第三章 もう一人の皇帝 6
軽巡航艦ローレライ二の艦橋エリアを後にした零は、自室へと戻るため実用重視で質実さのある艦内廊下を歩いていた。
先程の会話を思い出し、零は一人ごちる。
「運次第、か」
それは、零が嫌うことだ。目的があるのならば知略を巡らし、それを実行する。己が掌握できぬ事象など、本来零が関わることではない。こと戦となれば尚更。もどかしく手が届かなかったなど、これまであったか。零はこの戦をコントロールできる立場にはない。唯々機会を待つだけなのかと、嫌な気分に襲われた。
ヴァレリー、サブリナ、オルタンス、シャルロット。四人の今後の命運が、その機会にかかっているのだ。だが、どうそれをたぐり寄せていいのやら、零は皆目見当がつかなかった。
だから、零は苛立つ。
「人の心の中なんて伏魔殿なら兎も角、戦でこんなことは初めてだ。さて、四人の為には是非ともその運とやらを掴み取らなければならないが」
それは大海の一滴を掬い出すような、ゴルディオスの結び目を解くような困難さだ。
ふと、廊下を歩いていた零はとある人物の姿に足を止める。休憩用のラウンジで沈んだ様子のシャルロットがテーブルに置いた紙カップのコーヒーを見詰めている。
その様に、流石に零は素通りできず声をかける。
「どうした、シャルロット。こんなところで?」
「零……母様のこと。まだ生きてるのかなって」
半ば己の言葉を信じず、零は慰めを口にする。
「ヴァレリーに聞いたけど、強いキャバリアー何だろう。だったら、まだ生きている可能性が高い。この戦にだって参加してるさ」
「気休めはよして。もう諦めているわ。三度の試練、生き残れるものじゃないわ」
「シャルロットは、そうして生き残っている。まだ健在な決死隊があることは聞いてる。別に慰めてるわけじゃない。可能性は低くはないって言いたかった」
「そうですね。只わたしだけ安全に生き残ってしまって、何て贅沢なんだろうなって」
辛そうなシャルロットに、零は前に向かわせようと今の立場を言い聞かせる。
「今からそんなことじゃ困るな。生き残るだけじゃない。戦後の自由も勝ち取らなければならない。その機会があれば、掴まなければ」
「母様が生き残っていたとしても、戦後惨めな生き方が待っているのに」
「ああ。シャルロットが自由を勝ち取れば、母親だって助け出すことだってできるかも知れないんだ。だから戦後の自由を勝ち取らないとな」
「気休めですね。でもありがとう、兵団長。わたし達の為に心を砕いてくれて。もう寝ます。それじゃ」
最後に少しだけ笑顔を見せてシャルロットは席を立ち、その場を立ち去った。




