第三章 もう一人の皇帝 1
わたしの迷いは少女の言葉で霧散し、新たに現れた敵に心が奮い立った。
――戦場の執行者の唄
太刀タイプの摸擬剣とナイトリーソードタイプの摸擬剣が、打ち合わされる。
後方へ軽く飛び、零は相手するオルタンスへ鋭く突きを入れ、オルタンスはそれを摸擬剣で流す。
軽巡航艦ローレライ二内練武室。
12組は同時に立ち会える広々した部屋で、壁面は怪我を防ぐ為吸収素材となっている。隣室はトレーニングルームで、透過素材で仕切られていた。居住環境に重点を置く恒星間を移動する恒星戦闘艦は、長距離と長時間の航行に備え、グラディアートや機械兵ユニット群のペイロード以外に汎用亜光速推進機関に加え超光速航法の為の亜空間航行推進機関の2機関搭載と、十分なスペースを確保した居住ブロックとで巨艦となりがちだった。トレーニングルームや練武室にスペースを十分に割くのも、長期間宇宙を航行する恒星戦闘艦の乗員がストレスに晒されないための環境作りの一環だ。
零はその練武室に、サブリナ、ヴァレリー、オルタンス、シャルロットを誘い5人で鍛錬に励んでいた。尤も真剣に研鑽しているというよりは、肩慣らしのような緩やかな動き。
零は肩口にダックブルー色を配したスポーツタイプの黒色のアウターと同色のレギンスにショートパンツを重ねた強化繊維の布鎧でできた訓練服に身を包み、対するオルタンスも肩口がアンバーローズ色をしている以外零同様の出で立ちだ。
摸擬剣と摸擬剣を打ち合わせる合間、零は4人を鍛錬に誘った目的を口にする。
「このままだと、戦後4人の未来は愉しいものじゃない」
「そうでしょうね。他の決死隊は免罪されるけど、わたし達は……」
答えるオルタンスは途中で口ごもり摸擬剣を撃ち込み、シャルロットが後を継ぐ。
「生き延びられればいいのか、正直わたしには分からない。戦後、死にたいような惨めな生き方はしたくないわ」
「まだ、内乱は終わっていないわ。とはいっても、わたし達が免罪されるほどの戦功となると……」
シャルロットに答えるヴァレリーも普段の歯切れの良さはなく、具体的な話をできず尻すぼみになってしまい、話を別方向へと変える。
「家族のこともあるわ。わたしのお母様は、決死隊には墜とされなかった。それは、オルタンスも同じでしょう? シャルロットのお母様は、キャバリアーとしての実績から危険視されてしまった」
「……お母様……」
シャルロットの美貌が曇り、サブリナが話題を変えるようにやや声を大きくする。
「ゲレイドっていうのが、もどかしいわね。戦功を立てるなら、インプリスクラスの機体が欲しいわ。敵の第一エクエスのグラディアートに対抗できるような」
「そんな待遇が期待できるなら、こんなことで悩んでないだろう? 腕でカバーだな」
サブリナの無い物ねだりに零は呆れ、ヴァレリーがどこか思案に沈む。
「わたし達の運命を覆せるような、戦功を上げなければならない。けどそれは難しい……本当にそうしなければいけないのかしら?」
小首を傾げるヴァレリーに、サブリナは訝しげにする。
「お嬢様?」
「何でもないわ」
どこか夢から醒めたように、ヴァレリーは首を振った。




