無視し、零はエレノアへ高速情報伝達で呼び掛ける。


【エレノアはナイトリー兵団と敵を挟み撃ちに。俺はブレイズのところへ向かう】


【了解だ、零。総力戦、長くなりそうだな】


【ああ。馬鹿正直に戦えば、何日かかるのか考えると憂鬱になる】


 エレノアにそう答えた零だったが、言うほど戦場の空気が嫌ではなかった。

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