第三章 もう一人の皇帝 2
「前皇帝アイロス陛下が招き入れた二国は、ボルニア帝国領内から排除された。アイロス陛下絡みで残すのは、前皇帝派貴族。その討伐だけだね」
重厚な作りをした指揮官シートに座すモリスが、低くなったホールに集まった面々に語りかけた。
デュポン兵団群旗艦重戦艦ポトホリ・艦橋エリア・総合指揮所。大規模作戦会議を行うブリーフィングスペースを有する発令所前のホールには、デュポン兵団群所属の兵団長九二名とその随員が集められていた。前方が吹き抜けとなった艦橋エリア中央に位置する総合指揮所から見るポトホリの光景は、消灯後の巨大な劇場を連想させる落ち着いた雰囲気に満ちている。
今後の話し合いに招集された作戦会議で、まず兵団長の内エレノアが口火を切る。
「ミラト王国軍が敗れ、公星リールに集まっていた前皇帝派貴族達は、それぞれの領地へと逃げ帰った。討伐する側にとっては、数が数だ面倒極まる。が、わたしの立場からすれば、前皇帝についたからといって狩りの獲物よろしく狩り出すのは哀惜を禁じ得ない」
「それでもやらなければ、ヴァージニア陛下の御代は訪れない。戦意のない相手をいたぶるのは、愉快ではありませんが」
「前皇帝絡みは、これで仕舞い。終わらせる為には、けじめを付けるしかありません。勝ちに乗る味方は、残虐にもなるでしょうが」
ブレイズがエレノアの発言を受け、ヘザーが淑やかな声を響かせた。
少々底意地の悪い笑みを浮かべ、零が居並ぶ兵団長等に視線を走らせる。
「ま、幸い兵団群単位での討伐だ。デュポン兵団群長殿の徳が届く範囲なら、酷いことにはならないだろう」
「零君、徳って……申し訳ないが、僕もそれ程徳がある方じゃないよ。ま、及ばずながら後で恥じる戦とならぬよう、目を光らせはするが」
零に持ち上げられたモリスは、肩を竦めこれから対する敵に話を移す。
「我がデュポン兵団群が担当するのは、バンシュラール伯爵領」
デュポン兵団群は女帝の元を離れ、公星リールから恒星戦闘艦で六日ほど離れたヌヴェア恒星系に来ていた。
続けて討伐目標の情報を、モリスは話す。
「バンシュラール伯爵領邦軍、グラディアート3万。数の上では僕達の兵団群の方が上だが、伯爵側には第一エクエス・バンシュラール伯爵騎士団二〇〇がある。グラディアート・エイブも、主力兵団精鋭機ファブールよりも若干性能が上だ。敵兵団群のグラディアート・グリエールは、ゲレイド相当の機体。まともに当たれば手こずるか、5万の兵団群では敗北すらあり得る」
モリスの言葉を受けて、会議が進みやすいようエレノアが捕捉する。
「こちらは大小兵団群5万。主力機はパルパティア。ファブール2体。ランスール一体。ナイチンゲール一体。他はゲレイドか」
「こちらは数では勝るが、敵には第一エクエス・ヴァンシュラール伯爵騎士団二〇〇がある。まともに当たれば、3万の兵団群と相俟って負けはあり得る」
マルチファンクション・テーブルに表示されたヴァンシュラール伯爵領邦軍の陣容に厳しい視線を零は走らせ、ヘザーは精緻な美貌を慎重にする。
「第一エクエス200は、二万以上の主力兵団群を破ることが可能です」
「うん。二〇〇名もの第一エクエスを編成しているヴァンシュラール伯爵は、前皇帝派の中にあってその精強さを鳴らしていたからね」
モリスは頷き続ける。
「第一エクエスの発生率は、人口100億人に一人。伯星レーヌは700億の人口を誇りヌヴェア恒星系では一五〇〇億人を超えるとはいえ、現役の第一エクエスはキャバリアーの家計を除けば十数名ほどしか保持できない。予算を軍事費に充て、雇い入れたのだろう」
国境惑星ファルから手柄を上げ続け女帝に目をかけられているモリスが担当したのは、敵の精強さの為だ。モリスならば、策で打ち破るだろうと。
顎に手を遣りブレイズが、総合指揮卓上に表示されたヴァンシュラール伯爵領邦軍の第一エクエスと主力兵団が表示された輝点を離す。
「特務隊を編成する必要が、あるっすね。第一エクエス相当のキャバリアーからなる」
「そうだな。いたずらに主力兵団が第一エクエスに当たっても、被害を大きくするだけだ。特務隊は、零、ブレイズ、ヘザー、わたしと六合兵団の第一エクエス相当のキャバリアーから編成するのがいいだろう」
ブレイズの後を継いだエレノアが具体化し、モリスが頷く。
「それで行こう」




