↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第三章 もう一人の皇帝 4

「間もなく、ヌヴェア恒星系に到着。兵団群AI(マザー)に指定された座標に、ワープアウトします」


 指揮官シートに座す零の近くに座る秘書ふうヒューマノイド――軽巡航艦ローレライ2のAI(マザー)が、完璧な発音と抑揚で告げる。


「5、4、3、2、1、ワープバブル消滅。ワープアウト」


 ヒューマノイドが刻むカウントダウンと共に、艦橋エリア吹き抜けに投影された半球状のホログラムスクリーンが映し出していた前方に広がる波紋が霞み、亜空間の深い色合いをした虹のような光彩ではなく、闇が広がる通常空間にローレライ二は復帰した。周囲に続々と恒星戦闘艦が姿を現してくる。あっという間に一帯は、艦艇群が犇めいた。


 ヒューマノイドが続ける。


「デュポン兵団群艦隊ワープアウト。20秒後、伯星レーヌへ向け亜高速で加速」


 程なく軽巡航艦ローレライ2は他の艦艇群と共に発進し、すぐさま亜高速に達した。ここから伯星レーヌまで3時間ほどで到着する。伯星レーヌ周辺域へワープアウトしないのは、敵地でありいかなる備えがあるか分からないからだ。


 3時間近くが経過し総合指揮卓を兼ねるマルチファンクションテーブルに空間認識戦術マップが浮かび上がり、敵を示す赤い輝点が表示されると同時ヒューマノイドが告げる。


「敵艦隊発見。敵ヴァンシュラール伯爵領邦軍は、伯星レーヌ近傍に布陣」


◇◇◇


「オルタンス、シャルロット。敵第一エクエス・ヴァンシュラール伯爵騎士団は、200と総勢一八名の特務隊の10倍以上の兵力だ。当然、激戦になる。無理に敵を撃破しようとするな。もたつけば飲み込まれる」


 仄暗いコクピットの中、零は角度の浅いシートに身体を預け厳しい戦いが予想される作戦に臨む年少組の二人に声をかけた。


 ホロウィンドウに映るオルタンスとシャルロットは、流石に幾分緊張した面持ちで、それでも勝ち気に気丈に零の言葉に答える。


「そのつもりよ。こっちは乗り気じゃなかったし」


「了解です、兵団長。生存を優先します」


 返事に頷きつつ、零は二人の緊張を解そうと態度を砕けさせる。


「ま、これは別に二人だけに命じてることじゃない。俺達特務隊の役目は、敵第一エクエスを破ることではなく作戦中引き付け続けることだ。だから、後ろめたく思う必要はない」


「分かってる」


「はい」


 零の話が終えたところを見計らい、二人の面倒を見るヴァレリーがオルタンスとシャルロットに戦場での注意を与える。


「戦場では、わたしについてきて。無理には戦わないつもりだけど、二人とも上手く立ち回って。敵の数が多い。場合によっては、フォローに回れないかも知れないから」


「頼りにしてるわ、ヴァレリー」


「よろしく、ヴァレリー」


 内戦前から知り合いということもあるが、零に対するよりもオルタンスとシャルロットは打ち解けて答えた。


◇◇◇


 出撃。


 自立式整備(オートメンテナンス)ハンガーごと移動した零のゲレイドは、超電磁誘導チューブを一瞬で通り抜け漆黒の宇宙へ。続々と高速射出機構(HSIM)により、特務隊担当のゲレイドが軽巡航艦ローレライ2より射出されていった。


 デュポン兵団群の出撃は、二手に分かれる。主力兵団群の出撃後、第一エクエス相当のキャバリアーからなる特務隊が出撃。


 零と特務隊のゲレイド15体に、エレノアのファブール、ブレイズのランスール、ヘザーのナイチンゲールが合流する。総勢18体のグラディアート。零達特務隊の役割は、ヴァンシュラール伯爵騎士団200を引き付けること。その隙に主力兵団群で、3万の敵兵団を破る作戦だ。途中、特務隊は主力兵団群のグラディアート群を抜き先行する。


