第二章 乱流 11
零はエレノアやブレイズ、ヘザー、モリス等と共に、女帝ヴァージニアの私室のリビングにいた。ヴァージニアの居室を零が訪れるのは、これで六度目だった。重戦艦アルゴノート艦内で最上位の居室。始めから皇帝の為に設計された部屋で、若い女帝の趣味らしく贅を尽くしながらも華美になりすぎない年若い雰囲気に纏められている。ベージュの壁とアイボリーのソファが自然な印象を織りなし、どこかピンと張った空気が気を引き締める部屋だった。
部屋に集まったメンバーはそうそうたるもので、ボルニア帝国皇帝ヴァージニアを始め7道教のアークビショップたるルナ=マリー・アレクシア、ボルニア帝国宰相ブノア・ド・ルベッソン、ベルジュラック大公にして西方鎮守府将軍ジョルジュ・ド・ベルジュラック、オルデン・エクエス総司令マリウス・ド・ドゥランがテーブルを囲むソファに座していた。
この面々が集められたのは、鹵獲したミラト王国軍ボルニア帝国派遣群旗艦から結社アポストルスとの密約書が発見されたからだ。ルナ=マリーとの関係と古代兵器運用艦ギガントス撃沈から、零達5人も無関係とは言い難く、話し合いに呼ばれたのだ。
発見された密約書から推察されるのは、銀河全土に渡る結社の陰謀。世界の門を開き、創造世界と現世とを再接続する為の。
セミロングの白髪で縁取られた普段は屈託のない美貌を、ルナ=マリーは訝しげにする。
「1年半前に光の導き手が復活したラ・ネージュ聖王国にも言及があり、ジョン・アルフォードにより結社の計画が遅延したとの記述があります。彼は復活した光の導き手を討った大罪人。それが、どうして結社の計画の遅延に繋がるのか?」
「結社の目的は、世界の門を開くこと。この世界には存在しないハイパー級やメガ級のインテリジェンス・ビーング群に人類が支配された神代に戻すことだ。光の導き手はその妨げとなるはず」
形のいい頤に人差し指の甲を宛がい、ヴァージニアは思案顔をした。
老宰相ブノアが、相槌を打つ。
「確かに。創造世界との再接続を望む結社にとって、光の導き手は邪魔な存在。それを倒したのが、ジョン・アルフォード。結社にとって渡りに船で、ジョンに感謝するのが道理」
「ふん。怪しげな結社が画策することだ。よからぬことを企んでいたのだろうよ」
偉丈夫たるベルジュラック大公ジョルジュが猛々しさを秘めた声を吠えるようにし、オルデン・エクエスの宿将マリウスが忌ま忌ましさを口調に滲ませる。
「よからぬことでしょうな。かの結社は、ラ・ネージュ聖王国でも何やら謀をしておったのか?」
「正義の存在たる光の導き手を何らかの形で利用するつもりでいたとなると、深淵で糸を引くように盤面を掌握していたのでしょうか?」
普段は飄々としたモリスがどこかしら薄ら寒そうにし、それを打ち払うようにエレノアが凜と声を響かせる。
「そのように思うことこそ、アポストルスの思う壺。さも、ないことをあるように我らに疑心暗鬼を抱かせる。光の導き手は正義の存在、それを討ったジョン・アルフォードは悪。それだけのこと」
「その通りっすね。その密約書だって怪しい。書いてあること全てが全て本当のこととは限りません。この銀河で謀を巡らせてきた連中っすから」
エレノアの言葉にブレイズが同意を示し、ヘザーは精緻に整った面を訝しげにする。
「決めつけは禁物です。結社の企みは、分からぬのですから。ジョン・アルフォードが光の導き手を倒した。それが結社にとっては痛手だった。悪の存在ジョン・アルフォード。果たして、真相はどうなのか?」
「わたくしは、もしかしてジョンは結社の一員なのではないかと考えていました。何故なら、結社の障害となる光の導き手を倒したのですから。ですので結社の考えていることが矛盾していて、どういうことなのか分からないのです。一体、1年半前、ラ・ネージュ聖王国で何があったのか? ジョン・アルフォードの凶行が結社の計画を遅らせたとはどういうことなのか……」
微かに煩悶を見せるルナ=マリーの様子に、それまで押し黙っていた零が口を開く。
「今分かっていることを幾ら考えても、全く憶測の域を出ない。真相を知っているのだろうジョン・アルフォードは創造世界にある地獄の門にあり、死んだも同然」
「ふむ。巡礼者の申すとおり分からぬことを幾ら考えても埒があかぬ。ボルニア帝国の内乱に、今後も結社が関わるのならその奸計を破るまでのこと」
ヴァージニアの宣言に、ルナ=マリーは注意を喚起する。
「ヴァージニア陛下、結社の行動はボルニア帝国一国に関わらず銀河全土に及ぶのだということを、ご留意ください」