 デュポン兵団群は、特務隊が陣頭に立ちつつ進軍。予想では敵は第一エクエス・ヴァンシュラール伯爵騎士団を陣頭に立て、デュポン兵団群を粉砕しにかかってくる筈。


 デュポン兵団群は、敵軍に接近。ヴァンシュラール伯爵騎士団へ、特務隊が迫る。


 敵第一エクエス・ヴァンシュラール伯爵騎士団のグラディアート・エイブは、ミディアム・クラスのフレームを使用した機体で性能はファブールより若干上と予想される。ゲレイドと比べれば、強力なグラディアートだ。


 ヴァンシュラール伯爵騎士団200に、18体のグラディアートからなる特務隊が迫る。


 情報感覚共有(ISS)リンクシステムを介し、高速情報伝達で零は作戦の再確認をする。


【特務隊各位、敵勢はこちらの10倍強だ。味方兵団群が敵兵団群を破る間、敵第一エクエスを引き付けなければならない。グラディアートの性能は、敵勢が格段に強力。数の上でも機体の性能でもこちらが不利。無理に撃破しようとするな。味方兵団群が敵兵団群を破る間持ち堪えるんだ】


【零とブレイズ、ヘザー、サブリナ、わたしは積極的に敵グラディアートの撃破を狙うから、それに引き付けられた敵機の隙を狙うんだ】


【遊撃担当の俺達5人を、盾にして構わない。撃破されないよう、気をつけてくれ】


【敵の数が多いです。囲まれそうになったら、迷わず戦闘を放棄してください】


【無理に敵を倒そうとしないで。わたし達の役目は、敵第一エクエスを引き付けること。味方兵団群が敵兵団群を破るまでの生存が鍵よ】


 零の後を継ぎ、エレノアが内戦前ボルニア帝国で武勇を鳴らした貫禄で訓示し、ブレイズが気迫を声に乗せ、ヘザーが淑やかに注意を促し、六合兵団の副兵団長としてエレノア達を除けば特務隊を指揮してきたサブリナが普段通り指示を与えた。


 ヴァンシュラール伯爵騎士団のエイブが、至近に迫る。


 零はゲレイドを加速させ、特務隊と距離を離す。エレノア、ブレイズ、ヘザー、サブリナもそれに倣う。


 接敵。


 起動スタビライザーによる重力偏移を最大に。ゲレイドの背の推進システムは人間ならば肩甲骨の下から備えられ、推力偏向パドルに隠れ汎用亜光速推進機関の推進素子が並び、その最下部にあたる腰部に起動スタビライザーが設置されている。


 零が駆るゲレイドは、機体・ファントム性能で劣る中一体で多数を相手取ることを嫌い敵グラディアート・エイブを目の前に急激に軌道を変えた。だが、相手は第一エクエス。ファクトリー製ローエンドモデルのファントム・エイラを使用する零よりも、当然相手のファントムの方が性能が上だ。零の意図は、オルタナアライメント・プレコグニション・サイバニクスシステムによって増幅された未来予知(プレコグニシヨン)によって知られている。相手は零のゲレイドに合わせ機動した。


 が、それも計算の内である零は機動力で先回りするエイブへ、何気ない刺突を放つ。敵機は光粒子(フォトン)エッジ式ナイトリーソードで受けようとするが、零が放った光粒子(フォトン)エッジ式ブレードは滑らかに角度を変え直進したまま刃が相手の得物を流し、切っ先がエイブへと到達する。例え未来予知(プレコグニシヨン)で零の攻撃を承知していても、技量差による技には抗することができない。光粒子(フォトン)エッジ式ブレードは、エイブへと吸い込まれた。


 零が敵のグラディアートやファントム性能差で創意的に戦闘を行う間、エレノア、ブレイズ、ヘザー、サブリナはそれぞれ数機のエイブを撃破していた。同じゲレイドを駆っていても、サブリナの契約ファントム・キュベレはファクトリー製を超えるクリエイトル制作のファントムで、その中でも群を抜く存在だ。2年前ファントム系クリエイトルとして電撃的に登場したマクレガー博士が学生のとき試作したファントムで、聖帝国へ留学していたサブリナが契約したのだ。


 エレノア達の戦闘を視界の端に捉えた零は、ぶすりと毒づく。


【4人とも景気がいいな。俺と違って】


 エレノアのファブール、ブレイズのランスール、ヘザーのナイチンゲール、サブリナのゲレイドの戦闘を横目に、零は次のエイブへと意識を向けた。


 既に接近していたエイブへ、秘超理力(スーパーフォース)の一部を灼熱させソルダ諸元グレード・スピードAをSにグレードアップ。刹那の神速をゲレイドに課す。相手が既に振るっていた光粒子(フォトン)エッジ式ナイトリーソードよりも先に、零のゲレイドが振るう光粒子(フォトン)エッジ式ブレードがエイブへと達した。撃破。


 敵ヴァンシュラー伯爵騎士団は出鼻を挫かれ、そこへ残りの特務隊が雪崩れ込み損害を拡大させた。尤も執拗に撃破を狙うことはなく、一体を倒せばその場を離れる。既に二〇〇のヴァンシュラール騎士団は、一七五体に数を減らした。


 ――次――


 エレノア、ブレイズ、ヘザー、サブリナ等と遊撃攻勢を担当する零は、近くのエイブへと仕掛けた。機動に見える躊躇いに、俄に何が起きているのか分からない様子だ。格下だと思っていた主力兵団。が、その一部が己を狩る狩人の役割を果たしている。


 硬化型ラウンドシールドによるシールドバッシュのフェイントから、零は未来予知(プレコグニシヨン)で躱したエイブへ神速へ達した刺突を放った。次元機関《ディメンシヨン・エンジン》のエネルギー供給ラインを断ち切られ、エイブ沈黙。


 ヴァンシュラール伯爵騎士団は進軍を止め、零達特務隊の相手をし始めた。兵団群への戦闘へは参加せず、先ずは目の前の脅威を排除しようと。


 エイブは高性能な機体とはいえ、トルキア帝国のフォルネルやミラト王国のティグリスには、遠く及ばない。不利ではあるが、特務隊はゲレイドで持ち堪えた。


 ヴァレリー率いるオルタンスとシャルロットは、ヴァレリーがフォローに入り危なげなく立ち回っている。そのヴァレリーはといえば、零に遜色ない撃破率でエイブを葬っていた。


 零は高速情報伝達に、一人ごちる。


【俺も立場がある。らしいところを見せないとな】


 機体を煽った零のゲレイドは、エイブの中に突っ込んだ。前後から、エイブは光粒子(フォトン)エッジで襲いかかってくる。それを零は、正面のエイブの斬撃は硬化型ラウンドシールドで受け、後方へは光粒子(フォトン)エッジ式ブレードを脇に抱えるように突き入れた。背後のエイブが沈黙する。脇に抱えた光粒子(フォトン)エッジを返し、正面の硬化型ラウンドシールドで凌ぐエイブへ、得物が突き立てられた。二体同時に瞬殺する。


 他の特務隊の者達は、零、エレノア、ブレイズ、サブリナに集中するエイブの隙を突き、仕掛けていた。


 やはり、エレノア、ブレイズ、ヘザーの3人は別格で、我が物顔で戦場を暴れ回る。既に、ヴァンシュラール伯爵騎士団は、一三〇体を割っていた。その三人に次ぐ活躍を見せるサブリナも、縦横無尽の活躍を見せる。


 その間にデュポン兵団群はヴァンシュラール伯爵領邦兵団群を、数でもって三割近く削っていた。五万対三万の数の有利に物を言わせ、速攻を仕掛ける。


 更に一〇〇ほどに数を減らしたヴァンシュラール伯爵騎士団は焦り、特務隊へ遮二無二仕掛けてきた。が、それに零、エレノア、ブレイズ、ヘザー、サブリナは勇猛に応じる。が、他の特務隊は、甚大な被害を与えられてしまった。中破、大破多数。大破機は、最早戦力外だ。


 敵ヴァンシュラール伯爵騎士団の圧力に特務隊が限界を迎えたとき、敵兵団群が瓦解する。ヴァンシュラール伯爵領討伐戦は、デュポン兵団群の勝利に終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。